受験前日・隆
明日は受験ということで、最後の追い込みをしていた。
とは言えども、センター試験でかなりの高得点(自己採点で)を叩き出した隆は、割と余裕を持って明日の試験に挑むことができたので、今は確認程度の勉強をしていた。
そんな時、ケータイがブルブルと鳴った。
画面を見ると、名波からの着信だった。
メガネを外して電話に出た。
「もしもし」
『あ、も、もしもし。今大丈夫?』
「大丈夫だけど、お前は大丈夫なのかよ。明日本番だぞ?」
『大丈夫。もう復習もバッチリだし、あとは明日に備えて寝ようかと思ってたところだもん』
「寝るって・・・」
時刻は午後9時。良い子は寝る時間ですが、高校生で9時就寝はちょっと早すぎるような気がします。
「で、どうかしたのか?」
『特に用はない!』
「なんだそれ」
『別に電話ぐらいしたっていいじゃん』
「別にいいけどさ」
そう言う隆ではあったが、自由登校と言う名の講習に通っていたため、名波とは週一回会う程度だったので、電話が来たことは少なからず嬉しかったのだ。でもそれを表に出すと、恥ずかしいので出しませんでした。
『隆はもう勉強してないの?』
「今真っ最中」
『ありゃま。じゃあ切ろうか?』
「大丈夫だ。もう確認程度の勉強だったから」
『そっか。さすが隆!』
電話で名波に見られてないのをいいことに、ニヤッと笑みを浮かべる隆。この変態め。
「そんなことよりこんな時間に電話してきて、大学落ちたら笑いもんだぞ?」
『アハハ。これだけ頑張って落ちたなら誰も笑わないで慰めてくれるって』
「少なくとも俺は笑ってやるから安心しろ」
『ひどーい』
アハハハと笑う名波。
『いやね、ホントは受験終わってから電話しようかと思ってたんだけど、ちょっと、そのー・・・』
「なんだよ」
『隆の声が聴きたくなったってゆーか・・・隆と話したかったのさ』
いつも以上にデレている名波に隆は言葉を失いそうになった。
だって今はもう付き合ってないのだ。
だからこれは『友達として』話したかったと言う意味で、あくまでも下心はないのだと自分に言い聞かせる隆だった。
心の中で自分に暗示をかけて、電話の向こうにいる名波との会話に戻る。
「まったく・・・そんなに遠慮しなくていいのに。お前の悪いとこだな」
『だって委員長にかけたら、お風呂入るところーって言われるし、拓馬は今からご飯だって言われちゃうし』
「俺が最後かよ」
少しガッカリした隆だった。
『だってー・・・隆にかけるのって・・・ねぇ?』
名波なりに気にしているようで、少し照れが入ったような声だった。
その『ねぇ?』の意味をキチンと察した隆が答えた。
「俺は気にしてないから、かけたい時にかけてくればいいじゃねぇか」
『気にしてないの?』
「・・・ちょっとはな」
『うそつきー』
「酷い言われようだな」
『冗談冗談。明日受験でしょ? こう見えて、結構緊張してるんだ。だから誰かと話したかったの。遥と桜とも話したんだけど、受験生の緊張はまだ分からないよなーって思っちゃってさ。隆が出てくれて良かった。ありがとね』
「改まって言うことでもないだろ。それにお礼は合格してから言え。『勉強教えてくれてありがとう』が正解だ」
『隆先生だもんね』
「先生目指すのはお前だけどな」
『そうだねー』
えへへと笑う名波。
『よしっ。そんじゃ明日に向けて寝るかな!』
「そうか。寝すぎて寝坊すんなよ」
『隆もね。じゃあまた明日』
「おう。頑張れよ」
『隆も頑張ってね』
「余裕だ」
『じゃあおやすみ』
「おやすみ」
そう言うとケータイに耳を付けたまま名波が切るのを待つ隆。
しかしなかなか切れない。
「切れよ」
『アハハハ』
笑い混じりにそう言うと、電話の向こうで名波も笑った。
『ねぇ隆?』
「ん?」
『試験終わったらまた電話しても良い?』
隆は、その言葉に何かを期待してしまいそうだったが、それは無いと言い聞かせて答えた。
「もちろんだ。俺とお前の仲だろ」
『だよね。じゃあまたね』
「おう。おやすみ」
『おやすみー』
今度は何も無く電話は切れた。
そしてケータイの画面を見つめたまま、少しの間ボーッとしていたが、自分のためにも名波のためにも大学に合格することが一番だと思い、メガネをかけて再び勉強を再開する隆であった。
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隆ったら・・・
次回もお楽しみに!