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黒木名波ファンクラブの存在意義

わざわざ薄暗くされた部屋の中に、9人の会員と2人の幹部、そして会長が集まっていた。


「今日の議題はこれだ」


会長が手短に挨拶を済ませたあと、女性幹部から会員達に一枚の写真を見せた。

携帯で撮られたとおぼしきその写真には、駅前で名波が隆に土下座させられている姿が写っていた。


「なんだこれは・・・」

「また相沢隆か・・・」

「あいつだけは許さない・・・」

「口の中に雪を詰め込んでやる・・・」

「なら俺は靴に画鋲を・・・」


会員たちは穏やかじゃない言葉を呟きながら写真を見ている。


「皆聞いてくれ。なにかと思う点があるとは思うが、私はこう考えた。・・・もしかして名波姫は『M』なのではないか、と」


まさかの発言に静まり返る会員たち。


「会長。言葉を選んで話してください」


すかさず男性幹部のフォローが入る。

その言葉で、我を取り戻した会長が口を開く。


「あぁ、すまない。少し疲れていて変なことを口走ってしまった。聞かなかったことにしてくれ」


会長の発言が狂言だったことに安堵した会員たちは、ハァと息を吐いた。

そしていつものように、会長は名波をどれだけ思っているかを熱く語ることによって、自分を取り戻した。

会長を含めたファンクラブのメンバーは大抵が父性本能をくすぐられるということで、名波を娘のように崇めては守っている。つまりは名波の『恋人』ではなく『父親』になりたいのだ。

もしもその関係になるということが『交際』と呼ばれるものになるのならば、喜んでOKするが自分たちからは絶対に攻めてはいけないのだ。お父さんが娘に告白するわけにはいかないのと同じ原理である。

しかし親バカな父親として娘を愛しているので、娘の害になるようなものは取り除くのが普通である。


「というわけで、本格的に相沢隆と木下拓馬を取り除きにいこうと思うのだが、皆はどう考える?」


幹部二人と話し合って決めた内容を会長の口から会員たちに伝える。

会員たちは明らかに動揺していた。


「取り除くって・・・名波姫のほうから近づいて行っているようにも見えるんだが」

「最近の名波姫は楽しそうだよな」

「わかるわー。なんか笑顔が今までよりもなんつーか・・・かわいいよな」

「ちょっと待てよ! あの土下座見なかったのかよ! 道の真ん中で土下座はダメだろ!」

「そうだけどさ・・・」

「でも名波姫の笑顔を守るのが俺たちの使命だろ?」

「もしかしたら俺たちってもう必要ないんじゃないのか?」

「「「 !?!? 」」」


一人の会員の発言によって再び部屋の中が静まった。

その発言を聞いて男性幹部は考える。


『・・・俺と同じ考えを持っているものがいるとは思わなかった。確かに俺たちは「清く正しく裏方に」をテーマとして活動してきているが、それは名波姫に普段通りかつ平和に学校生活を過ごしてもらうために掲げたテーマだ。しかし最近の名波姫は会員たちの言うとおり、楽しそうだ。そんな名波姫の学校生活の邪魔をしていいのだろうか? もしかしたら俺たちも親離れならぬファンクラブ離れをする時期なのではないだろうか?』


男性幹部は会長のほうを見る。会長自信は、名波の『笑顔を守りたい』というよりも『悲しい顔を見たくない』という気持ちで動いているため、男性幹部の考え方とは少しづつだがズレが生じ始めていた。

また、女性幹部も二人とは別で『名波が好き』という私事で動いているために、さらにズレまくりである。

つまり上層部三人の考え方が微妙に違っているのだ。それがやっと会員たちに伝わったのかわからないが、今回の発言へと繋がったというわけだ。


「会長」

「ん? 男性幹部、どうした?」

「今日はここでお開きにしませんか?」

「なぜだ?」

「会長も気づいているはずです。このまま話し合いを続けていても答えは出てこないということが。なのでこの話についてまた後日、集会を開いて話し合うというのはどうでしょうか?」

「うぅ・・・」


言葉に詰まる会長。元々、会長は男性幹部に弱いのだ。

創設者仲間であると同時に、仲の良い友達なのだ。その友達にそんなことを言われてしまっては、頷かざるを得ない。


「・・・わかった。ここが分岐点なんだな。・・・皆、今日は解散とする。各自、今後も活動をするかどうかを考えてみてくれ。では解散」


足取り重く部屋を出ていく会員たち。その集団の最後に女性幹部も続く。

そして部屋には男性幹部と会長だけになった。


「春樹。ちょっと話さないか?」

康人(やすひと)・・・」

「お前だってもう気づいてるんだろ? このファンクラブが名波姫・・・いや、名波ちゃんにとって必要なのかどうか」

「うん。少し考えてはいたさ。・・・そうだな。話すことがたくさんありそうだ。何か飲むか?」

「酒がいいな」

「未成年が何を言うか。お茶でいいだろ?」

「任せるよ」


そう言って冷蔵庫のあるキッチンへと向かう春樹の背中を、生徒会長であり『黒木名波ファンクラブ』の幹部という裏の顔を持つ楠田康人(くすだやすひと)は、座椅子に座りながら見送った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。


主人公達はお休み回です。

次回も引き続き、ファンクラブの話です。


次回もお楽しみに!

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