賑やかな森の湖畔
夏休みが終わり、校門を通った拓馬と隆を元気な挨拶が出迎えた。
「おはようございます!」
「おう」
「おーっす」
元気なちびっ子の美緒が声をかけてきた。
声をかけられた二人は、適当に挨拶をすると、美緒を入れた3人で校内へと向かっていく。
「ちびっ子は夏休み何してた?」
「ウチはおうちの手伝いとかしてました!」
「家の手伝い?」
「はい! うちはお蕎麦屋さんなんです! 夏はかきいれ時なので大忙しでした!」
「へぇ。お前の家ってそば屋だったのか」
「そうなんです! なので今度先輩達も食べに来てください! サービスしますので!」
「気がむいたら行くよ」
「そんな悠長なこと言わないで今日行こうぜ!」
「今日ですか! ならウチが案内しますよ!」
「それは助かる! ってゆーか近いのか?」
「ここから歩いて20分ぐらいです!」
微妙に近い!ということで行くことが決定しました。隆の意見が取り入れられることはありませんでした。
夏休み初日の授業は、午前授業のため12時には学校の玄関で美緒と合流しました。
「美緒ちゃんの家ってお蕎麦屋さんなんだねー」
「はい!」
「私まで来てしまって良かったのかしら」
「もちろんです! いつもお昼休みにお世話になっているので問題ありません!」
そう言われた一花が美緒の頭を撫でた。
「では行きましょう!」
そう言って美緒を先頭にして一行は学校を出発した。
名波が隆に話しかけた。
「ついに美緒ちゃんちに行けるね」
「そんなに行きたかったのか?」
「前に美緒ちゃんちってどんなんだろうねって話したじゃん。忘れたの?」
「あー。そういえばそんな話もしたな。なんかジブリに出てきそうな家だとか話した気がする」
「でもお蕎麦屋さんっていうことは、看板とか暖簾とか出てるのかなぁ?」
「そりゃ店だからな。暖簾ぐらいは出てるだろ」
「どんなお店なんだろうねー。楽しみー」
今にも鼻歌を歌いそうな名波は、とてもご機嫌だった。
そんな楽しそうな名波を見た隆はフッと笑った。
しばらく木で出来た自然のトンネルを歩くと、一軒の民家が見えてきた。
名波が想像していたような家ではなく、少し古めの普通の民家でした。
「ここです!」
「あれ? 看板とかなくね?」
「あ、看板とか暖簾とかは横側に付いてるんです!」
道路に面した入口には何も付いていないのだが、なぜか駐車場となっている広場側に看板があり、よく見るとそちら側の店舗入口らしき入口のほうに暖簾がかかっている。
浮かび上がってきた疑問を拓馬がそのまま美緒に聞いた。
「これだとお客さんがわからないんじゃね?」
「でもお客さんはみんなお店のほうから入ってくるので、多分分かってくれてます!」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんなんだよ。多分、常連とかしか来ない店なんだろ」
美緒の家の人気を知らない隆が不思議がっている拓馬をなだめた。
「ではお店側から入ってきてください! ウチはカバンとか置いてから行くので!」
そう言うと住居入口から家の中に入っていく美緒。
拓馬達は言われたとおり、店側の入口を開けて中へと入っていく。
スライド式のドアを開けて暖簾をくぐると、景気の良い元気な挨拶が聞こえました。
座敷の席が6組、テーブルの席が4席ありましたが、どれも人が座っていてほとんど満席でした。
「らっしゃいませーぃ!」
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
人数を聞かれたので、名波が代表して答えた。
「私たち美緒ちゃんの友達で」
「あら美緒の! 父ちゃん! 美緒の友達だって!」
店員さんが厨房にいるらしい父ちゃんと呼ばれた人に向かって声を張り上げた。
「なんだってぇ! 美緒の友達!? おい、どうしたらいいんだよ! 父ちゃんは今そば茹でて料理作ってで大忙しだぞ!」
「そんなこと言わないでちょっと顔出しなよ!」
「もう父ちゃんはいいからそば茹でててよ! 他のお客さんだって待ってるんだから!」
厨房の奥から出てきた美緒がエプロンを着けながら、父ちゃんを制していた。
「あら美緒! おかえりなさい!」
「ただいま! 忙しいね!」
「お昼時だからね! ちょっと美緒も手伝ってちょうだい!」
「でも先に先輩たちに座ってもらわなきゃ!」
「あ、私達は待ってますんで・・・」
「すっかり忘れてたわ! じゃあ・・・伊藤さん! ちょっと席譲ってちょうだいな!」
名波の声が聞こえていないようで、常に景気が良い声で会話を続けていく美緒と店員。
そして座敷の席に座っている、伊藤さんと呼ばれた一人のじいさん客に隣の席に移動するように声をかけた。
「俺かい? 全く仕方ないなぁ。美緒ちゃんのお友達じゃなかったらおじさん怒ってるよ。ちょっと清水のじいさん。失礼するよ」
「お。伊藤さんと一緒に食べるのかい。たまには一局どうだい」
「清水さん! うちには碁も将棋も置いてないよ!」
「バカ言っちゃ困るよ。わしらは最近麻雀にハマってるんじゃ。碁とか将棋なんて古い古い」
「冗談は良いから! 早く移動してちょうだい!」
「はいはい」
重そうな腰を持ち上げて清水のじいさんの席へと移動する伊藤のじいさん。
その空いた席へと案内させられた拓馬達はただ呆然としていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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美緒の元気は遺伝です。
次回もお楽しみに!