お勉強会
「なんで竹中もいるんだ?」
「私が誘ったの。別に一人ぐらい増えたって問題ないでしょ?」
「なら竹中は多めに見てやろう。で、あんたはなんでいるんだ?」
「相沢君! 先輩にあんたは無いじゃないですかっ」
「じゃあなんで先輩がここに居るんだよ!」
「僕はこれから受験だから、今のうちに2年の頃の復習がわりにと思ってね」
「思ってね、じゃねぇよ。この時期から復習とかおせぇだろ」
「まぁまぁ。隆もそれぐらいにしておけって。今日が最初で最後だと思えばいいじゃん」
火曜日の放課後。
隆達3人の勉強会には、名波が誘った有紀に加え、何故か春樹がいた。
春樹のことを忘れている人のために簡単に言うと『黒木名波ファンクラブの微妙に不憫な会長の吉永春樹』です。これで復習はバッチリですね。
春樹は有紀から仕入れた情報で今日の勉強会のことを知った。久しぶりに名波姫と交流したいと考えた春樹は、思い切って勉強会に参加してみたのです。明らかに力を入れるところを間違えてます。
しかも名波とは完全に初対面である。ファンクラブも非公認なので、バレると少し問題があるのだが、それ以前に『清く正しく裏方に』をモットーに掲げていた会長が、こんなに行動的でいいのだろうか?と有紀は考えていたが、『会長のことだから何か裏があるのだろう』と思っていた。
「わかったよ。今日だけだからな」
「ありがとう」
「なぁ隆」
「なんだよ」
さっきのやりとりで機嫌が悪い隆に拓馬が問いかける。
「ところでこの人誰?」
「あ、私も知らない。相沢の知り合い?」
拓馬に便乗して名波も手を上げながら言う。
「あ、私の部活の先輩です」
「3年の吉永春樹です。よろしくね」
「へぇー」
「有紀ちゃんって部活やってたんだー」
聞いておいて今にも鼻をほじりそうなテンションで興味無さそうに相槌を打つ拓馬と、違うところに食いついた名波に向かってとりあえず自己紹介をした春樹。心の中では色々と言っていますが、誰もテレパシーを使えるわけではないので聞こえません。
「こら。勉強するんだろ。言い出しっぺがペチャクチャ話すな」
黒板の前に立った隆先生が持っていたチョークで名波を指した。今日は隆先生が黒板を使って、数学を教えてくれるのです。生徒と化した残りの4人は一番前の席に廊下側から拓馬、名波、有紀、春樹の順で座っている。補習みたいな雰囲気です。
「で、どこがわからないんだっけか?」
「えっと・・・あの角度求めるやつとか苦手かも」
「はぁ? あんなのもわかんないのかよ」
「・・・ごめんなさい」
隆の高圧的な言葉に思わず謝ってしまった名波。拓馬も有紀も春樹もただ見ていることしかできなかった。
なぜなら『機嫌が悪い+普段からスパルタ』というこの二つを兼ね備えた隆は鬼教師となっていた。暴言や罵倒は当たり前で、チョークが砕けるほど黒板にチョークをぶつけていた。しかし、教えていることは的確でとても身に入る授業だった。
4人はウンウンと頷きながら、ルーズリーフに文字やら図形やら数字を書き込んでいった。
「だからここはさっき言った公式を当てはめれば簡単に出来るだろ。いい加減に学習しろよな」
「はい。ごめんなさい」
「何回言えば気が済むんだよ。馬鹿が。ここで計算ミスしてるからいけないんだろ? ケアレスミス一つで全部の式が間違うことになるんだからな」
「はい。気を付けます」
「もうお前に教えたくない」
「相沢君。先輩の一生のお願いだからここだけ教えてください!」
「だったらかけ算ぐらいまともにやれっ!」
「なんか飽きてきたなー」
「お前もう帰れよ」
日も暮れて、最終下校時刻の校内放送が流れ始めて勉強会が終わることには、隆のストレスもある程度発散されていて、いつもの調子が戻ってきた。
名波と有紀はとても参考になったと隆先生にお礼を言っている。拓馬は途中から携帯をいじって遊んでいた。春樹は真っ白に燃え尽きていた。まるで石灰で出来ているかのように真っ白だった。
春樹は勉強が苦手では無い。ただ数学が苦手なのだ。暗記するだけで高得点が狙える他の教科と違い、数学は自分で答えを導き出さなければならない。隆はそこが好きなのだが、春樹はそこが大の苦手だった。
今日の勉強会で、隆先生のスパルタ授業について行けなかった春樹は、全力を使い切って放心状態になっていた。
同じファンクラブの有紀は、名波と共に勉強出来たことに感激していて、会長である春樹のことなど気にかける余裕がなかった。あわれなり会長。
「さてと。勉強会も終わったことだし帰りますか」
「お前はもう参加するな」
「だって全然わかんねーもん」
「・・・ホントに木下って点数取れてるの?」
不審に思った名波が隆に問いかけた。
「こいつ、勘が鋭いのかなんなのかわかんねぇけど、狙って覚えたところがほとんど出るんだ。超能力者の域に達してるぞ」
「何それ。相沢よりも木下に聞いたほうが点数取れそうな気がしてきた」
「まぁ元々記憶力がいい拓馬だからできる芸当だけどな。前日のギリギリになるまでホントに何もしないぞ。火事場の馬鹿力ってやつだな」
「・・・私は相沢の勉強のほうがいい気がする。記憶力悪いし」
揃って教室を出た5人は、そろって玄関を出て、途中バス組のファンクラブ2人と、電車組の仲良し3人の2組に別れて帰路についた。
拓馬の意外な能力と春樹の学力がよくわかった勉強会でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
最初で最後の会長自らの出陣でした。
次回もお楽しみに!