相沢家
「ただいまー」
そこらへんにあるような一軒家。
いつものように鍵を開けて帰宅する隆。どうやら隆が一番乗りで帰宅したらしく家の中からは物音がしなかった。
リビングのソファーにカバンを投げて、冷えきっている室内を暖めるためにストーブを点火。その足で冷蔵庫から麦茶を出してコップに注いで一息つく。
隆の両親は共働きのため、この時間に帰ってくることはあまりない。
夕食までには母親は帰ってくるが、最後に父親と食卓を共にしたのはいつだったやら?
別に仲が悪いとかそーゆーわけではなく、時間が合わないのでそーゆー生活に慣れてきてしまっているだけだ。現に母親と父親は休みが合うと、デートと称して子どもをほったらかして出かけてしまう。
隆と双子の二人もそれを分かっているので、あまり気にしていない。むしろその時間で好き勝手しているので、お互い様だと思っている。
「あれ? 鍵空いてる。ただいまー」
テレビでも見ようかと思っていたら、玄関から声が聞こえた。この声は弟の望だ。
そう思った隆は麦茶を手に、玄関へと向かった。
「よう。おかえり」
「あ、タカ兄か。ただいま」
小学生5年生の双子の片割れの望は隆のことを『タカ兄』と呼ぶ。物心ついたときからそうやって呼ばれていた。
望に聞いたところ、『普通に兄ちゃんって呼ぶの恥ずかしいじゃん。タカ兄だとそんなに恥ずかしくないから』とのこと。
隆には全然理解できなかったが、そーゆー年頃なのだろうと思うことにしていた。
逆に今になって『お兄ちゃん』なんて呼ばれたら、気持ち悪さで病気かと疑ってしまうだろう。
「今日は希は一緒じゃないのか?」
「希ちゃんは掃除当番だから少し遅くなるってさ」
この双子は互いのことを『希ちゃん』『望くん』と呼び合っている。全く双子というのはよくわかりません。きっとお互いのことはシンクロしているかのようにわかるんでしょうけどね。
その時、ふと隆は気づいた。
「・・・そういえば望に言われてたエロ本あったろ? あれいつものとこに入れておいたからな」
「ちょっとタカ兄! また望くんに変なこと・・・はっ!」
「まーた入れ替わってんのか」
はぁ、とため息をつく隆。
何を隠そうこの双子、隆と同じでイタズラ好きなのだ。
顔が似てることをいいことに、しょっちゅう互いの服を変えて隆のことを騙そうと企んでいる。
結局毎回見破られてしまうのだが、懲りずに何度もチャレンジしている。この双子は自分たちのことを見分けられる隆が好きなのだ。
隆もそんな双子のことを嫌いではないので、この入れ替わりのイタズラに付き合っている。
前に両親に試しに入れ替わりをしてみたところ、一発でバレた上に、父親による撮影会まで始まってしまった。『どうして希が望の服着てるの?』って感じで騙すとかそーゆー問題ではなかった。
ちなみにこの子ども達の父親だけあって、父親が撮影会で撮った写真は額縁に入れてリビングの壁に飾ってある。親バカなんだかどうなんだか。
「で、望はどうしたんだ?」
「望くんのほうが掃除。ねぇ、どうしてタカ兄は簡単に見分けられちゃうの?」
「そりゃ家族だからな」
「お父さんとお母さんもそうやって言うんだもん。何か理由があるから見分けられるんでしょ?」
「うーん。父さんと母さんはどうかわからんけど、俺は希が『肌の弱い方』。望が『目が少し小さい方』って感じかな」
「あたしって肌弱いの?」
「いや、望に比べたらってことだからな。望の肌が強すぎんのかもしれないけど」
望の格好をした希が顎に手を当てて考え事をしながらリビングへと向かっていく。その後に続いて隆もリビングへと入り、ソファーに腰を下ろす。
希が隆と同じように、冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぎ、隆の横にドカッと座る。
「あーぁ! なんか入れ替わりするのも飽きてきたなぁー!」
「飽きてきたって家族にしかやってないんだから仕方ないだろ」
「タカ兄~なんか面白そうなこと無い~?」
「お前は悩める若者かよ。望にエロ本見せるっていうのはどうだ?」
「だから! 私の望くんに変なこと教えないでよ!」
ソファーに座りながら隆と希が喋っていると玄関が開く音がして、ただいまーと声がした。
「ん? 望くんかな?」
そう言うなり希が素早く立ち上がり玄関へと走っていく。
玄関には希の格好をした望が立ったまま靴を脱いでいる最中だった。
その望へと希が飛びつく。華麗に希を抱きしめるようにキャッチする望。
「またバレたの?」
「タカ兄には全然通用しなかった」
「そっか。じゃあ仕方ないね」
「うん。おかえり望くん」
「ただいま。希ちゃん」
そう言って軽くキスをする双子。
まるで恋人同士な二人。隆と双子がこのことについて話したことがあった。
『お前らはデキてるのか?』
『『デキてるって何が?』』
『その、なんだ、付き合ってるのかってことだ』
『僕ら付き合ってるの?』
『よくわかんないけど、望くんのことは好きだよ』
『僕も希ちゃんのことは好きだよ』
『双子なんだから好きでもおかしくないと思います!』
『僕も希ちゃんと同じです!』
リビングから出てきた隆が、廊下の壁に寄りかかりながら双子を見ている。
そして麦茶を一口飲んで一言。
「俺からしてみればそれが一番のイタズラだと思うんだけどな」
もはや本当に好き合っているのか、それともただの演技なのかわからない二人に、疑問しか浮かばない隆であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
さて、次回からはまた日常コメディ(笑)に戻ります。
次回もお楽しみに!