学力の差
「そろそろ機嫌直せよー」
「ごめんって何回も謝ってるじゃん」
そろそろ帰ろうかと話をしている最中にも隆の機嫌は直ることは無かった。
よほど悔しかったのでしょう。
「黒木が悪ノリするからいけないんだぞー。もうキスでもなんでもして機嫌取りしろよなー」
「なんで私のファーストキスを相沢にやらないといけないのよ! 私のファーストキスは王子様みたいな人とするって決めてるんだからっ!」
「・・・お前、王子様って・・・」
ようやく隆が口を開いた。しかしほぼ悪態である。
「別にいいでしょ! 理想は理想なんだから!」
「お前はあんな白タイツの人間がいいのか? 拓馬よりもひどいぞ?」
「理想の人物像を変態の趣味と一緒にしないでくださいっ」
「俺の趣味をとやかく言わないでくださいっ」
なぜか巻き込まれた拓馬も加勢し始めた。
「まったく、もう少し現実味をもった理想にしてみたらどうなんだよ」
「じゃあ相沢の理想はどうなのさ」
「俺か? 俺はもう少し落ち着きのある人がいいな。一緒にいて疲れない人が好みだ」
「うわー、なんか地味」
「地味ってなんだよ。結構一般論だろよ」
「ねぇねぇ! 俺には聞かないの?」
「だって・・・ねぇ?」
「あぁ。お前の場合、『素敵な黒タイツの足を持っている人』とかだろ?」
二人で顔を合わせたあと、適当に隆が答えた。
「なんでわかった!?」
「わからない方が不思議だよ」
「木下ってホントにわかりやすいね」
「人を単純人間みたいに言わないでくださいー」
「どう考えても単純人間じゃねぇか」
アハハハと笑い、よっこらせと立ち上がる拓馬と隆。
「じゃあ俺ら、そろそろ帰るわ」
「そっか。ありがとね」
「明日は学校来るんだろ?」
「うん。二日も休んだら、授業に遅れちゃうしね」
「そろそろテストだしな」
「ねー。テストってめんどくさいよねー」
「だよな。無くなってしまえばいいのに。・・・拓馬?」
隣で驚愕の表情をしている拓馬に隆が声をかけた。
まぁなんとなく察しはつきますよね。
「・・・テストのこと忘れてた」
「・・・マジで?」
「マジで」
やっぱり忘れてやがりました。
隆達の学校は、12月の中旬に定期テストがある。クリスマス前にテストがあるのは、学校側のささやかな配慮なのかもしれない。でもクリスマスにはもう冬休みになってるんですけどね。
そんなこんなで一ヶ月ぐらい前からきちんとテスト勉強をコツコツと続けていた隆と名波とは違い、勉強嫌いな拓馬は全く勉強をしていなかった。
「まぁどうせ一夜漬けだから問題ないけどな」
「ホント、一夜漬けでアレってすごいよな」
「えっ? もしかして成績上位者だったりするの?」
一夜漬けでものすごい成績が取れる思った名波が聞いた。
「は? そんなわけねーだろ。それで上位に食い込めるんなら、俺たちは総理大臣か大統領だよ」
「そうそう。取れても70点ぐらいが最高だっての」
「70点っ!?」
一夜漬けの本気を見た名波だった。一夜漬けで70点はとても凄いことなのに、なんでもないように話す二人は、名波から見るととても異常だった。
「70点で微妙ってどうなの!?」
「は? 70点取ったって大体真ん中ぐらいだろ? 平均点ってとこだろ」
「いやいやいやいや! 一夜漬けでそんだけ取れたら満足でしょ?」
「まぁな。でも取れるなら満点とか取ってみたいかなぁ」
「一夜漬けしてるやつのセリフじゃないだろ」
アハハハと笑う二人をよそに、名波は自分の学力の低さを知った。
名波の成績は『中の上』ぐらいである。時々調子が良いときは『上の下』ぐらいまで行くときはあったが、それも毎回テストの1ヶ月ぐらい前から勉強をしての成績である。
それに比べて隆は、1ヶ月前ぐらいから勉強をして、上位TOP10ぐらいに食い込むレベルの学力の持ち主である。一番得意なのは数学で苦手なのは英語である。『英語は外国に行きたい人が覚えたらいい』と思っているクチである。元のスペックが高いのも、隠れファンを生み出す要因になっているのかもしれないですね。
「あのさ!」
「うぉっ! ビックリした・・・急に大声出すなよなー」
「どうしたんだよ」
「明日から放課後勉強しない?」
「「はぁ? なんで?」」
「だってテスト近いし、みんなで勉強したほうが楽しいじゃん」
「俺、テスト前に勉強すると成績落ちそうで怖いんだよね。だってあんまり早く覚えちゃうと、当日に忘れそうでさ」
「俺も自分の勉強スタイルがあるからなぁ」
勉強会に反対意見を出す拓馬と隆。それを聞いてしゅんとする名波を見て、隆が察した。
「お前、もしかして成績そんなに良くないんだろ?」
「うっ!」
「マジでか。もしかして俺より悪いとか?」
「木下よりは悪くないわよ!・・・ちょっと高いぐらいだもん」
「そら見ろ。やっぱり悪いんじゃねぇか」
的確に名波の心情を見抜いてくる隆に、名波は返す言葉もなかった。
「人に物を頼むときは、もっと丁寧に頼むのが普通じゃないのかね? 黒木さん?」
「えっ? いいの?」
「まぁ教えるとは一言も言ってないけどな」
名波、再び撃沈。隆がさっきの仕返しをしているのは言うまでもない。
しかしせっかくできた友達からのお願いを断れることができない隆は、拓馬と顔を合わせて肩をすくめた。
「わかったよ。じゃあ明日から勉強会でもするか」
「だな。俺も明日から勉強しようと思ってたし」
「・・・ホントにいいの? 放課後になったら二人だけで帰ってるとか無い?」
「そんなに疑うんなら、先に帰ってやらんこともない」
「やったー!!」
両手を上げて喜ぶ名波。思った以上に喜ばれた二人は、再び顔を合わせて肩をすくめた。
そんなこんなで、放課後のテスト勉強会が開催決定が決まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
会話文多めでお送りしました。
次回もお楽しみに!