番外編・自由な二人
「これは椿くんではないか」
「そういう君は広瀬くんではないか」
「「ごきげんよう」」
廊下でばったり会った二人は、一風変わった挨拶をしました。
「ときに、椿くんは今どこへ行こうとしているのかね?」
「俺は今から理科室へ行こうとしているんだよ。そういう広瀬くんはどこへ行くのかね?」
「私はちょっとお花を狩りに行ってくるんだよ」
「なんと恐ろしい表現だ。そこは摘みに行くんではないかい?」
「ちょっと間違えちゃった。てへぺろ☆」
頭にコツンとこぶしを当てて、舌を出して可愛く片足を上げてウインクをした。
圭子自体はそこまで可愛くは無いので、来兎はそんなにときめきませんでした。
飽きたのか、いつもの話し方に戻して来兎が話します。
「ところで竹中さんは一緒じゃないの?」
「あらま! この子ったら、有紀がお花を摘んでるところがみたいなんてなんてハレンチ極まりないのかしら!」
「考えてないし! ってゆーか声デカイし! みんな見てるからやめて! 恥ずかしい!」
廊下で話しているので、すれ違う人たちがコソコソと来兎のことを見ながら歩いていました。
『ちょっと聞いた?』『聞いた聞いた』『あの人って4組の人でしょ?』『もしかしてトイレにカメラとか付けられてたりして』『えーやだー』
噂って怖いですね。
「ところでこんなにゆっくりしてて大丈夫なの? 次移動教室なんでしょ?」
「大丈夫大丈夫。竹中さんに会えるならちょっとくらい遅れたって問題ないさ!」
そう言って親指を立てる来兎。
「せいっ!」
「うおぅ!」
その親指に向かって上から潰すようにチョップを繰り出す圭子。
それを間一髪で避ける来兎。
「何すんのさ!」
「私ってばソフト部じゃん? だからつい叩きたくなっちゃうんだよねー」
「ソフト部ってそーゆー部活だっけ?」
「出る杭は打たれよ! ってね☆」
「可愛くねーし! しかもことわざの使い方全然違うから!」
またてへぺろポーズをする圭子にキチンとつっこむ来兎。
意外と律儀な性格してますね。
「いやー椿くんは面白いねー。どう? 私と付き合ってみる?」
「付き合わない! どうして竹中さんのことが好きだと知っているのにそうやって誘うんだ!」
「だってそこに有紀がいるからさ!」
「そこは椿くんがい・・・へっ?」
「どうかしたの?」
ここで神出鬼没の有紀が現れました。この人には気配とか前触れとかという言葉はないのでしょうか?
まさかの本人登場に驚いて目をパチクリさせる来兎。
「た、竹中さん! いつからそこに!?」
「私のこと好きなの?」
この一言が全てを物語っていました。
「いや、その、これはなんというか・・・」
「椿くんは有紀のことを愛してるんだってさ!」
「このばかものぉぉぉおおおおお!!!!」
さらっと人の秘密を言う圭子。
来兎は『オワタ』と言って『OTL』のポーズをとっていました。
来兎の大声に教室から出てきた生徒や、一部始終を廊下で見ていた生徒達によって、まさかの公開告白になってしまいました。
「ふーん。椿くんは私が好きなの?」
「・・・はい。そうですっ! 大好きです!」
開き直った来兎が有紀に向かって顔を上げて言いました。
「無理」
「ガァーン」
たった2文字の単語で断られた来兎の頭の上に、金だらいのような何かが降ってきたように見えました。
そして激しく落ち込み、その場に倒れるようにうなだれた来兎。しかし、一瞬で気持ちを入れ替えたのか、すぐに顔を上げて有紀のことを見て宣言しました。
「でも俺は自分の夢を実現させるために諦めません!」
「おぉ」
「そっか。頑張ってね」
「はい! 頑張ります!」
何故か励まされた来兎は、目を輝かせて立ち上がりお辞儀をした。
そして圭子が有紀に向かって言った。
「あ。黒木さんだ」
「えっ!? 名波ちゃんどこっ!?」
目を輝かせた有紀が辺りを見回すと、4組の教室に入っていく名波の姿があった。
そして素早く4組の教室の扉にへばりつくと、息をハァハァとさせてのぞき込んでいた。
その姿を見た圭子が来兎の隣に並んで言う。
「君はあれでもあきらめないのかい?」
「もちろん。俺の気持ちはあんなもんじゃ変わらないさ! じゃあそろそろ行かないとだから。またな!」
非常に機嫌を良くした来兎が廊下を駆けていった。
その直後先生に注意されていた。
その後ろ姿を見ていた圭子が呟いた。
「青春してる姿は見てて楽しいなぁ」
そう言ってお花を摘むために、トイレという名のお花畑に向かう圭子であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
番外編その1は、圭子・来兎・有紀の三人でした。
次回もお楽しみに!