黒木家
「ただいまー」
「「おかえりー!」」
いつものように名波が家に帰ると、双子の妹の桜と遥が走ってきた。
名波に飛びつく双子をお姉ちゃんパワーを発揮して両腕で受け止めると、双子の同時頬ずりを両頬に受ける。
「いやーん! 超カワイイ!」
「「お姉ちゃんも超カワイイ!!」」
これが黒木家の『おかえりなさい』である。他の家庭はどうなのか知らないが、名波にとってこれが普通だった。
しかし名波は気づいているのかどうかわからないが、桜と遥は中学生である。その双子が飛びついて来るのを毎度毎度受け止めている名波はどんな腕力をしているのだろうか。それとも双子が手加減しているのか。それは本人たちしかわからないことである。
「今日はなんかいいことあったの?」
名波の顔から自分の顔を離して、遥よりもしっかり者の桜が名波に聞く。桜は勉強から家事まで教えたことならなんでもできる万能少女だ。
「今日はねぇ・・・これはご飯の時に話そうかなー」
「そんなにいいことだったんだねー」
「まぁね」
「遥もいいことあったんだよねー!」
「え、う、うん」
「遥もいいことあったのか! なになに、聞かせて?」
そう言われた遥は少し照れながら言う。桜に比べて照れ屋な遥。しかし遥はスポーツ万能で球技から陸上競技までなんでもできる運動系女子だ。
「あのね、今日の体育の授業で先生に鉄棒やってみろって言われたから一番大きい鉄棒で大車輪したら、すごい褒めてもらえたの!」
話しながらだんだんと笑顔になっていく遥を見ると、どれだけ嬉しかったのかがわかる。
「おぉー! 大車輪って何かよくわかんないけど嬉しそうだからお姉ちゃんも嬉しいっ!」
そう言って双子に抱きつく名波。遥は抱きつかれながらも大車輪の説明をしている。その説明を聞きながら双子の体温を感じる名波。
名波の愛する双子は、名波が4歳の時に生まれた。
ちょうど名波が幼稚園に上がった時の春に生まれた双子だ。
両親から大切に育てられた名波は、双子が生まれる前から両親に『名波の妹が一気に二人増えるんだぞ?』と言われていた。
その頃から真面目で頑張り屋さんだった名波は、『二人の妹達のためにも一杯私が面倒見なくちゃいけないんだね!』と言うようなことを両親に言っていたらしい。(両親談)
双子が生まれてからも、母親の手伝いをしたり、ご飯を食べさせたりもしていた。
しかしある日、双子の世話を父親としていると、桜の口から『パパ』という単語が飛び出した。これが桜の第一声だったのだ。
父親は泣いて喜ぶ始末。その時一緒に聞いていた名波は『どうしてこんなにお世話しているのに、自分の名前ではないのか?』とベーベー泣き出す始末。
その後遥も同じ日にしゃべるのだが、桜と同じく『パパ』が第一声となった。
のちのち、母親が名波の怒りを鎮めるために調べてわかったことだが、赤ちゃんは最初に話す言葉と言うのは『パパ』が一番多いらしい。
赤ちゃんにとって『パパ』という破裂音の連続はとても発音(この場合は発声?)しやすいために、『パパ』が第一声となるのは珍しくないそうだ。
口をパクパクさせながら話そうとしてしまい、まだ発音に慣れていない赤ちゃんが声を出そうとすると『パパ』と発音してしまうらしい。
『だから名波って言いたかったのにパパって言っちゃっただけかもしれないわよ?』と母親が言った言葉が決め手となって、名波の怒りは鎮まった。
なので全国のお父さん。残念でした。
こんなこともあって、双子への愛の供給を今まで怠ることをしなかったので、名波は双子の妹達が大好きなままだし、双子も名波の愛を存分に受けながら育ち、名波のことを大好きな妹達として今に至っている。
まさに自他共に認める仲良し姉妹と言えるであろう。
「でね、それから放課後になってそいつのところに言ったんだけど、ケロッとしてるの。でも忘れられてなくて良かったなぁ」
「名波にも仲良しの子ができて、お母さん良かったわ」
「仲良しって言えるのかよくわかんないけどね」
「そうだよ。それじゃお姉ちゃんがいじめられてるようにしか見えないじゃん」
そう口を開いたのは桜だ。きっと同じ歳で同じ高校にいたら、例のファンクラブに入っていたことは間違いないだろう。
「でもそれがお姉ちゃんとあの二人との関係だからねー」
「お姉ちゃんはそれでいいの?」
今度は遥が口を開いた。遥はしっかり者の桜とは違い、照れ屋だが冷静に物事を見ていると言える。
「私はそれが心地良いからいいんだよ。遥も桜も大人になればわかるようになると思うよ」
「あらあら、大人だなんて。私からしてみればまだまだ名波も子どもよ」
双子はあまり納得できていない表情を浮かべていたが、名波は美味しそうにご飯を食べていた。
その顔を見て双子は、早く大人になってお姉ちゃんの考えていることがわかるようになりたいと思った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると踊り狂います。
黒木家はみんな仲良し!
次回もお楽しみに!