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迷子の迷子の名波ちゃん

集団転倒から立ち上がった隆達は、その場でキョロキョロとして名波を探すが、どこかに走り去ってしまったあとで、全然見当たらなかった。

走っていった方は、T字路になっていて、左に曲がると駅、右に曲がると公園がある通りになる。

その時何やら背後に視線を感じて、一人だけ先に立っていた遥は後ろを振り向いた。遥の目が捉えたのは、窓の向こうからニヤニヤと笑いながらこちらを撮影している希と望だった。


「あ、あの、隆さん」


今日一日で桜と遥から、隆は希や望と区別するために『隆さん』と呼ばれるようになっていた。ちなみに拓馬は『木下さん』だった。区別する必要ないもんね。


「ん? なんかみつけたか?」

「あれ」


そう言って隆の家を指さした遥。その瞬間、明らかに慌てた様子で家の奥へと隠れた双子。

その光景を見た隆は、全速力で自宅へと戻っていった。



2分後・・・



「公園の方に走っていったらしい」


家に戻って双子に名波が走っていった方向を聞いたところ、どうやら駅の方角ではなく、公園のほうへと走り去って行ったらしい。


「公園のほうって言っても、黒木ってこのへんの地理に詳しいのか?」

「さぁ?」

「お姉ちゃんはここに来るの初めてですよ。電車降りるときに初めて来たって言ってました」


桜が答えた。隆の家周辺は、駅方面は道が碁盤の目のようになっていてわかりやすいが、一つ通りを越えてしまうと、急に行き止まりやななめの道が増えてややこしい道へと進化を遂げる。


