誰のせいなのか
ドタバタと駆け抜けたように過ぎ去った週末が終わった。
そして月も変わって12月。世の中はクリスマスムードが漂っていた。
この時期に入ると、学校の教室内でも数名のカップルが誕生していたりする。
そんな中、隆と拓馬はいつも通り、まったりとした昼休みを過ごしていた。隆はコンビニで買ったパンを食べ、拓馬は自家製お弁当をぱくぱくと食べている。
しかしいつもと少し違うところがあった。
それはいつもならしつこいぐらい付きまとってくるはずの美少女・名波が居ないのだ。
土曜日の寒さで風邪をひいてしまったらしい名波は、学校を休んでいた。
「なんかアレだな。静かだな」
「俺も今全く同じこと考えてた」
二人は名波がいる時の騒がしさに慣れてしまっていた。拓馬がふざけて、名波が困り、それを隆が突き落とす。こんな日常が続いていた二人からしてみれば今の昼休みは、全部のチャンネルでニュースしかやっていないテレビを見ているような感覚だった。つまり物足りなかった。
そして隆も拓馬もそれぞれが名波が風邪をひいてしまったことに責任を感じていた。
隆は、迷子の名波を迎えに行った時に、もっと暖かい物を用意していくべきだと考えていた。
拓馬は、黒タイツでしか名波のことを判別できない自分を責めていた。
二人ともベクトルは少々違うものの終着地点は同じで、互いに名波のことを心配していた。ほんの少し前に仲良くなり始めた仲なのに、凄い進歩ですね。
「あのさ、隆。今日なんだけどさ」
「多分俺も同じこと考えてると思う」
「あ、やっぱり? じゃあ行くか。黒木のお見舞い」
「おう。学校終わったらそのままだな」
互いに恥ずかしそうに顔をあわせて、ニカッと笑った。
「じゃあ連絡しとかないとな」
「ってゆーか、家わかんねー」
「・・・フフフ。ぬかりはない!」
怪しく笑う拓馬。
「こんなこともあろうかと、黒木家の双子の連絡先を聞いておいた!」
「な、なんだってー!! って、いつの間に!」
そう言って携帯のアドレス欄を見せつける拓馬。隆が見ると、そこには『桜と遥』と書かれていた。
「ってゆーかお前のアドレス帳の人数すげーな! 20人もいるのか!」
「うそっ! そこにつっこむの? これは少ないほうだろ。隆は何人?」
「ちょっと待ってろ。えーと・・・9人だな」
「9人っ!?」
拓馬が驚いて大声を上げると、周りにいたクラスメイト達がこちらを見た。そのうちの何人かが、携帯を取り出してなにやら操作していたが、何かを思い出したらしく残念そうに携帯を机の中にしまった。
実は、隆はドSな性格ではあるが、一部の女子からは『クール』と見られているらしく、隠れファンもいるらしい。そしてさっきの拓馬との会話をたまたま聞いてしまっていた何人かが『アドレス交換を!』と携帯を取り出したのだが、聞きに行ったところで『あんたらとメールしないからいらね』と言われるなどと考えて、行動を取りやめたのだ。しかしそんな隆がカッコイイと思えてしまう彼女達は、今日も教室にいる隆を陰ながら見ているだけなのであった。
「じゃあ拓馬の方から連絡しておいてな」
「隆から連絡したほうが黒木も喜ぶだろうけどな。ヒヒヒ」
「やめろよ。俺にはそんな気は無いっての」
「はいはい。じゃあ連絡しておくな」
さてはて、名波の気持ちはどうなのやら。
放課後。
拓馬と隆は、名波の家の最寄り駅まで来ていた。
拓馬がメールしたときに、頑なに断り続けていた名波だが、拓馬の『黒タイツの呪文』により渋々了承してくれた。『黒タイツの呪文』についてはご想像にお任せします。
そんな名波から、ざっくりとメールで道を聞いたものの、実際に降り立って見るともう何がなんだかだった。
その時のメールはこんな感じだった。
『電車の駅から○○行きのバスに乗って、××前で降りたらすぐにウチだよ。バス停からは桜と遥に行ってもらうね』
根本的にバス乗り場がわからなかった。
この辺は地味に栄えているので、バスだけで4方面の行き先のバスがある。
そしてそのバスが巡回してくるバスターミナルが駅の近くにあるのだが、そのバスターミナルを見つけられないでいた。
「こうなったら裏技使うしかないな」
「裏技? そんなのあんの?」
首を傾げる隆に、ドヤ顔の拓馬が胸を張る。そして辺りをキョロキョロとして何かを見つけたらしくダッシュ!
向かった先は、駅の窓口だった。
『裏技というよりもかなり正攻法ではないか』と隆は心の中で呟いた。
そんな拓馬のプライドを捨てた裏技のおかげもあって、無事目的のバスに乗ることができた拓馬と隆。
二人はブロロロと揺れるバスに揺られて、名波の家を目指すのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変喜びます。
物語が進んでます。
順調快調月光蝶です。
次回もお楽しみに!