お見舞いとは
「すごい今更なこと言ってもいいか?」
「ん? なした?」
バスの一番後ろの席に陣取った隆が、隣に座っている拓馬に言う。
「お見舞いって手ぶらで行っていいもんなのか?」
「・・・どうなんだろな?」
「だってほら、テレビとかだと『あ、これお土産』とか言ってお菓子とか果物とか渡すじゃん?」
「いや、でもほら、俺たちがお見舞いに来たことがお土産ーみたいな?」
「でも手ぶらってマズくないか? 黒木だけじゃなくて親御さんもいると思うぞ?」
「・・・なんか買ってくか?」
「・・・どこで?」
互いに疑問文をぶつけ合いながら会話をしていると、あっという間に目的のバス停の名前が放送で流れた。
それを聞いて慌てて小銭を財布から取り出して降りる準備をする二人。
バスで料金を払うときに、小銭が足りなかった拓馬がジャラジャラと両替をしてから小銭を払った。バスに乗ったら、両替は早めにしておきましょう。
「「こんにちわ」」
「おう。わざわざありがとな」
「いえいえ、気にしないでください。せっかくお見舞いに来てくれたから、お出迎えぐらいはしますよ」
バスを降りると、桜と遥が待っていてくれた。
じゃあ行きましょうか、と先を歩こうとする二人に隆が声をかける。
「ちょっと待ってくれ。なんかここらへんで買い物できるような場所ってないか?」
「買い物? なんか買うんですか?」
「いや、その・・・お見舞いに来たのに手ぶらで行くのもアレかなーって思ってさ」
「お土産なんていいですよ」
「隆さんと木下さんが来るのお姉ちゃん、楽しみにしてました」
「いや、でもこっちが気まずいというかなんというか・・・」
双子が顔を見合わせて困った顔をする。
「わかりました。あそこにスーパーありますからそこに行きましょうか」
「「ありがとうございます」」
丁寧に挨拶した拓馬と隆。そして双子に向かって拓馬が質問する。
「で、何買っていけば行けばいいんだ?」
双子は呆れた顔しかできなかった。
スーパーでヨーグルトとか風邪に効きそうな食べ物を買った拓馬と隆は、双子に連れられて黒木家へと向かった。
「うほぁ・・・」
「あへぇ・・・」
「「どうかしました?」」
拓馬と隆は口を開けてのぺーっとしている。桜と遥が家の前に立って催促しているが、今は驚くのが先と言わんばかりに驚いていた。
なにせ黒木家は純和風の大きなお屋敷だったのだ。2~3メートルぐらいの高さの塀で覆われた敷地の中には、松やらなんやらの木が丁寧に冬囲いされている大きな庭があり、その中心にある日本家屋が住居となっているそうだ。
「なるほど。意味がわからん」
「おい、あっち見ろよ! 蔵みたいのがあるぜ!」
「あれは物置です。以前は蔵として呼んでいたみたいなんですけど、お父さんが『イマドキの言葉っぽくないから蔵じゃなくて物置と呼べ!』ってことがあったのであれは物置です」
「蔵のほうがカッコイイのにな」
隆は、理解不能といった顔で腕を組んで淡々と歩いていた。
拓馬は、都会に出てきた田舎ボーイさながらのテンションでキョロキョロとしていた。
歩くこと1分少々。やけに長い門から玄関まで道を歩ききって、ようやく玄関へとたどり着いた。
ここに来て、二人の緊張は頂点に達していた。
「お土産買ってきて正解だったな」
「俺、初めてお土産の大切さを知ったよ。隆。気づいてくれてありがとう」
「大丈夫だ。ここからが本番だ」
二人の頭の中では、『黒木家=金持ち』という図式が出来ていたため、『金持ち=礼儀正しい』という方程式にビクビクしていた。
拓馬に至っては、今まで名波の黒タイツだけを見てきた自分を殴り倒してしまいたい衝動に駆られていた。
双子が玄関を開けて客人である拓馬と隆を招き入れる。
「どうぞ」
「「お、お邪魔しまーす」」
恐る恐る家の中に足を踏み入れた二人。
「おかえりなさいませ。お嬢様。いらっしゃいませ。相沢様に木下様」
「おうふっ!」
玄関には家政婦と呼ぶに相応しい格好をした女性が立っていた。
生まれて初めて使用人なる存在を見た拓馬は、つい変な声を出してしまった。
双子は家政婦と一言二言話すと、拓馬と隆を名波の部屋へと案内すると言って歩きだした。
慌てて靴を脱いでスリッパを履いて双子に置いて行かれないように付いていく。
少し廊下を歩いて一つの部屋の前で立ち止まり、桜が部屋の中の人物に声をかけた。
「お姉ちゃん。隆さんと木下さん来たよー。開けるねー」
遥が襖を開けると、部屋の中で布団に横になっている名波が現れた。微妙に顔が赤いが顔色は良く、跳ね
上がるように起きたところを見ると調子はかなり回復していると見れた。
部屋の中に入ると、双子が襖を閉めて三人だけの空間が出来上がる。
「黒木・・・」
「なんかわざわざゴメンね。ホントはもう結構治ってるから学校行こうと思ってたんだけど・・・」
「「お前金持ちだったのかよっ!」」
ほぼ同時に拓馬と隆が叫んだ。名波は驚いて口をポカンと開けている。
「めっちゃ緊張したし!」
「奥から怖い人出てくるかと思ったもん!」
「ってゆーか何あの庭! 広すぎるだろ! 何に使えばいいのかわかんないぐらい広いだろ!」
「そうそう! 家政婦とか初めて見たし! 絶対事件起こるよ!」
口々にいう二人を名波は見てることしかできなかった。
なんでこんなにテンションが高いのか分からない。というよりも、若干キモイ。
「ってあれ? 今日ってお見舞いに来てくれたんだよね?」
「そうだけど、なんかここまで驚きが多いと、お見舞いなんかどうでも良くなっちゃうよな!」
「わかるわかる! 近所の大きい家に忍び込んだ時と一緒だよな!」
「いやそれ意味わかんないけど、ここまでデカイ家だと探検したくなるよな!」
「ちょっと待った!!」
二人の暴走トークに名波が水を差した。勢いを削がれる形になった二人は、思い出したかのように名波のほうを向いてお土産を渡す。
「あ、黒木さん。具合は大丈夫ですか?」
「これお土産です」
「白々しいわっ!」
名波の強烈なツッコミが決まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
申し訳ないですが、一部改訂した回があります。
やっちまったぜ☆というやつです。
さりげなく新連載始めてます。気をつけてください。
では次回もお楽しみに!