お誘い(拓馬と隆編)
受験勉強ばかりしている夏休み。
受験生としては当然なのかもしれないが、拓馬にとって勉強というものが、とてもめんどくさいというのが本音である。
結局、隆と一花はそれぞれ夢のためにそれなりに高レベルな大学へ、名波も大学へ進学して教育系の道に進むことを決めた。
しかし拓馬だけはとりあえず大学へ進んで、それから考えるということだった。
周りが目標を決めたのに、自分だけはなにも目標が無いというのが少し寂しかったのである。
そんな拓馬は、憂さ晴らしというわけではないが、近所のスーパーで夜ごはんの材料を調達し終えたところだった。
「はぁ・・・帰ったらまた勉強かぁ・・・」
思わず口に出して呟いてしまったが、周りには誰も居なかったので、聞かれることは無かった。
最近は、勉強をしながらもそのことを考えてしまって、拓馬の口からはため息がいつもより多く出ていた。
「なんだって、あんなに目標とか決めれちゃうんだろうなぁ・・・」
まだ若いのに。とか思ってます。
人生を決める大きな分岐点というのは10代のうちに済ませるもので、そんな大事なことをこんなに若い時期に決めさせるのはどうなのか。とかも思ってます。
「10年後の俺って何してるんだろ・・・やぁ。オレだよ。10年後のお前だよ。俺は今・・・うわぁ! 全然予想できねぇ!」
一人でブツブツと呟いては、変なジェスチャーを入れて歩いている拓馬は、明らかに不審者そのものだった。周りに誰も居なくてよかったですね。
と、思っていたら少し後ろに誰かいました。
拓馬はまだ気づいてないようですが、その人物は拓馬を見て笑いをこらえているようです。
よく見てみると、二人いますね。
電信柱の影から仲良く二つの頭を出してのぞき込んでいます。
「ちょっとタカ兄。やめなよ。のぞき見なんて」
「そういう望だって見てるじゃねぇか」
「僕はタカ兄が拓馬の邪魔しないかどうか見張ってるだけだよ」
「この屁理屈魔人め」
隆と望でした。
二人は母親からのおつかいを頼まれてスーパーに来たのですが、入口で拓馬がため息をついて肩を落としながら歩いているのを見つけると、すぐさま尾行を開始しました。
「それにしても拓馬が悩んでるなんて珍しいね」
「そうか? 最近、しょっちゅう悩んでるみたいだぞ。まぁあいつの脳みそじゃ自分で答えを導き出すのは難しいけどな」
「拓馬、かわいそうに。一番の親友にこんなに影でボロクソに言われてるなんて思いもしないだろうね」
「大丈夫だ。本人の前でも言ってるから問題ない」
「うわー。ひどーい」
そんなことを話しながら電信柱に身を潜めながら尾行しています。
この状態の拓馬なら普通に後ろを歩いていてもバレなさそうですが、念には念をいれてということです。
しかしこの尾行にも飽きてきたのか、隆が電信柱からからだを現しました。それに習って望もからだを表します。
「おーい拓馬ー!」
今見つけたかのように拓馬に声をかける隆。
その声に振り返った拓馬は、隆に向かって手を振ります。
「おーっ! なんという偶然!」
「全然偶然じゃないけどね」
「うるさい。黙ってろ」
「ん? なした?」
「なんでもねぇよ」
「拓馬は夜ごはんの買い物?」
「おう。今日は麻婆豆腐とチャーハンだ。暑い日こそ汗をかかないとな」
「汗かきすぎたら死ぬぞ」
「そこまで辛くしません」
尾行のことを悟られないように、なんでもないような会話を続けます。
若人だけの井戸端会議をしていると、望が二人に向かって言いました。
「そういえば今後の夏祭りって行くの?」
「あー、神社のやつか」
「神社ってあの小さい神社?」
「うん。僕は希ちゃんと行くんだけど、一応二人とも名波さんと市原さんという彼女がいるわけだから行くのかなぁって思って」
「さすがにあそこはなぁ?」
「だよな。俺たちからしてみたらちょっと小さすぎるもんな」
近所の神社で夏祭りがあるのですが、そこは近くに望が通う小学校があるので、どうしても祭りの対象年齢が下がってしまい、出店も敷居が低いものが多い。高校生がデートで行くにはちょっと物足りないようなお祭りである。
「そっか。タカ兄も拓馬ももう大人なんだね。あんな子どもじみたお祭りなんか興味ないよね」
「何が言いたいんだ?」
「別に希ちゃんがタカ兄を連れていって、たこ焼きとか買わせようとか考えてたなんて僕の口からは言えないよ」
「アホか。誰が行くか」
「希ちゃん。僕、ダメだったよ」
そう言って希がいるであろう自宅の方を向いて目を閉じて謝る望。
その時、拓馬と隆のケータイの着信音が鳴り出した。
「ん?・・・一花だ」
「俺は名波から」
メールの文面を読んでいく拓馬と隆。
一花『件名;デートのお誘い 本文:今度花火大会があるのですが、一緒に見に行きませんか? 今回は木下君と二人で行きたいです。』
名波『件名:花火大会! 本文:今度の花火大会、一緒に行かない? 今回は久しぶりに二人で行きたいんだけど・・・どう?』
それぞれのメールの内容を伝え合うと、そーゆーことかと頷きあった。
「じゃあ今回はあの二人のために別々で行きますか」
「だな。どうせ一緒にいるんだろうよ。こっちも同時に送ってやろうぜ」
同じような文章を送るために、楽しそうにケータイをいじっている二人を、ニコニコと微笑んでいる望が見ていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次回は名波と一花のターンです。
次回もお楽しみに!