復活アイテム
北海道の学校にはクーラーというものが存在しません。
北海道に限ったことではないのでしょうけど、窓を開けて外からの新鮮な空気のみを取り入れて、夏の暑さにも負けないからだを作ろうという学校は少なくないようです。
そして今日は真夏日を通り越しての、猛暑日です。
こんな日に限って風は全く吹いていません。
授業と授業の間の休み時間に、一花の横の席で今日も元気に隆がへばっていました。
「相沢君? 大丈夫?」
「・・・あ゛ぁ?」
「・・・怒ってるの?」
「怒ってねぇよ・・・いや、こんな暑い地球に怒ってはいるけどな。これ訴えたら勝てると思うぞ」
「勝てるの?」
将来、弁護士希望の隆に名波が聞いた。
「まず被告人が裁判所に来れねぇよ。同じ舞台に立ってくれないと始まらん」
「それもそうね」
そう言って心底暑そうにしている隆を心配して、一花が下敷きで扇いでくれました。
「おぉ・・・生き返るようだぁ・・・」
「それは良かったわ」
「俺、委員長と友達で良かったぁ」
「ありがと」
「隆ー。教科書貸してくれー」
隣のクラスから拓馬がやってきました。
拓馬の姿を視認した一花の手がピタッと止まって、隆に送られていた風がピタリと止まりました。
その時、隆の顔が一瞬で嫌そうな顔になりました。
「お前に教科書は貸さん」
「えーっ! なんでだよー!」
「わめくな。暑いうるさい邪魔くさい」
「そこまで言うことないだろー」
「せっかく委員長が俺のオアシスになってたのに、そのオアシスを取り上げやがって・・・」
ぶつくさと文句を言う隆。
何事かと思い、一花に状況説明を要求した。
「相沢君が暑くて死にそうって状態だったから下敷きで扇いでたのよ」
「そんなに暑いのかよ」
「・・・・・・」
「隆ー。シャープの芯ちょうだーい」
そこへ名波も合流しました。
「お前、芯ちょうだいって図々しいだろ」
「だって無くなっちゃったんだもん。それに拓馬もなかなか戻ってこないから暇で」
「扇いでくれたら芯でも教科書でもくれてやるよ」
そう言われた拓馬と名波は、一花から教科書とシャープの芯を受け取ると、隆に別れの挨拶をした。
「じゃあな。隆にはがっかりしたよ」
「芯もくれないなんて友達の片隅にも置けないね。もう観葉植物以下だよ」
「それはどういう意味なのかしら?」
「あっ。観葉植物って部屋の片隅に置いてあるでしょ? だから片隅にも置けないってこと」
「うわっ。わかりずらっ」
「黒木さんにはお笑いのセンスが無いわね」
拓馬と一花にボロクソに言われ、隆に助けを求める名波。
「隆ー。私ってそんなに笑いのセンス無い?」
「あるとかないとかじゃなくて、さっき人のことをあんな扱いしておいて、よくそんな質問ができるな」
「えーっ。だって委員長がくれたんだもーん」
「そうそう。隆に借りなくても、ノーリスクで一花から借りれるしな」
「褒めてもなにも出ないわよ」
そう言いながらも、拓馬と名波にシャープの芯を一本ずつプレゼントする一花。
そして名波が何かを思い出したようで、『あっ』と声を出して自分の教室へと戻っていった。
「どうしたのかしら?」
「さぁ?」
するとすぐに名波が戻ってきて、手にもっていた物を隆に渡した。
それは電池で動くミニ扇風機だった。
それを渡された隆は、すぐに起動させて顔に風を送った。
「あぁ・・・生き返る・・・」
とても幸せそうな顔をしている隆を見て、3人は目を合わせて呆れていた。
「ってゆーかこんなの持ってたなら、早く言えよ」
「だってこれ私のだもん。隆が自分で持ってくればいい話でしょ」
「細かいことはいいんだよ」
「会話になってませんよー」
名波の会話もそこそこにミニ扇風機を顔に近づけて、幸せそうにする隆。
「こんな相沢君、レアね」
そう言うなり、ケータイで隆の横顔を撮影する一花。
幸せの絶頂にいる隆は、撮影されていることにも気づいていません。
そんな一花を真似て、名波も撮影を始める。
「あ、私も撮るー」
パシャリパシャリ。
するとそれを見ていたクラスの女子(主に隆の隠れファンの方々)が『私もー』と言いながら、隆を取り囲むようにして撮影を始めた。
ちょっとした撮影会が始まっってしまったのですが、被写体である隆本人は、人口密度急に増えたことによって熱くなりだすまで、その光景には気付かなかったんだとか。
それを一部始終見ていた拓馬が呟いた。
「なんだかなー」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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夏は嫌いです。
正確には暑い夏が嫌いです。
涼しい夏とかあればいいのになぁ。
次回もお楽しみに!