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黒木名波ファンクラブ

「それでは会長、お願いします」


ここは北海道某所にある黒木名波ファンクラブ本部。とある1LDKのマンションの一室にその本部はある。

部屋の中には9人の会員と呼ばれる男達が、行儀良く3×3で整列して三角座りで座っていた。その整列している男たちの前には、女性が一人、男が二人立っている。

その中の女性に会長と呼ばれた男の一人が、全員の前に立って話し始める。


「えー、本日皆に集まって貰ったのは他でもない。まずはこれを見てくれ」


そう言うと、もう一人の男が持っていたiPadを指さす。そこには今日の学校帰りにファンクラブの会員が撮影したであろう映像が流れ始めた。

一通り流れ終わると、会長が話を再開する。


「今見てもらったのは、今日の学校帰りに名波姫を尾行していた会員が、例の二人組によって捕獲されてしまった名波姫とともに追いかけられたのを、この幹部が撮影したものである」


幹部と呼ばれた女性は小さく頭を下げた。


「君はこの映像を見てどう思う?」

「滑稽だと思います!」


質問を振られた会員の一人が素早く元気に答える。


「そうだな。普通ならば尾行がバレた彼らをそう思うかもしれない。しかしここで注目すべきは名波姫の表情だ!」


力強く握り締めた拳を天井へと掲げる。


「名波姫の表情を見てみろ! 今にも泣きそうではないか! これは我々の母性本能・・・いや父性本能をくすぐられはしないか?」

「たしかに・・・」

「これはそそる!」

「守ってあげたい!」

「泣いたらダメだー!」


会長が指摘すると、会員達が口々に声を上げる。

この『黒木名波ファンクラブ』とは、名波がいつも拓馬と隆にいじめられていることをきっかけに発足されたもので、名波の可愛らしく愛嬌のある笑顔や美しい表情を守りたいが一心で集まった会員によって構成されており、構成員は、会長、幹部・男女各1名、会員・9名の計12人からなるものである。もちろん全員が名波や拓馬、隆と同じ高校の人間である。

主な活動としては、名波を遠くから観察し、名波に近づく害敵を近づけさせないようにすることである。

しかし、名波に寄ってくるものは対処できるのだが、名波本人から近づいていってしまっている拓馬と隆の二人には、ファンクラブのメンバーも頭を悩ませていた。

そんな時に起こった今日会員の数名が襲われるという事件。

たまたまその現場に居合わせた女性幹部が撮影していたので、それを題材にして話し合いの場を設けたのであった。


「さて、ここからが本題だが、この二人に関して何か得策がある者はいないか?」

「・・・はい」


そう問いかけると、会員の一人がおずおずと手を挙げた。


「その二人に何か名波姫に近づかないようにと警告をするのはどうでしょうか?」

「警告か・・・」


普段ファンクラブのメンバーが害敵を近づけさせないようにはする方法としては、近づこうとしている人間に声をかけて近づくタイミングをなくしたり、名波の近くで立ち話をして自分たちのからだでバリケードを作ったりしている。主に『さりげなく』することが基本だった。


「しかし警告をしてしまうと、もしかしたら二人から名波姫の耳に入ることがあるのではないか?」

「でもこの状況は明らかに異常だ!」

「このままでは名波姫がかわいそうだ」

「早く手を打つべきだ」

「いやここは慎重に・・・」


会員達があーでもないこーでもないと議論を始めた。その様子をじっくりと眺める会長。

その会長に男性幹部が小声で話かける。


「どう思いますか、会長」

「たしかに警告をするのもいい案だと思う。しかし我らのモットーである『清く正しく裏方に』を破ってしまうことになるのは避けたい」

「つまり警告をするのには反対ということですか?」


うむ、と頷く会長。そのことを男性幹部が議論でヒートアップしている会員に伝える。

少しガッカリする最初に警告の案をだした会員派数名と『当たり前だ』と言わんばかりに胸を張っている数名の会員。残りの他の会員はどちらとも言えないような気持ちだったらしい。

会長と幹部達同様、会員達もこの二人のことをなんとかしないといけないことは重々分かっている。

しかし具体策がないのだ。どうしたらいいのかということで皆が日夜頭を悩ませている。

そして訪れる沈黙。こんな時は天使が近くを通っている瞬間らしい。


「会長。ここは一つ、私の考えを聞いてもらってもいいですか?」


そう言って天使ごと沈黙を切り裂いたのは女性幹部だった。

男性幹部は、ファンクラブ創設者である会長と共に創設したこともあり幹部という立場にいるが、この女性幹部は、唯一の女性会員でありながら名波を思う気持ちが半端なく強いことと、名波に一番近い存在ということもあって、幹部として他の会員よりも上の立場に立っている。つまり実力で幹部になったのである。


「どんな案だ? 言ってみろ」

「それはですね・・・ごにょごーにょごーにょごーにょ・・・と言う作戦です」


他の会員たちにも聞こえるように説明する。


「ふむ」

「それは良い作戦だ!」

「さすが女幹部!」

「そこにシビれる憧れる!」

「考えることが違うぜ!」


大声で女性幹部を褒め称える会員達。

その瞬間。

ドンッ!!


「うるせぇぞ! 静かにしろっ!」


あまりに騒ぎすぎてしまったためにお隣さんから壁を叩かれた上に、壁の向こうから罵声まで浴びせられてしまった。

全員が静まり返った。

こんな状況でも天使は通るのだろうか?


「では明日女幹部の作戦を実行に移す。今日はこれで解散だ」


会長がそう言うと、また騒いで怒られないように、静かに行動して部屋を出ていく会員と幹部達。

そして部屋には会長ただ一人になる。

部屋の主である会長こと吉永春樹(よしなが はるき)は、まだ見たことのないお隣さんに恐怖を抱きながら、コップに冷蔵庫から出したお茶を静かに注いで喉を潤した。

そして冷静になった春樹は心の中で考える。


『なんかさっきは勢いでイケる! とか思っちゃったけど、女幹部の作戦・・・失敗しそうだな』


春樹は二人の関係と名波の関係を思い出しながらそう思った。

ファンクラブ会長は意外と冷静で気弱な人間でした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が半端なく高まります。


今回はファンクラブの話でした。

実は三人と同じクラスの会員もいるのですが、それは秘密集団なので誰が会員なのかはわかりません。

名波姫を護るはファンクラブの使命!


では次回もお楽しみに!

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