浴衣萌え
隆は名波と待ち合わせをしていた。
札幌駅からは同じ交通手段なので、札幌駅での待ち合わせとなった。
「ったく・・・」
そしていつものように名波は遅れていた。
毎回待ち合わせの度に待ちぼうけしている隆。別に待たされるのが嫌とかではないのですが、言っても聞かないような学習しない子は苦手です。
隆の中での名波ポイントがどんどんと下がり始めていたその時、改札の向こうから名波が手を振りながらやってきた。
その姿を目視した途端、隆の中の名波ポイントはグーンと上に向かって伸び始めた。
「おまたせー。いつも待たせちゃってごめんねー」
「まったくだ」
いつものように返事をした隆でしたが、心の中は大騒ぎでした。
「今日はちゃんと理由があるんだよ。ちょっと着付けに手間取っちゃって」
そういう名波は、私服ではなく、白地にピンクの花びらが散っている浴衣を来ていた。
隆は、名波の浴衣姿を見てときめいてしまったのです。
「おう。今日はその、なんだ、浴衣だな」
「浴衣だなって・・・どう? 似合ってる?」
その場で一回転する名波。裾がふわっとなって名波がくるっとなる。
「・・・かわいいな」
「えっ? なんて言ったの?」
「・・・もう言わん」
「ねぇちょっとー。なんて言ったのー?」
隆の久々の褒め言葉も、小さすぎて名波には聞こえなかったようです。
札幌駅から地下鉄に乗って数分。
札幌駅を出たときもすごい人数だったが、目的の駅に近づくにつれて、どんどんと人が増えていって地下鉄の中はすし詰め状態だった。
そして駅に着いて人に流されながら改札を出た二人は、人ごみから少し離れて一息ついた。
「すごい人だったね・・・」
「外の空気が新鮮だと感じたのはひさしぶりだ。」
「私も。はぁ・・・なんか疲れた」
「じゃあ帰るか? 俺は賛成だぞ」
「このめんどくさがりめ! これからが本番でしょ! まだ祭りは始まったばかりだ!」
そう言って背筋を伸ばした名波はズンズンと人ごみに向かって歩き始めた。
その後ろ姿を追っていく隆であった。
しばらくすると人が分散し始めた。
土手を登って右に行く人。左に行く人。橋をわたって対岸まで行く人。秘境を求めて見当違いの場所へと行く人。
「うーん・・・打ち上げはあっちっぽいよ? どうする?」
「風下は嫌だな」
「じゃあ左側に行ってみる?」
川の上流から下流に向かって風が吹いているということで、二人は上流の方へと歩き始めた。
他の人たちも上流へと向かう割合が多くて、それなりに人は減ったがまだ多いことには変わりなかった。
「全然人減らないな」
「みんな考えてることは同じなんだね」
「そりゃ煙が来る風下よりも風上のほうがいいわな」
「そうすると人が多くなると。まるでいたちごっこだね」
「・・・ちょっと違うな」
そんな会話をしながら落ち着いて花火が見れそうな場所を探す隆と名波。
駅を出てからすでに20分ぐらい歩いていた。
なかなかめぼしい場所が見つからなくて、歩き疲れそうなぐらい歩いていると、名波が川のそばの芝生なら人が少ないことに気がついた。
「隆。芝生のほうは?」
「芝生? 俺はいいけど、お前は浴衣だから草露とかついたら大変じゃねぇの?」
「そんなこともあろうかと・・・じゃじゃーん!」
名波が持っていたちいさなカバンから出てきたのは、水玉模様の小さなレジャーシートだった。
「これなら座っても大丈夫でしょ」
「持ってたなら早く言えよな」
そう言われて今まで歩いてきた道のりの芝生の上を見ると、結構な場所が空いていた。
「ごめんごめん。芝生が手薄だよって教えてくれたら、すぐ用意したのにー」
「持ってるなんて気づかんわ。ってゆーかよく入ったな」
「綺麗に折ったら入った」
そうドヤ顔で言う名波はどこか誇らしげだった。実はこのシートを入れたのは、他ならぬ名波の家の家政婦さんなのは内緒である。
シートが入らなくて悪戦苦闘していた名波をみつけた家政婦さんが、職人のような手つきで空気を抜きながら折りたたみ、鞄の中へとすっぽり収めたのである。
『すごーい! どうやって入れたのー?』
『綺麗に折って入れただけですよ』
『職人みたい!』
『いえいえ。私はあくまで家政婦ですよ』
とのこと。
「さて。じゃあ場所も確保したことだし、つまみでも食べるか」
そう言って、花火が打ち上がるまで時間がまだあるので、持っていたビニール袋の中から、うまい棒を取り出すとサクサクと食べ始めた隆。
名波も袋から取り出したポッキーをポリポリと食べています。
しばらく他愛もない話をしているとドーンと花火の音が聞こえて、大きな光が空に散らばった。
「「おぉー」」
その大きな音と光に反応して、お菓子を食べる手を止めてたまま、綺麗な夏の花火に目を奪われる隆と名波であった。
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