眼鏡と盗撮
10月。
外も少しずつ寒くなってきて、上着が必要不可欠になりつつある今日この頃。
そんなある日、隆にちょっとした変化が訪れた。
それは土日明けの月曜日のことだった。
朝一番で隆に会う拓馬がそれに気がついた。
「おう」
「おはー。って眼鏡!?」
「あぁ。最近見えにくくなってきたから昨日買ったんだ。授業中にかけるつもりなんだけど、眼鏡かけて気持ち悪くならないように、今日は朝から試運転中」
「へぇー」
そうなんです。今日から隆が眼鏡デビューをしたのです。
もともとそんなに目が良いわけではなかったのですが、黒板の文字を目を細めてみるようになってから一気に視力が落ちたようで、メガネを買うことにしました。
眼鏡は細いフレームのシンプルな眼鏡です。
「隆ってそんなに視力悪かったんだな」
「暗いところで本読んだりしてるからなのかもしんない。その点、お前の視力は悪くなる兆しがねぇよな」
「俺は今でも2.0だからな」
「目は良いに越したことねぇよ。眼鏡とかコンタクトとかだと金かかるし」
「でもオシャレメガネとかかけてるやついるじゃん」
「あれってなんなんだろうな。眼鏡なんか邪魔くさいぞ?」
「でもよく言うじゃん。眼鏡は身体の一部ですって」
「俺はまだまだかかりそうだ」
眼鏡トークをしているうちに駅に到着して、ホームで電車を待つ二人。
「眼鏡といえば、一花の家にも眼鏡あったなぁ」
「委員長も目悪いのか?」
「さぁ? 俺は一回も見たことないな」
「俺も授業中にかけてるの見たこと無いな」
「じゃあ聞いてみるか。眼鏡の先輩としてこの視界の違和感をどうにかする方法を聞いてみよう」
「・・・そんなに嫌なら外せよ」
そうして学校へと到着した二人は、いつものように先に席についている一花の元へと向かった。
「おはよー」
「おはよう木下君」
「おう」
「なぁ、一花って眼鏡かけるのか?」
「かけないけど。なんで急に・・・」
そう言った一花が隆の顔を見ると、いつもとちがうパーツがついていたのに気づいた。
「あら。相沢君もついに眼鏡っ子デビューしたのね」
「眼鏡っ子ってなんだよ。普通に眼鏡デビューって言え」
「よく文字読めないって言ってたものね」
「あぁ。昨日買ったんだ」
「これでまたファンが増えるわね。おめでとう」
「ファンってなんだよ。嬉しくねぇし」
嫌そうな顔をしながら席に着いた隆。
その隆を隠し撮りしているクラスの隆ファンが数名いました。
今度発行される『週刊・相沢』に載せるんですかね? もちろん一面は『ついに眼鏡デビュー!これはメシウマ!』とかですかね?
最近のスマートフォンはカメラのシャッター音を消すアプリとかがあるので、撮られている隆は全く気がついていません。盗撮ダメ、ゼッタイ。
「あ、いたいた! おはよー!」
そんな3人の元に名波もやってきました。
「あっ、眼鏡かけてるー」
「おう」
「色気づいたの?」
「ちげーよ。目悪くなったんだよ」
「眼鏡ってどんな感じなの?」
「どんな感じって・・・目の前に違和感がある感じ」
「へぇ。ちょっと貸してー」
隆が名波に眼鏡を貸しました。
「なんかクラクラするけど、あんまり度入ってないね」
「眼鏡無くても生活出来るからな」
そんな眼鏡っ子の名波を影で撮影している人たちがいましたが、さりげなく現れたファンクラブの人間に邪魔されてうまく撮れませんでした。
ただし有紀だけは、廊下を通るフリをしてさりげなく撮影をしていました。ピントも望遠機能もバッチリです。
「視力悪くないのに眼鏡かけてると、余計に目悪くなるわよ」
一花にそう言われた名波はすぐに眼鏡をはずして隆に返しました。
ですが、その拓馬によって奪われてしまいました。
「どれどれー。あれ? これ度入ってんの? 俺よく見えるんだけど」
「拓馬も眼鏡予備軍だな」
拓馬が眼鏡をかけた瞬間、一花がものすごいスピードで撮影を開始しました。
若干息を荒らげています。
「こら! 撮るんじゃない! まったく・・・」
「委員長はやっ!」
「さすが拓馬マニアだな」
「褒めても何も出ないわよ。あっ。外さなくてもいいのに」
「俺の眼鏡だ」
拓馬が眼鏡を外すと、がっかりとした様子の一花。
そして外した眼鏡が隆に渡る直前に、一花が奪い取りました。
「えへへ。木下君がかけた眼鏡・・・」
「これはキモイな」
はぁはぁと息を荒らげながら、眼鏡をかける一花。
その様子を3人は気持ち悪そうに見ています。
そして周りでは、『氷の女王』と呼ばれている一花に蔑まされたいドがつくMな人たちが息を荒らげていました。
眼鏡をかけた女王様に蔑まされたり暴言を吐かれたり踏まれたりしている自分を想像してはぁはぁしているようです。こっちはこっちで気持ち悪いですね。
すぐに眼鏡を外した一花は、こんどこそ隆の手にわたるように眼鏡を返しました。
「私も目は悪くないからこれでもクラクラするわ」
「そんなにキツくないはずなんだけどな」
「なんかね。目がクラッってなるの」
「クラクラで通じるから」
キーンコーンカーンコーン。
遅刻を知らせるチャイムがなりました。
「やべっ。じゃあな!」
「また昼休みねー」
拓馬と名波が自分の教室へと戻っていきました。
そして隆と一花は一時間目の授業の準備をし始めました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変嬉しいです。
・・・あれ? オチがない。
まぁいっか。
次はちょっと時間が飛びます。
次回もお楽しみに!