弁護士と会計士
「隆の将来の夢って何?」
拓馬、隆、名波の3人で登校していた時に、名波が隆に問いかけた。
「ん? 将来の夢っていうのはな、その人間が大人になって死ぬまでにどんなことをしたいかっていう、ひとつの目標みたいなもんだ」
「違うよ。私が聞きたいのは、どんな職業につきたいのかってことだよ」
「そーゆー意味か。俺は弁護士になるんだ」
「あー、隆って頭いいもんねー」
「頭がいいからなるんじゃなくて、なるために頭よくなったの。こう見えてもちゃんと将来設計してんの」
「さすが隆ー」
感心している名波の横で、拓馬が口を開いた。
「隆は前から弁護士になるって言ってたもんなー」
「えっ! そんなに前からなりたかったの?」
「まぁな」
「ふーん。じゃあ拓馬は?」
「俺? 俺は特に無いかな。とりあえず大学には行って、それから将来のこと考える。なりたいものもやりたいこともないし」
「拓馬らしいといえば拓馬らしいね」
「そーゆー名波はどうなんだよ」
「私も特にないんだよね。だから聞いてみたの」
「なんだよ。全然話広がらないじゃねぇかよ。結局決まってるのって俺だけじゃん」
それを聞いた拓馬と名波はエヘヘヘと頭をかいた。
「あっ、じゃあ委員長は? 拓馬聞いてないの?」
「一花かぁ・・・何になるんだろうな? そーゆー話したことないからわからん」
「どうせ拓馬のお嫁さんとかそんなんだろ」
「委員長なら言いそう」
「否定できないところが悔しいぜ・・・」
そして時は流れて昼休み。
いつものように4人で昼ご飯を食べていて、その話題になった。
「私は会計士になろうと思ってるわ」
「計算高そうだもんな」
「それは侮辱と受け取ったほうがいいのかしら?」
一花の鋭い視線に、隆は顔をそらすことで生きながらえた。
「なんで会計士なの?」
「安定しているからかしらね。年収もそれほど安くはないし、公認会計士として働いて経験を積んでから、税理士の資格をとって独立ってこともできるのよ」
「うへー。難しそうだねー」
「そうかしら。なってしまえばあとは慣れと手際の良さの問題だと思うわ。そういう意味では、弁護士の方が大変だと思うわ」
「そうなのか?」
拓馬が一花に訪ねた。
質問攻めにしているようにも見えますが、拓馬と名波が知らなさすぎるだけなので、一花がそれに答えまくっているだけです。
「もちろんよ。だって会計士と違って、他人の人生を左右する仕事なのよ。もし冤罪とかで間違った審判が下れば、その人は大変になるし、その担当した弁護士の株だって落ちるわけじゃない」
「おぉ。そう言われてみると大変な仕事だな」
「でも弁護士だって会計士だって、どっちも国家資格なんだから同じくらい大変だろ」
「それは大変に決まってるわよ。相沢君だって同じかもしれないけど、その道を選ぶってことは簡単なことじゃないのはわかっているはずよ」
「わかってるよ。倍率なんぼだと思ってんだ。3%だぞ。倍数で言うなら0.03倍だぞ。もう意味わかんねーよ」
「会計士だって9%よ1桁なら大して変わらないわ。逆に言えばそれだけ受けて落ちてる人が居るってことよ」
「はぁ・・・数字で言ったらそうかもしれないけど、俺は負けず嫌いだから絶対なるけどな」
「あら。私だってなるに決まってるじゃないの」
ニヤリと口元に笑みを浮かべる、隆と一花。
そんな次元違いの話を目の前で繰り広げられた拓馬と名波は、完全に置いてけぼりだった。
「ねぇ拓馬」
「多分同じこと思ってると思うけど、一応聞くよ。なんだ?」
「そろそろ将来のこと考えないといけないのかなぁ?」
「俺も全く同じこと考えてた。この二人見てると、将来設計出来すぎてんだよな」
「そうそう。ちょっとプレッシャーしか感じないよねー」
「だよな。俺、料理学校でも行って料理人になるかなー」
「えー、ずるーい。今、何も考えてないって言ったばっかじゃん」
「ずるいって言われても困るわ。名波も考えたらいいじゃん」
「えー・・・なんにも思いつかないし」
しょんぼりしながらお弁当の玉子焼きを口に入れる名波。
それを見て、自分のお弁当から唐揚げを一つ口に入れる拓馬。これはザンギではなくてただの唐揚げです。
二人でモグモグとしながら、目の前で繰り広げられている、超次元国家資格トークをぼんやりと見つめた。
そして拓馬は思った。
『このままだと俺、一花に養われるんじゃね?』
午後の授業から妙に必死になって授業を受けている拓馬を、隣の席で不思議そうに見ている名波なのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
どういう進路になるかはお楽しみです。
活動報告のほうで、22年後の話を掲載してます。
興味があって、なおかつネタバレOKな方は読んでみてください。
次回もお楽しみに!