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対峙

ビールを飲んで落ち着いた黒木父と、とりあえず挨拶を済ませた隆は、お互いに落ち着いていた。

しかし落ち着いてしまったので話が何も進まなかった。

気まずそうな空気をなんとかしようと、隆が動いた。


「あの、お父さんは」

「私は君のお父さんではないっ」

「・・・・・・」


黒木父の一言によって、場はまた気まずい空気へと戻った。

隆がどうしたもんかと考えていると、横にいた桜と遥が口を挟んできた。


「じゃあお父さんはなんて呼んでほしいの?」

「『お父さん』はダメなんでしょ?」

「うっ・・・」


戸惑う黒木父。

そんな黒木父を遠くから見ていた名波がその横に座った。


「お父さんもいい加減にしてよねー。そんなんだと私なんのために隆と拓馬連れてきたかわかんないじゃん。お父さんが見たいって言ったんでしょ?」

「いや、まぁそうなんだが・・・でも相沢君は私の息子ではないわけで」

「じゃあなんて呼んで欲しいの? おじさん? おっさん?」

「ええと・・・」


さらに困る黒木父。いつの時代も女性が強いんですねー。そして父親は子どもに弱いんですね。


「もうなんなのさ・・・」

「名波。お父さんも困ってるじゃねぇか。いい加減にしてやれよ」


まさかの隆からの援護射撃に驚いて顔を上げる黒木父。


「お父さんも、もう『お父さん』って呼んでもいいですよね? 僕が呼ぶ場合は『名波の』って意味がついてますので、それで勘弁してください」

「相沢君・・・」


とても真摯な態度の隆に胸を打たれた黒木父であったが、隆としては呼び方うんぬんで話が進まないのが嫌だっただけなのは内緒です。


「というわけでお父さん。僕は今、名波さんと付き合ってます。まぁ今日はそのご挨拶に来たわけなんですが」

「君なら名波を任せられる気がする」

「へっ?」


隆は驚いて変な声をあげてしまった。


「私の長年培ってきた、社長としての勘が言っているのだから間違いない!」

「は、はぁ。そうですか。それは良かったです・・・」


どうにも拍子抜けしてしまった隆と、娘の彼氏がいい奴だったことに満足している黒木父であった。


「ところで相沢君。名波とキスをしたというのは本当かね?」

「えっ!? あー・・・まぁ」

「ちょっとお父さんっ! 何聞いてるのっ!」

「これからは男と男の話なんだから、名波達は母さんのところに行ってなさい」

「ちょっとっ! 隆も変なこと言わないでよっ! 言ったら怒るからねっ!」


名波と桜と遥を強引に席を外させた黒木父は、ズイっと隆に寄って話を続けた。


「さて。これで邪魔は居なくなった。ゆっくり聞かせてもらおうかな」

「実の娘達を邪魔呼ばわりする父親ってそうそう居ないですよ?」

「へりくつはいいんだよ。で、どうだった? レモン味とかしたかい?」


あまりにもすごい威圧感の前に、さすがの隆も腹をくくって真面目に答えた。


「いや、その、初めてだったんでそんなこと考える余裕とかなかったです」

「なんだい。情けないなぁ。私が若い頃は母さんをヒィヒィ言わせてたもんだよ」

「マ、マジっすか!?」


その言葉を聞いていたのかどうかわからないが、黒木母が二人の間のテーブルに、超がつくほど乱暴に枝豆が入った皿を置いた。いや、叩きつけた。


「・・・なんの話してたのかしら?」

「いや、なんでもない。なんでもないぞ? 枝豆も静かに置かないと、テーブルと皿が割れてしまうぞ?」

「おほほほ。そうね。こんどから気を付けるわね。ではごゆっくりー」


そう言っておほほほと笑いながらキッチンへと向かっていく黒木母。

黒木母の後ろには般若というか鬼というか、なにか異形のものが見えたそうな。


「あーえっと・・・」

「よし。相沢君。違う話をしようか。ほら、君、スポーツとかどうかね」

「あー・・・そうですね・・・見るのは好きですけど、やるのはちょっと苦手ですね」

「そうかそうか。実は私もスポーツは苦手でね。頭を使うことは好きなんだが、からだを使うのはちょっとねぇ」


なんで聞いた?、とか思いながら隆はそれが顔に出ないように話を続ける。


「あ、それはわかります。だから小さい頃は将棋とかボードゲームとかよくやってました」

「おぉっ! 相沢君は将棋が出来るのかね!」

「まぁできる程度なので、強くはないですけどね。お父さんも将棋やるんですか?」

「最近の若者は将棋をやらなくなってしまってね。ちょっと部下を誘っても、駒の動かし方がわかりませんーだとか、なんか裏に『と』って書いてますけどーとか言うんだよ。クビにしてやろうかと思ったよ」


アハハと笑いながら黒木父は話しているが、隆にとっては全然穏やかな話ではないので、とりあえず笑って聞き流しておいた。

そして急に椅子から立ち上がって、戸棚をガサゴソとしだした。

何事かと思っていると、将棋盤と将棋の駒を取り出して机の上に置いた。


「じゃあ相沢君。一局指そうか」


今日一番の笑顔を向けてくる黒木父のことを拒絶することも出来ずに、隆は首を縦に振った。


「いやー、うちは女ばかりでねー。君みたいな子が息子だったら良かったのになぁ。アハハハ」


とても上機嫌な黒木父でした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

感想とか書いていただけると発狂します。


名波はお母さん似なんでしょうねぇ。


次回もお楽しみに!

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