冬の終わりと春の始まり
週が明けて当たり前のようにやってくる月曜日。
いつもと同じように拓馬と隆は学校へと向かう通学路を、並んで歩いていた。
「はぁ・・・なんかさ。アレだよな。どうして冬は終わってしまうんだろうな」
「いきなりなんだよ」
「だってさ。冬が終わるってことはあったかくなってくるってことだろ。ってことはさ」
「あー。そーゆーことか」
そこまで聞いた隆は全てを悟った。
隆が理解してくれたのだと判断して、拓馬はまたため息をついた。
そうなんです。暖かくなると、拓馬が大好きな黒タイツの装着率がグンと減ってしまうのです。
だから拓馬は冬が好きなのです。スノーボードも出来るし黒タイツも見れるし良いことづくめです。
「だからって横でため息ばっかりつかれてたら、こっちの気が滅入るからやめろ」
「あぁ、ごめん。あぁ・・・誰か俺に黒タイツパワーをっ! 黒タイツのお恵みをっ!!」
両手を天に掲げて、その場で大声をあげる拓馬。そんな拓馬とは一切関わりはありませんといったような顔をして先に歩いていく隆。
こーゆーときは無関係を装うのが一番です。
「おはよー。って拓馬何してるの?」
先を歩いていこうとしていた隆に、後ろからやってきた名波が追いついて声をかけた。
「何か黒タイツを履いてる奴が少なくなってきたから寂しいんだってよ」
「あー・・・よし。ちょっと行ってくる」
「やめとけって」
隆の制止もむなしく、名波は拓馬の元へと向かった。
「拓馬ー」
「おう名波か。名波は安定の黒タイツで安心したよ」
「それは良かった。落ち着いた?」
「うん。ありがとう。俺には名波が必要みたいだ」
「それはダメだ」
名波を追って戻ってきた隆が、拓馬に釘を差した。
「わかってるって。冗談だよ。冗談」
「わかってるよ。まぁこうなったら委員長が黒タイツで来るかどうかが問題だな」
「そうだなー」
「なんで委員長が出てくるの?」
「あ、そっか。実はな・・・」
拓馬が昨日の出来事を名波に話した。
機会があれば告白して付き合おうかと考えていることを話した。
「おぉ! ついに拓馬にも春が来るんだねー!」
「こいつの頭の中はいつでも春だけどな」
「そうなんだよ。でもちょっとアレなんだよなー」
「「アレ?」」
拓馬の言葉に、隆と名波が声をそろえて聞き返した。
そして少し照れくさそうにしながら拓馬が答える。
「なんてゆーか、その・・・ほら、市原ってさ、なんかこう、自分で言うのもなんだけど、すごい俺のこと考えてくれるじゃん。その気持ちに俺が答えられるのかなぁって思ってさ」
「なんか拓馬が可愛く見えてきた」
「人をおちょくるのはやめてもらえませんか?」
「でも委員長って『私のことをもっと考えて欲しいわ』とか言うタイプじゃないじゃん」
「だから市原ってふざけてばっかりで何考えてるかわかんねぇじゃん」
「8割ぐらいは木下君のこと考えてるわよ」
隆が一花のマネをして拓馬に言う。
「いや、隆とか名波の前だとそうなんだろうけど、俺の前だと暴走しまくりじゃん?」
隆と名波は『暴走』というワードを聞いて、最初の告白で拓馬を押し倒した一花のことを思い出したが、口には出さなかった。
「だから、普段どんなこと考えてるかわかんないんだよなぁ」
「・・・結局お前は何に悩んでるんだ?」
「えっ? うーん・・・よくわかんねぇや」
「拓馬。お前は悩むよりもまず行動しないとダメだってわかってるだろ」
「あー・・・そうだった。俺ってば頭使うの苦手だから考えすぎちゃうんだよ」
「大丈夫だ。安心しろ。もしフラれたとしても俺は笑ったりしないよ」
「あ、私も笑わないよ!」
「・・・なんで振られること前提なんだよ」
少し考えすぎて落ち込んでいた拓馬だが、隆と名波のおかげで調子を取り戻した。
「よしっ。じゃあ今日の放課後にでも 告白してみるかな」
「そうと決まればどこで告白するか教えてくれ。陰ながら見守っててやるからさ」
「隆・・・最初からそれが目的だったんでしょ」
笑顔で拓馬に告白場所を聞いている隆に、呆れた顔の名波がつっこんだ。
テンションが上がっているのか、隆の問いかけを無視して先を歩いて行く拓馬。
置いていていかれてしまった隆にむかって名波が話しかけた。
「そういえばさ、拓馬っていつから委員長のこと好きだったの?」
「さぁ。でも今までは『友達以上恋人未満』って感じだったらしいぞ。それにこの間、拓馬の家で俺とお前がゲームしてた時に、委員長からさりげなく告白されたらしいし」
「うわぁ・・・委員長って何気に大胆だよね」
「そこは一途って言ってやれよ。で、なんかやっぱり委員長のことを意識してなかったわけじゃないんだけど、何考えてるかわかんないのが嫌だったんだってさ」
「へぇ・・・拓馬も色々考えるんだねぇ」
「そして昨日、お前が俺にした別れ際のキスが告白するきっかけになったんだってさ」
「えぇっ! なんか恥ずかしいわぁ」
「お前からしておいてそれはないだろよ。俺だって恥ずかしかったわ」
「だってなんかしたくなっちゃったんだもん」
頬を膨らませて抗議する名波をなだめるために、隆は頭を撫でて沈静化を図った。
すると照れたような笑顔を浮かべて隆の腕をバシッと叩くと、名波は隆の横を大人しく歩いた。
その一部始終を見ていた登校中の生徒達は、二人のイチャイチャっぷりを見せつけられて、視線を外したり、じぃっと見ていたりしていたのは言うまでもない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると執筆意欲が高まります。
いよいよ拓馬vs一花ですね。
次回もお楽しみに!