今度は逃がさない
拓馬の家でご飯を食べたあと、隆が自分の車で名波を家まで送っていました。
「まったく、お前はいつまで経っても変わらないな」
「隆だってそうじゃん」
「俺は変わらないぞ。俺はずっとお前のこと好きなまんまだ」
突然の告白に思わず動揺する名波。
「わ、私だって。元々会う時間が減っちゃって、両方のためにならないから別れようってことになったじゃん」
「まだダメなのか?」
「・・・多分」
少し不安そうに答える名波。
そんな名波を見て、ため息をついてから隆は言った。
「でもあの時と環境も違えば職業だって違うじゃねぇか。俺が弁護士、お前が教師だろ」
「そうだけど・・・」
「あーもうっ! あいかわらず煮え切らない時は煮え切らないよな!」
「仕方ないじゃん! 私だってもうこんな年だし、そりゃ拓馬と委員長みたいになれたらいいとは思うけど、この仕事辞めたくないもん」
「・・・わかってるよ」
「だから」
「それならなおさらだろ。そろそろ付き合うぐらいはしてくれたって良くないか?」
「・・・・・・」
黙り込む名波。
運転中だったので、一瞬だけ名波の横顔を見た隆。
「・・・実は俺、お見合いの話来てるんだわ」
「えっ! お見合いするの?」
「来てるだけだ。母さんとか希とかがうるさいんだよ。まだ結婚しないのかーって。だからさ、その、なんだ。お前が俺と結婚・・・まではいかなくても、付き合いましたーとか言えば、そーゆー話も来ないだろうし」
「なによ。結局言い訳の材料に使うだけじゃない」
「これだけ言ってるのに・・・わからず屋め」
「ふーんだ」
口をとがらせてツーンとする名波。
赤信号で車が止まり、隆は頭をポリポリとかいた。
「・・・わかったよ。素直に言えばいいんだろ。もう限界だから俺と結婚してくれ」
「・・・フフフ」
名波の含み笑い。
「なんだよ。気味悪いな。ちなみに拒否権と黙秘権はないからな」
「うわっ! なにこの悪徳弁護士!」
「うるせぇ。で、なんだよ」
「なんでこんなおばさんになってから言われなくちゃならないんだろうなーって思ったらおかしくなっちゃって」
「おばさんだろうがなんだろうが、俺の中での名波は変わってねぇよ。それにほら。拓馬と委員長も近くに居るしさ。あの時と全然変わってないじゃん」
「フフフ。年齢は変わってるけどね」
「人生そんなもんだ」
その会話がプロポーズの答えだったようで、名波が車の中で伸びをしてリラックスした様子でうらやましそうに言った。
「あーあ。花の新婚生活とかしたかったなー」
「そんなものは今からでもできるぞ?」
「見た目の話よ」
「お前だってまだまだ余裕じゃん。まだ学校でアイドル先生とか呼ばれてるんだろ? 秋名から聞いたぞ」
「あれは周りが勝手に言ってるだけだって。お世辞よ、お世辞」
「まぁでも俺のアイドルは名波一人だけだ」
「・・・なにそれ。脳までおっさんになった?」
「うるせぇ」
青信号になって動き出した周りの車と一緒に、隆もゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
これで最終回となります。
次回は新作です。
お楽しみにお待ちください。