卒業の日
高校生活最後のイベントの卒業式。
そんな日を待ちわびていたわけではないが、なんとも言えない複雑な気持ちで迎えた拓馬。
中学の時同様、隆と一緒にワイワイのんびりと過ごすと思っていたのだが、2年の半ばで名波が加わり、3年で一花と付き合って、こうして自分がいるこの環境が終わってしまうのが、少し寂しくもあった。
そんな最後の日ぐらいはと、駅で隆と待ち合わせをして一緒に行くことになった。
とは言っても、いつも通りに登校するので、いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ電車に乗っていく。
すこし待っていると隆がやってきて、ホームに来たいつもと同じ電車に乗り込んだ。
「この時間のこの電車に乗るのも今日が最後なのかなぁ」
「生きてればまだ乗る機会ぐらいあるだろ」
「高校生活でってこと」
「そーゆーことね」
隆と他愛もない話をしながら学校へと向かった。
教室へ着くと、卒業式ということもあって、いつもとは少し違う雰囲気だった。
部活に入っていた生徒は後輩からの祝福を受けたり、職員室に行ってお世話になった先生に挨拶しに行っている生徒もいた。
卒業式を前に、思い思いの過ごし方をしていた。
「おはよー」
「おはー」
あとから来た名波と挨拶を交わすと、かばんを席に置いた名波が拓馬の元へとやってきた。
そしてペコリと一礼した。
「今までお世話になりましたー」
「こちらこそー」
「これからもよろしくね」
「もちろんだ」
そのまま名波と卒業式までの時間を喋って過ごした。
しばらくして2年生が3年生の胸に花をつけにやってきた。
去年は、名波はあのファンクラブの部長さんにつけに行っていたが、今年は2年生に知り合いはいないので、特に何も変わったことは無かった。
そして卒業式本番。
本番と言っても、特に卒業生はすることはなく、ただ大人しく椅子に座って、校歌斉唱と国歌斉唱の時に立つのと校長先生の話の時に礼をするのを忘れなければ、特に問題なく終わることができた。
3年生代表として、見たことある顔の男子生徒が話していたが、こみ上げてくるものも何もなく、いたって平凡な答辞だった。
拓馬にとってそんな卒業式は案外早く終わってしまったが、教室に帰ってくると何人かの女子生徒が泣いて別れを惜しんでいた。
それを見ていた拓馬に、いつの間にか横に立っていた名波が問いかけた。
「拓馬は泣かないの?」
「泣くわけないじゃん。だって会えなくなるわけじゃないし。そーゆー名波は泣かないのかよ」
「私も拓馬と同じ感じかな。拓馬も委員長も隆も、会おうと思えば会えるからね」
その後最後のホームルームが開かれて、卒業アルバムと卒業証書が担任の手から直接渡されて、担任の先生の涙の挨拶と、大学入学までは高校側に責任があることを伝えてお開きとなった。
半分以上の生徒達は連絡先を交換したり、教室が名残惜しいのか、いつまでも居座っていたが、拓馬と名波はそそくさと教室を出た。
その時だった。
「あのっ! 黒木さん!」
「ん?」
教室を出ようとしたところで、名波に一人の男子生徒が話しかけてきたのだ。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな?」
『この流れは多分告白だろう』と拓馬は思った。
隆と名波が別れたことは、噂でかなり出回っていたので、こうして告白してくる生徒がいてもおかしくはなかった。
そんな勇気を振り絞った男子生徒に向かって、名波は答えた。
「ごめんね。告白なら間に合ってるから」
「へ?」
「じゃあまたねー」
「あ、ちょっと、黒木さん!?」
あっさりと笑顔で断って歩き出す名波。
一年前なら返事に戸惑っていた名波が、ここまであっさりと断るのを初めて見た拓馬は、名波の成長っぷりに驚きながら後ろについて歩いた。
廊下に出たところで、隆と一花と合流し、4人揃って帰り道を歩いた。
一花は、自分だけ一人で帰るのは嫌、ということで一緒に帰って、拓馬の家へと向かいます。
校門を出たところで、隆が口を開いた。
「なんか実感わかないな」
「私もわかないー」
「だよなー。今日で終わりなんだよな」
「委員長ならわかるんじゃねぇの?」
「どうしてかしら?」
「『木下君と離れるのがイヤッ!』とか」
隆の『一花モノマネ』が上手くなってきていることに拓馬は感心した。
「それは思わなくはないけど・・・でも木下君とはこれから先、まだまだ長いから大丈夫よ。高校編が終わっただけって考えるようにしてるわ」
「ラブラブだねぇ~」
「そういう黒木さんと相沢君はどうなのよ」
「「へ?」」
一花の発言にちょっと照れていたら、一花がとんでもない発言をしてしまいました。
拓馬が止めようとしたのですが、一花の表情は二人を心配している顔だったので、止めることができませんでした。
「だってあなたたちもいい加減に気づいてるんでしょ? だったら・・・」
「委員長」
「・・・何よ」
「俺たちはお互いのために別れたんだ。ここで付き合い直すとかっていうのは無いよ」
「そうそう。委員長には悪いけど、今はまだやり直すつもりはないよ」
隆と名波の決意は固いようで、その迫力に押されて一花は何も言えなくなってしまった。
そんな一花の肩をポンと叩いた拓馬。
「一花。これは二人の問題なんだ。俺たちが割り込むべきじゃないさ」
「でも・・・」
「いいんだって。ここで付き合い直さなくて後悔するのは隆と名波なんだから」
「おい。それはひどい言い草だな」
「ホントのことじゃん。精一杯後悔したまえ、少年」
ハッハッハッと笑った拓馬は、前を向いて歩きだした。
後悔は後でするもんなんだから、後ですればいいさ。
そう考えながら、一花の肩を引き寄せるようにして並んで歩いた。
最後の下校だというのに、ちょっとした爆弾を投下した一花を励ましながら並んで歩いた。
後ろでは、照れくさそうにしながら並んで歩く隆と名波がいた。
『・・・じれったいなぁ』
拓馬は、後ろの二人を見て思ったが、何も行動を起こすようなことはなかった。
それが拓馬なりの優しさなのかもしれませんね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
卒業しちゃいました。
終わりまであとわずかです。
次回もお楽しみに!