子猫と拓馬と帰り道
今日、拓馬は一人で学校の帰り道を帰っていた。
掃除当番と日直が重なってしまったために帰るのが遅くなって、隆と一緒に帰ることができなかったのだ。
お互いに一緒に帰る約束はしているわけでもないので、待っていてくれなくても恨んだりはしない。しかし、最近一緒に帰れてないことを少し寂しく思っている拓馬くんなのでした。
特に用事もないし寄るところもないので、まっすぐに駅までの道を歩いていた。
「にゃー」
猫の声に反応して立ち止まった拓馬は、キョロキョロと辺りを見回すと、家と家の隙間から黒い猫が歩いてきた。
まだ子どもらしいその猫は、首輪を付けておらず野良猫っぽい風貌だった。しかし、子どもなので人間の怖さが分かっていないようで、拓馬の足元に寄ってきて足をスリスリし始めた。
本当ならばそんな子猫に人間の怖さを教えるために『ワァー!』とか言って追い返すのが教育なのだろうが、一人で歩いていたことの寂しさも手伝って、拓馬はその子猫とじゃれ合ってしまった。別に悪いことじゃないんだけどね。
「なんだお前。お腹減ってるのか?」
猫が鳴いている時は、大抵お腹が減っているときだと何かで言っていたのを思い出した拓馬は、猫にお腹の減り具合を聞いた。猫はニャーニャーと鳴いているばかりだったが、それを拓馬は肯定の意と捉えたらしく、猫の頭をワシワシと撫でた。
「そうか。お腹減ってるのか。じゃあちょっと一緒にコンビニに行ってなんか食べるか」
「ニャー」
こうして子猫と拓馬の寄り道が始まった。
拓馬は猫缶と肉まんとペットボトルの水を買ってコンビニを出て、少し離れたところで待たせておいた子猫の元へと小走りで向かった。拓馬の肉まんよりも猫缶の方が高いのは気分だった。
そこに行くと子猫は見当たらなかったが、隠れていたらしく拓馬の姿を見つけるとすぐに出てきて足元でスリスリし始める。
少し歩くと公園があったので、足元を付いてくる子猫を踏まないようにゆっくりと歩いてそこまで向かった。
雪が積もっている冬の公園でしかも夕方ということもあって、人影はあまりなかった。ちらほらと小学生が2~3人遊んでいるぐらいだった。
すっかり雪で埋まってしまった遊具の一部の上に座り、中身を袋から取り出してビニール袋の上に猫缶を開ける。開けたと同時に子猫が近寄ってきたので、飼い主(?)らしく『待て』と言ってみるが、全然止まらずにCMどおり猫まっしぐらだった。
「腹減ってたのか。俺も肉まん食べよっと」
久しぶりの買い食いらしい買い食いだったので、心無しかワクワクしながら肉まんにかぶりついた。学校帰りに食べる肉まんは格別に美味しかった。
「隆も一緒だったらなぁ」
最近一緒に帰れていない友人兼幼馴染兼親友のことを考えて少しだけ寂しくなった。
いつもならこんなことを考えない拓馬だが、今日はそんなことを考えてしまうような気分だった。
「俺も一人ぼっちだけどお前もひとりぼっちだもんなぁ」
「ニャー」
足元で猫缶にまっしぐらしている子猫に話しかけた。相変わらずの猫語だったので拓馬には聞き取れなかったが、今はただ話を聞いてくれる誰かが居れば十分だった。猫だけど。
「最近さ、隆に友達が出来たんだ。黒木は俺とも仲良いから別に問題はないんだ。でもなんか寂しいわけよ。俺だけの隆って感じだったのに、俺と黒木の隆って感じになっちゃってさ。って何が言いたいんだろうな」
肉まんを食べ終わった拓馬は、依然まっしぐら中の子猫の背中をなでる。サラサラしていて気持ちよかったので、手をそのまま背中に当てて続ける。
「別に嫉妬してるとかそういうんじゃないんだけど、もしかして隆と黒木がくっついちゃったらって考えるんだ。今は恋愛よりも隆とバカやってたほうが楽しいんだけど、もしくっついたら、俺って邪魔者じゃん? だからーってちょっと考えるわけよ。それってどうなんだろな? お前はどう思う? ってわかんねーか」
アハハと笑い、子猫の背中から手を離すと、猫缶の中身を半分ぐらい残してまっしぐらタイムを終えた猫は、その場に座って自分の腕をペロペロと舐めた。
拓馬は空になった缶を近くの雪で軽く洗い、カバンの中の筆箱からペンチを取り出して缶の蓋が付いていた部分を適当に潰していく。ペンチは何かあった時のためにいつも持ち歩いている。まさかこんな形で初の出番が来るなんて、拓馬もペンチも驚いている。
舌を切る心配が無くなった空き缶に買った水を缶の半分ぐらい入れて、猫の近くに置く。子猫はそれを見るなりその水をペロペロと舐め始めた。
「よく食べて飲んで大きくなれよ。大きくなったら俺と話そうな。猫語勉強しとくからさ」
「ニャー」
「まぁ考えといてくれ。でさ、今の俺ってどうなのかなって思うのさ。隆から俺はどう見えてるのかなぁってさ。昔と変わらずに、一緒にバカやってくれてる友達として見てくれてんのかなぁ?」
子猫が顔を上げて拓馬を見て首を傾げる。拓馬は特に子猫に答えを求めている訳ではないので、分かってくれなくてもよかった。ただ聞いて欲しいだけ。それだけだった。
「まぁ悩んでるのもアレだしな。俺らしくないし、今度聞いてみるよ。今日はありがとな。こんなとこまでつき合せちゃってさ」
「にゃー」
「なんだ? ホントにわかってんのか?」
笑いながら子猫の頭をワシワシと撫でた。
「ワンッ!」
その時、近くを散歩していた犬がこちらに向かって吠えた。その声にビックリして子猫がものすごいスピードで走っていた。
「あーぁ、行っちゃった。アホ犬め! ・・・じゃあ俺も帰るかな」
よっこらせと立ち上がり、ビニール袋にゴミを入れて、コンビニまで戻りゴミを捨てて駅までの道を歩いた。
「やっときたか。おせーぞ」
拓馬が駅に着くと、隆が待合室で座っていた。何故待っていたのかと拓馬が尋ねると『なんとなく』と言う答えだった。
「黒木と帰ったのかと思ってた」
「はぁ? なんでだよ」
「だって最近仲良いじゃん。友達だろ?」
「そりゃ仲良いけどさ。でも別に一緒に帰らなくたっていいだろ。それなら拓馬と帰るよ」
「最近一緒に帰ってくれないくせに」
「お前が居残りばっかりだからだろーが。一緒に帰れるときは一緒に帰ってるだろ。今日はなんなんだよ。めんどくさいやつだなぁ」
本当にめんどくさそうに答えている隆だが、拓馬は喜んでいた。
隆は全然変わっていなかったことがわかったのだ。しかも名波よりも自分を選んでくれたことが嬉しかった。
「隆大好きっ!」
「なんだよ気持ち悪いな! 抱きつくな! 離れろ!」
嬉しくて思わず隆に抱きついて喜ぶ拓馬を、駅の外から小さな黒猫が見ていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
黒タイツ以外のことを考えている拓馬って新鮮ですね。
微妙にBLっぽいのは触れないでください。
次回もお楽しみに!