相沢家訪問
今日は相沢家訪問をする土曜日。
午前11時少し前。
隆の家の近くのオレンジ色のコンビニで11時に待ち合わせとなっている。拓馬は隆の家を知っているが、あえて待ち合わせ場所に集合することになっている。今日はいい天気だが、冬の寒さが痛いのはいつもと変わらなかった。
拓馬と隆はコンビニの中で並んで雑誌を読んでいた。
隆は灰色のピーコートにジーパン。家が近いので微妙に薄着で来ている。
拓馬は緑のミリタリーコートにチノパン。拓馬の家もここからそう遠くはないが、寒いもんは寒いのでマフラーと手袋は身に付けている。立ち読み中は外してます。
「なぁ。あと2分だけど来るのかね?」
「さぁ? 今更おじけづいたのかもよ?」
「俺ん家をなんだと思ってるんだ。ただの一般家庭だぞ?」
「お、きたきた」
そんなことを話していると、窓の向こうに名波達が見えた。
名波を真ん中にして両サイドで双子が名波と手を繋いでいる。双子は白い手袋を履いていて、桜が赤、遥が青のダウンをそれぞれが着ている。下はジーパンを履いていて、足元はムートンブーツを履いている。防寒対策ばっちりの服装だった。
それに比べて名波は寒そうだった。特に足元が。
上は黒いマフラーにピーコートを着ていてまだ大丈夫なのだが、下はショートパンツに安定の黒タイツでスニーカーを履いている。
二人はとても寒そうな名波の足元をコンビニの中から見ていた。
隆は『寒そう』、拓馬は『黒タイツ』と微妙に違うことを考えている。のはいつも通りです。
「さむーっ!」
拓馬と隆の姿を見つけた黒木御一行はコンビニの中へと入ってきた。
双子は姉の手を離れて店内を物色し始めた。名波は拓馬と隆の元へと近寄る。
「おはよ。なんかこっち寒くない?」
「田舎で悪かったな」
「うちの地元を悪く言う奴はここから出て行け」
「今来たばっかりじゃん!」
名波の家のほうはこっちほど寒くなかったらしく、電車でたった数駅の気温の変化に驚いている。
確かに隆の家の近辺は畑が多く、山風が強く吹くので地吹雪が起こりやすい地域だ。
一方名波の家のほうは、割と栄えているて3階建ての建物が多く、防風林が近くにあるということもあって、風もそこまで強く吹かないため、さほど寒さを感じることはない地域であった。
服装について隆が名波に訪ねた。
「なんでそんなに足元寒そうなんだ?」
「ほら、その、オシャレよ。オ・シャ・レ」
「あのね、お姉ちゃんね、朝に服を選んでて電車遅れそうになりました」
「それでギリギリの到着になってしまいました」
「そうか。よく見てるな。ホントに姉ちゃん好きなんだな。」
双子にギリギリになった事情を聞いていた拓馬が双子を褒めていた。
正直に答えて褒められた(?)双子はエヘヘヘと恥ずかしそうに笑う。
「へぇ。待ち合わせ時間よりもオシャレを選んだわけですかー」
「さすが黒木さん。俺たちよりもオシャレを選ぶなんてさすがっすねー」
完全に棒読みで冷めた目で名波を見る拓馬と隆。
それを見た名波は思わずうつむく。そして正直に本当のことを言った。
「だ、だって木下って私のこと黒タイツでしか判別できないんでしょ? だったら今日も黒タイツで行かなきゃって考えてたら何着てけばいいか迷っちゃって・・・。そもそもあんたが悪いのよ! この変態!」
「なんで俺のせいなんだよ!」
「いや、8割ぐらいお前が悪いだろ」
「ちょっ! なんで隆まで黒木側につくんだよ!」
「何を言うか。俺はいつだって公平だ。裁判官の位置にいるぞ」
「誰が見たってあんたの性癖が悪いのよ!」
「お前だってなぁ!」
「あのぉ・・・」
ガミガミと言い合いをしている二人のところに、気弱そうな店員さんが近づいてきて声をかけた。
「他のお客様の迷惑になりますので・・・」
「「・・・すみません」」
「買い物してくるからお前らもう外に出てろ」
拓馬と名波が声をそろえて謝った。
その二人と双子を外に出した隆は、お菓子やら飲み物やらを買ってコンビニを出た。
何故か雪合戦を始めていた4人を放っておいて、隆はそのまま家へと歩いていった。
双子に言われて隆に置いていかれていることに気づいた名波は、慌てて拓馬と一緒に隆のあとを追いかけた。
隆の家はコンビニから近くて、歩いて3分もかからなかった。
「ここが相沢の家か」
「全然普通だね」
「お姉ちゃんが言ってたのとは違うね」
「お前、どんなイメージだと思ってたんだよ」
玄関を開けながら隆が見ると、名波は顔を逸らして口笛を吹いていた。ごまかし下手である。
「タカ兄、おかえりー!」
「おう。ただいま」
玄関を開けると、元気いっぱいの希が出迎えた。その横には望が立っている。
「あ、お邪魔しますー」
「「お邪魔します」」
名波に続いて、桜と遥もぺこりとおじぎをする。
「・・・タカ兄。この人達が友達?」
「は? そうだけど・・・」
それを聞いた希が望と顔を見合わせる。そして望が口を開く。
「タカ兄。やるね」
グッと親指を立てる双子に不思議そうな顔をする隆。
「あ、こっちがうちの双子の希と望」
「はじめまして。黒木名波です。こっちがうちの双子の桜と遥。仲良くしてね」
そう言って希と望にニコッと笑う名波。まさに天使の微笑みだった。希と望はその笑顔に照れて、少し顔を赤くした。普通はこのリアクションで正解なんです。
「で、こいつが木下拓馬」
「どうも木下拓馬です。いつも隆にお世話されてます」
「「知ってますー」」
笑顔の双子から同時に言われた拓馬が靴を脱いで家へと上がり込んだ。そしてキッチンに向かい、隆の母親に挨拶をして、冷蔵庫から勝手にカツゲンを取り出すと、パックのまま口をつけて一気飲みした。
「あー! 私のカツゲン! なんで飲むのさ! 拓馬のバカ!」
「うるさい! お前こそいい加減に俺のことを敬え!」
キッチンのほうから聞こえてくる希と拓馬のやりとりを玄関で聞きながら、隆と望は3人をリビングへと案内した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
今回は私服の描写を入れてみました。
次回もお楽しみに!