番外編・名波の叔母さん
黒木家3姉妹には、父親の姉であるちょっと変わった叔母さんがいました。
どこがどう変わっているのかというと、年齢的にも落ち着いていてもおかしくはないのに、ゲームだのスポーツだの料理だの庭いじりだのと、インドア派なんだかアウトドア派なんだかよくわからない趣味をたくさん持っているのです。
そんな多趣味の叔母さんの家に黒木家3姉妹は遊びに来ていました。
そこまで遠くない距離ではあるのだが、電車に乗って札幌駅で乗り換えてまたちょっと進むというぐらいの距離だった。
しかし3姉妹はこの移動も楽しいと感じるようで、とくに苦ではありませんでした。
「こんにちわー!」
「「おばさーん! 来たよー!」」
「おー。よくきたねー。ほれ、上がって上がって」
玄関で元気に挨拶すると、家の奥から叔母さんが出てきました。
「えーと・・・じゃあ何する?」
「いきなりぃ?」
「こう見えても叔母さんは名波ちゃん達が来るのを楽しみに待ってたのよ?」
なんとも嬉しそうな顔で言う叔母さん。
そんな笑顔を見せられたら、断るに断れなくていつも叔母さんのペースにのせられてしまう3姉妹でした。
そんな叔母さんに桜が訪ねます。
「叔母さんは最近何してるの?」
「最近はパズル作ってるわよ」
「パズル?」
「ほら」
奥の部屋を見ると、そこには2000ピースぐらいの巨大パズルがありました。
まだ完成はしておらず、6割ぐらいまでが出来上がっていました。
「「うわー、おっきいー」」
「でしょー。ここまでやるのに3日もかかったんだから」
「3日も? なんか遅くない?」
「いいのよ。こういうのはのんびりやるのが楽しいの」
『好きと得意は別問題』
この言葉が叔母さんの座右の銘らしく、好きなことにはチャレンジするが、そこまで完璧でなくても別にいいではないか、ということらしい。
それをしっかりと実行しているのか、多趣味のくせにどれもこれも『そこそこ』というレベルだった。
ゲームもうまいわけではないし、スポーツも微妙なうまさ、料理もレパートリーは広いが味は普通、庭いじりに至ってはそのへんに落ちていたいい感じの石を拾ってきたり、木を拾ってきたりして、ほとんど適当に庭に置いたり差したりしてなんとなく自己満足しているだけである。
『広く浅く』とはよく言ったもので、悪く言えば『何事も中途半端』というやつである。
それでもいつも楽しそうな叔母さんのことは、名波も桜も遥も大好きなのであった。
「でもこのパズルは触っちゃダメよ? 今旦那と二人で頑張ってるんだから」
「そういえば総一郎さんは?」
総一郎というのは、叔母さんの旦那さんの名前です。
総一郎は建築家として働いております。
「今は仕事よ。現場の下見に行ってるわ」
「あいかわらず大変なんだねー」
「それもこれも私とこうやっていろいろするためだもの。そこは頑張ってもらわないとね」
この趣味達は、叔母さんだけの趣味ではなくて、総一郎の趣味でもあるのだ。
こうして二人で趣味を共有するのが、この夫婦がいつでも円満でいられる秘訣なんだとか。
「あの、大河君は?」
遥の言う『大河』とは、叔母さんと総一郎の子どもで、今は小学校5年生である。
「大河はサッカーの試合よ。最近始めたんだけど、人数少ないからすぐにレギュラーだって」
「応援とかいかないの?」
「大河が恥ずかしがるのよ。『いつも以上のプレーができないから来ないで!』って。前に行ったことがあるんだけど、帰ってきたらすごい怒られたわ。だからおうちでお留守番よ」
「反抗期ってやつだね」
「そうねぇ。嫌な時期だわ。でも帰ってきたら一緒にゲームとかしてるわよ」
「・・・反抗期なの?」
「さぁ? あの年頃の男の子は何考えてるかわからないわ」
肩をすくめる叔母さん。
その時、名波が思い出したようで、手をパンッと叩いた。
「あ、ゲームで思い出したんだけど、あの忍者のゲームあるじゃん? あれ、友達の家にもあったさ」
拓馬の家で隆と一緒にやっていたゲームのことです。
「あらま! あのゲーム持ってる高校生がまだいるのねー」
「他にもたくさんあったよ」
「ぜひ一緒にやりたいわね。ちょっとやりたくなってきたからやらない?」
そう言って答えを待たずに、テレビへと向かい、スーパーファミコンの準備をし始める叔母さん。
3姉妹は互いに視線を合わせると、呆れたような顔をした。
これはいつものことである。
『思い立ったら即行動』
叔母さんほどこの言葉がピッタリくる人を、名波はまだ見たことがありませんでした。
「さぁ! 私とやるのは誰ですかー?」
「じゃあ私やるー」
そう言ってコントローラーを握ったのは桜でした。
残った名波と遥は、椅子に座って二人が操作するゲーム画面をのんびりと見ていましたとさ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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叔母さん初登場にして、最後の出番でした。
次回もお楽しみに!