事件発生?
テストまでの約1週間、隆は鬼教師として名波と有紀に数学を中心に勉強を教えた。拓馬は勉強会には参加するが、結構な確率で勉強はせずに携帯をいじったりしてサボっていた。
そしてテスト前日。
さすがにこの日は勉強会をするはずがなく、隆も自分の勉強があるということで、放課後に集まることはなく解散していた。
名波は掃除当番のため、拓馬と隆の二人で下校中です。
「拓馬」
「言いたいことはわかるけど、なんでしょうか?」
「お前本当に今回大丈夫なのか?」
「ギクリ!」
「お前なぁ。隠すのもいいけど、ちゃんと勉強してるんだよな?」
「少しづつだけどやってますよぉ。だって今回は隆が教えてくれないんだもん」
「俺のせいにすんな」
この会話の意味がわからない皆様に説明させていただきます。
実はテストの度に拓馬は隆に勉強を教えてもらっていたのです。
拓馬は努力することが嫌いなのではなく、努力しているところを『見られるのが』嫌いなのである。なので、学校ではフラフラしているように見せかけて、裏ではちゃんと勉強してテストに挑んでいた。そしてテスト1週間前になると決まって隆に勉強を見てもらっていた。
しかし今回の名波からの提案で勉強会が開かれてしまったために、隆から勉強を教わることができなかった拓馬は、家に帰ると自力で勉強に励んでいた。一夜漬けだけで覚えられるわけがないではないですか。
「で、どうする? このあと勉強教えるか?」
「え、マジで? 俺としてはそのほうがいいんだけど、隆も勉強しないといけないんだろ?」
「まぁそうだけど・・・」
「じゃあいいよ。今回は自力でなんとかしてみせるさ」
「拓馬の学力でどこまでできるのか期待しておこう」
「誰のマネだよ」
そしてテストの全日程が終了。
そして燃え尽きた拓馬。机の上に突っ伏してテストが終わった喜びをかみしめていた。
隣の席の隆が声をかけた。
「どうだった?」
「今回はマジでギリギリかもしれん。隆は?」
「多分いつも通りだと思う。数学は満点かもしれない」
「くそ・・・毎回そう言っておいて、凡ミスで満点逃しばっかりしてるくせにー」
「そこは言わない約束だったろ」
「はいはい。じゃあ帰るか」
拓馬と隆が立ち上がり、帰ろうとしたとき事件が起きた。
「木下君!」
拓馬と隆の前に一人の女子生徒が立ちふさがった。別に邪魔をするために出てきた訳ではないのだが、両手を横に広げて、行く手を阻んでいるためにそう見えてしまう。
驚いた拓馬と隆はそれぞれ互いの顔を見合わせてからその女子生徒を見た。
拓馬は黒タイツを履いているかどうかの確認。隆は『こいつだれだっけ?』という意味合い。
残念なことにその女子生徒は黒タイツを履かずに、黒いニーソックスでした。ニーハイとタイツとでは、箸と橋ぐらいの違いがあります。
「何か御用ですか?」
呼ばれた拓馬が尋ねる。すると慌てていたのか、知らずに伸ばしていた両手を引っ込めるともじもじしながら答えた。
「あの・・・ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「俺に?」
自分のことを指さして首を傾げる拓馬。隆は察したらしくニヤつく顔を全力で制御していた。
「うん」
「何?」
「えっ! その、ここじゃちょっと・・・」
「でも俺これから隆と帰るところだしお腹減ったし」
「行ってこいよ。教室で待ってるからさ」
「うーん・・・じゃあ行ってくるわ」
そう言って隆を置いて教室を出ていく拓馬。拓馬にとって、黒タイツを履いていない女性は誰が誰だかわからないのだが、それを知らない女子生徒は顔を赤くしながら拓馬の前を歩いている。
そして誰も来ないことで有名な西階段の水飲み場まで連れてこられた。
ここまでの道のりで、拓馬が呼び出しをうけた理由として考えた結果、行き着いたのが『報復』であった。
自分の知らないところで、黒タイツじゃない生徒にいらないことを言ってしまったために、こうして人気の無いところに連れてこられたのだと思った。ホントにバカですね。
前を歩いていた女子生徒がくるりと振り返り、拓馬と向かい合う形になった。
「こんな人気のないところにつれてきて何か用?」
平常心を保ちつつも伏兵がいるのではないかと警戒をしながら、女子生徒に理由を聞く。
「えーと・・・頑張れ私。よしっ。・・・私、木下くんのことがずっと好きでしたっ! 付き合ってくださいっ!」
「・・・・・・え?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
拓馬のターンは書いてて楽しいです。
みんな書いてて楽しいんですけどね。
次回もお楽しみに!