吹雪の帰り道
「うー・・・寒いよー・・・」
「寒いって言うから寒いんだ。暖かいと言えば暖かくなるぞ」
「そんな馬鹿な。寒いもんは寒いよ?」
「馬鹿なのはお前の方だ。嘘だと思うなら10回言ってみろ」
「やってやろうじゃないの! 暖かい暖かい暖かいたたたかい暖かいあたたかいあたたたかいあかかたかい・・・」
「普通に10回言えるように頑張れよ」
隆が名波をからかいながら帰り道をのんびりと歩いていた。正確には吹雪のために早く帰ることができなかった。
大雪だけなら少し歩きにくい道だけが難点なのだが、これに風が加わるととても厄介だった。人はこれを吹雪と呼んだ。
吹雪は風と大雪のコンビネーションで襲いかかってくる。吹雪を経験したことがない人はわからないかもしれないが、吹雪の恐ろしさは大雪でもなく風でもなく顔面の冷たさである。顔を背けるぐらい冷たい風。その時に入り込んでくる雪。
単体ならば問題はないのだが、二つが合わさることによって『前が向けない』という状態になるのである。
そんな状況に陥っている隆と名波。北国の人間なら冬に一度はやる後ろ向き歩きでこの状況を凌いでいた。
後ろ向きなので前は見えないが、歩きなれた道なので前を見なくても後ろ向きの風景だけで歩けるのだ。
「ん? 黒木。お前のカバンのチャック開いてないか?」
「えっ? 嘘?」
吹雪の日にカバンが開いていると、そこから雪が入ってきて、教科書類が大変なことになる。それは阻止せねばと慌ててカバンを確認する名波。
いつもとは逆にお腹側に抱えるように持っているリュックのチャックを確認しようと顔を傾けた。
その瞬間、ものすごい突風が襲いかかった。
その風圧でかぶっていたフードがめくれてしまい、可愛い顔と黒い頭があらわになる。
「冷たい冷たい冷たい! イテテテッ!!」
頭皮に冷たい雪風が当たり、凍えるような寒さを文字通り肌で味わう名波。その横で後ろを向いたまま姿勢を崩さずに、ケラケラと笑う隆。
「カバンのチャック開いてないし! しかも寒いし!」
「そうだったか。スマンな」
「相変わらず嘘つくのがお上手なことでっ!」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。姫様」
どうしてこの二人で歩いているのかというと、拓馬が先生に呼び出しをくらったのである。
なんでも提出したノートに、やたらとリアルすぎる黒タイツの絵を描いてて、それを消さずに提出してしまったのを先生に発見されてしまい、放課後の職員室によびだされたのである。
いつになるかわからないということもあって、先に帰ろうとしたところ、名波が『一人って寂しいでしょ? こんな吹雪だし一緒に帰ってあげようか?』と誘ってくれたので、隆は丁重にバッサリと『雪に埋もれていろ』と返事を返したところ、いつものように地味に負けず嫌い精神を発揮して『いいもん! そこまで言うなら勝手について行ってやる!』ということになり今に至るというわけだ。
隆は名波のことが嫌いな訳ではない。しかしそれは学校の中での話で、学校の外となると話は別だ。
こうやっていじっている時はまだ話すことがあるのだが、どうも二人きりになると何を話したらいいのかわからなくなってしまう。別に緊張しているからというわけではなく、ただ単に話すネタがないのだ。
一方名波は、明るい性格・・・無邪気・・・純粋な性格。これですね。純粋な性格なので、隆と帰ることにはなんの抵抗もなかった。むしろ学校の中でもあんなに仲良くしてくれるのだから、学校の外でも仲良くしてくれると思っている。そんなところで名波は隆と一緒に帰っても苦痛とも面倒ともなんとも思わなかった。
「またそうやってイジワルばっかりして。将来根っからのクソジジイになっちゃうよ?」
「お前だからイジメるんだよ。他のやつになんてやらないさ」
「ちょ、ちょっと、どういう意味ですかっ」
「何勘違いしてるんだ? お前ならMだからいじってもいじっても不死鳥の様に何度でも蘇ってくるけど、他のやつは自分が何回も何回もいじられてるってわかったら、あんまり近づいてこないもん」
「私はMじゃないから」
左手を前(後ろ向きに歩いているので後ろ?)に突き出す名波。
「・・・Mじゃないのか?」
「もちろんです」
「じゃあなんで俺たちにいじめられに来るんだ?」
とても疑問に思っていたことを隆は聞いた。
拓馬と二人で構想していた『黒木M説』が違うのであれば、なんで自分たちと一緒にいるのかわからない隆だった。
「なんでって言われても・・・」
しかし名波からしてみれば、『仲良くしてる=友達』と『仲良くしてる=拓馬と隆』という連立方程式が成り立っているため、答えにくかった。
自分は『友達』だと思っていたのに相手はなんとも思っていなかった。こういう状況である。
「私たちって・・・友達じゃないの?」
「友達ってどこからが友達なんだ?」
「えー・・・そこから聞いちゃうの?」
名波は心の中で落胆していた。
「互いが友達だと認めていたなら友達だよ」
「そんなもんなのか?」
「そーゆーもんなの!」
「まぁ確かにお前をいじるのは楽しいから友達でもいいか」
そんな隆の言葉を聞きながら、一瞬だけ名波は心の中で、照れ隠しか?、とも思っていた。が、隆に限って照れなんて感じるわけがないと思い直し、表面上は変わらなくても少しだけ今までの関係から後退したような気がした名波だった。
実はその時の隆が『友達』というフレーズに照れていたのは、隆しか知らないのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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隆くんの隠れたデレです。
次回もお楽しみに!