「迷子になってないといいけどな」

「とりあえず公園行ってみるか」


地元民二人が先導して、最寄りの公園へと歩いていく。夕方になり、日が暮れて昼間の寒さがもっと厳しくなってきた。

隆も昼間の薄着ではなく、黒いダウンを着てマフラーと手袋を装備している。


「うおっ! 寒っ!」


冷たい風も出てきて、寒くなってきた。今にも雪が降りそうな天気だ。


「お姉ちゃん大丈夫かな・・・」

「大丈夫だよ。だから頑張って探さないと」

「うん・・・」


桜が遥を励ましながら拓馬と隆の後ろをついてきていた。

ただ走り去った名波を探しているだけなのに、まるで雪山で遭難した人間を探しているかのような空気の重さだった。


少し歩くと小さな公園が見えてきた。外から見るだけで、公園に人がいるかどうかがわかるくらい小さな公園だった。


「いなさそうだな・・・」


拓馬の言葉に隆が頷く。


「じゃあどこだ? あっちの公園に行ってみるか?」

「だな。もうとりあえず歩いて探すしかないだろ」


話し合いの結果、少し行ったところにあるもう一つの公園に行ってみることにした。

また少し歩いて、その公園にたどり着いた。

数分しか歩いていないが、辺りは街頭が点いて、雪がパラパラと降っていた。


「あれ? ここにもいなくね?」

「じゃあホントにどこに行ったんだよ・・・」

「あの、隆さん」


遥と手をつないで歩いていた桜が隆に声をかけた。

後ろを振り向いた隆が返事をした。


「携帯ってもってないんですか?」

「「・・・あっ」」


忘れてた 文明の知恵 忘れてた

拓馬が頭の中で一句読んだ。それと同時に隆が携帯を取り出して名波に電話をかける。

プルルルル・・・

プルルルル・・・

プルルルル・・・


『もぉしもぉし・・・』

「やっとでた! 黒木か? 今どこだ?」

『相沢ぁ? ずびっ。みんなどこにいるのぉ・・・』

「なんだお前・・・泣いてるのか?」


その言葉に拓馬が笑った。姉が電話に出て安堵していた双子が、拓馬の両脛にダブルでキックした。拓馬悶絶。


『泣いてないもんー! ちょっと寂しくなって鼻水とか涙が出て来ちゃっただけだもぉんー! ずびっ』

「なんで嘘ついてるんだよ。ってゆーか今どこだ?」

『わかんない・・・迷子になっちゃった・・・ずび』

「目印とかあるだろ。なんにもないのか?」

『なんか・・・自販機ある・・・』

「自販機?」

『うん・・・赤いやつ・・・』

「赤い自販機・・・」

「近くに紺色の四角い家ないかー!?」


悶絶から立ち直った拓馬が隆の声に反応して叫んだ。


『紺色の家?・・・あ、これかな? あるよ・・・ずび』

「あるって」

「じゃああそこだよ。さっきの公園の近くの美容院の裏に自販機あるじゃん」

「あーあそこか! ってよくわかったな」

「地元民だからな」

「俺も一応地元民なんだけどな・・・」


一歩も動かないように名波に言ったあと、電話を切って名波がいると思われる場所へと走る。

さっきの公園まで戻り、そこから赤い自販機のある通りへと向かう。


「あっ!」


名波が隆達の姿を見つけると、声を上げてこちらへ走ってきた。


「相沢ーっ!」

「うおっ!」


勢い良くタックルされた形になった隆は、名波を受け止めるときにうめき声を上げた。

泣きながら隆に飛びついた名波は、そのまま隆の胸の中で泣いていた。そんな名波に対してどう対処したらいいのかわからなくて両手を上げている隆に、桜と遥も飛びついてきた。

現在、隆は名波と桜と遥に抱きつかれているような格好になっている。


「両手どころか抱えるような花束ですなぁ」

「わけわかんないこと言ってないで、早くなんとかしてくれっ!」


隆の後ろで腕を組んで、ほうほう、と頷いている拓馬に隆が怒鳴った。


「残念だが、こんな状況をどうにかする(すべ)を俺は知らないんだ。すまんな」

「軽すぎるだろ! もうちょっと粘ってください! 俺はもう限界かもしれん!」


完全にパニックになっている隆をからかっている拓馬。拓馬からしてみれば、隆がこんな状況に陥ってるのは珍しいので、今のうちに遊べるだけ遊んでおこうという魂胆である。

そうこうしているうちに、隆の胸の中で泣いていた名波が泣き止んだ。双子はそれを感じ取ったのか、隆から離れた。

しかし名波が一向に離れない。不思議に思った隆が問いかける。


「そろそろ離れていただけませんか?」

「・・・・・・」

「黒木さん?」


名波から返事はない。困り果てる隆。しばらく無言でそのままの体勢を続ける。

すると突然名波がブルっとからだを震わせた。


「お前、寒いのか?」

「・・・うん」

「ならもっと早く喋れっ!」


名波のからだを離して、自分のポケットに手を突っ込むと、そこからカイロを取り出して名波に渡す。


「え、これ・・・」

「どうせ寒がってると思って家から持ってきたんだ。とりあえずこれで我慢しろ」

「・・・うん。ありがと」


隆からカイロを受け取った名波は、シャカシャカと振って温めて顔に当てた。

とりあえず応急処置的な感じでからだを温め始めた名波を見て、隆はホッと息を吐いた。


「お兄さん。あれはマズイんじゃない?」

「・・・俺どうしたらいいんだろうか?」

「俺だって知らんがな。そこは自分で考えろ」


隆が拓馬に助け舟を求める。いつもと立場が逆転しているようにも見えた。

まだ頭の仲がパニックから復旧出来ていないとみたのか、拓馬が隆に代わり名波に声をかけた。


「黒木。どうする? もう一回隆の家に行って温まるか?」

「うーん・・・いや、今日はもう帰ろっかな」

「そうか。じゃあ駅まで行くか。また迷子になられても困るし」

「うっ。よろしくお願いします」


悔しそうな表情で答える名波と双子を引き連れて、隆と並んで拓馬が先頭を歩いて駅を目指した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。


名波やらかしました。


次回もお楽しみに!

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