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木下家

「ただいまー」


自宅のマンションのドアを開けて家の中へと入る。

拓馬が家に帰るとまず最初にやることは、皿洗いだった。

母親だけの片親のためにと思い、まだ収入の無い拓馬は家のことを色々とこなしている。

皿洗いもその一つだ。別に母親からやれと言われたわけでもなく、自ら進んでやっているのである。

隆が変態な拓馬とつるんでいるのは、こういう母親想いな一面を知っているからなのかもしれない。

皿洗いが終わると自分の部屋に行ってカバンを置く。

そしてリビングへと戻ってきてテレビで再放送のドラマを見る。


「ただいま。あ、拓馬。帰ってたの」

「おう。おかえり。今日バイトは?」

「んー?今日は休みだからまっすぐ帰ってきた」


拓馬の姉の芳恵(よしえ)が帰ってきた。大学生の芳恵は居酒屋でバイトをしている。

給料の一部を家に入れているらしい。表面上は良く出来た姉だが、家ではぐーたらしていてだらしない姉と化してしる。部屋は汚いわ下着のままうろつくわ髪はボサボサだわで、外面以外はダメな人間だと拓馬は思っている。


「なんか飲む?」

「んー。酒」

「ねぇよ。麦茶かコーヒー牛乳か水」

「じゃあコーヒー牛乳」


そう言って芳恵は洗面所に向かい、着ていた服を脱いで楽な格好、もとい下着姿になりソファーに座る。冷蔵庫からコーヒー牛乳を出している変態で有名な拓馬だが、実の姉に興奮するほど変態ではない。そーゆー設定のやつとかもあるけど、実際に姉がいる拓馬としては吐き気がするほどありえない。


「そういえばあんたまだ彼女できないの?」

「できてないよ」


コップに入れたコーヒー牛乳をキャミとパンツだけになった姉に渡す。

芳恵は拓馬の恋愛事情についてやたらと細かく聞いてくる。他の家の姉を知らない拓馬は、全国の姉はこーゆーもんだと思っている。


「そーゆー姉ちゃんはどうなんだよ。彼氏とうまくいってんのかよ」

「あー・・・もう別れた」

「はぁ? 彼氏できたーって騒いでたのちょっと前じゃん!」

「いや、その、なんていうの? 方向性の違いってやつ?」

「どこのバンドマンだよ。ホント長続きしねぇよな」


芳恵の恋愛は長続きしないことは木下家では有名なことだった。

最短で付き合ったその日に別れたというのがあった。


「どうせあれだろ? いつもみたいにだらしなさ過ぎとか言ってフラれたんだろ?」

「なんでわかった?」

「いつもそればっかじゃん。直す気はないのかよ」

「ありのままの私を受け止めてくれる人が現れるのを待っているのよ!」


芳恵は舞台劇調で言うと、コーヒー牛乳を一口飲んだ。そんな芳恵に拓馬は呆れてものも言えない。


「・・・ただいま」

「ん」

「おかえり。俊哉もなんか飲むか?」


静かに帰ってきた拓馬の弟の俊哉(としや)は、拓馬の質問に首を振ると自分の部屋に入っていった。

芳恵と目を合わせた拓馬は肩をすくめる。

中学3年の俊哉はいわゆるアイドルオタクである。

テレビで見かけたアイドルに惚れて以来、いろんなアイドルをチェックしては応援している。

さらに最近は自分の周りで可愛い子もチェックリストに入っているらしく、ちょっとした気持ち悪い変態になっている。というよりも変態に気持ちいいも気持ち悪いもないと思う。気持ち悪いから変態という名で呼ばれるのだ。

拓馬と隆が名波を俊哉に会わせたくなかったのはこのせいだった。確実にそこらへんのアイドル並みに可愛い名波を俊哉が発見したらどうなることやら。


「俊哉ってまだ追っかけしてるの?」

「みたいだよ。いつまで続くんだろね」

「ってゆーか受験じゃないの?」

「なんか俊哉の好きなアイドルが在学してた高校が学区内にあるからってそこ狙ってるらしいわ」

「うわー。ないわー」


心底嫌そうな顔をする芳恵。拓馬は少し俊哉のことが心配にはなっているものの、自分ではどうしようもないので、なるべく口を出さないようにしている。

一方、部屋に向かった俊哉。


「はぁ。姉ちゃんも兄ちゃんもうるさいんだよなぁ。ここまで聞こえるっつーの」


そう言ってパソコンの電源を入れていつものアイドルの動画やらを見ながら受験勉強を始める。

一応アイドルオタクと呼ばれている俊哉だが、受験勉強とかはちゃんとしていた。


「あと少しでユリちゃんと同じ高校に入れるんだから勉強しないわけないじゃんっての」


ユリは、俊哉が応援しているアイドルグループの一人である。

俊哉がユリのことを知ったのは、去年の秋頃にやっていたTV番組で出ていたときだった。

まだデビューしたての高校生ユニットという形で紹介されていた。そのグループのなかで飛び抜けて可愛い子がいた。それがユリだった。

ユリに心を持っていかれた俊哉は、パソコンで情報をかき集めて、出演するTV番組は全てチェックした。そんな生活が3ヶ月ぐらい続いていた。その頃には俊哉は『アイドルオタク』と呼ばれるようになっていたが、本人は全然気にしていなかった。そんなことを気にするぐらいなら、ユリのことを気にしているほうが自分のためになっているような気がしていた。

最近はテレビに出ているアイドルとユリを比べる時のように、自分の周りの女子にも点数を付けてユリと比べるまでの変態となってしまった俊哉。

隆からは『ほどほどにしろよ』と言われているので、ちょっと後ろめたくもあるが、『これが俺の生き方だ!」と思うようにすると、何も気にならなくなってきた。

新の変態の境地に足を踏み入れた瞬間だった。


「よし。今日も勉強頑張るかな。ユリちゃん、応援しててね」


そう画面に映るユリに話しかける。

そんなこんなで俊哉はユリの未来と自分の未来のために、画面の向こう側にいるユリを見ながら受験勉強に励むのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると踊り狂います。


次回は隆くんのお家です。


次回もお楽しみに!

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