強襲
「フラ~イングクロ~スチョ~ップ」
「どぅぇあっ!」
「椿っ!?」
隆と一花と来兎が移動教室のために廊下を歩いていると、後ろから謎の声が聞こえたと思ったら、隣にいた来兎が前のめりに吹っ飛んでいた。
何事かと思って隆と一花は来兎が立っていた場所にいる女子を見た。
「あっ。お前、たしか・・・」
「広瀬圭子さんね」
隆が思い出せそうにないのを察知した一花がその女子の名前を言った。
一花に呼ばれた圭子は、なぜか偉そうに腕を組んで仁王立ちしていた。
「ふふーん」
「なんか用か?」
「特に無いっ!」
隆が問いかけると、揺るぎない圭子の返事が返ってきた。
「ちょっと待てぇいっ! 暴力反対っ!」
三人の前で倒れていた来兎が起き上がってこちらを向きながら叫んだ。
そんなにダメージは無かったらしく、服にホコリが付いているが、元気そのものだった。
「おう、椿。大丈夫か?」
「大丈夫だけどさ。大丈夫なんだけどさ。そこは一番最初に聞くところじゃね?」
「俺は椿の丈夫さを甘く見ていないよ。お前はきっと丈夫な子だ。だから多分大丈夫だと思った。それで十分じゃないか。これ以上何を望むんだ?」
「相沢・・・ありがとう!」
「・・・全然まともなこと言われてないわよ」
一花に言われてハッとした来兎と、チッと舌打ちをして来兎から目を反らす隆。
そしてさっきまで自分が立っていた位置に仁王立ちしている圭子に向かって指をさす。
「そんなことよりお前だ! いきなりなんなん、だ、よ・・・」
だんだんと語尾に力がなくなる来兎。
圭子の後ろを見ているようで、来兎の視線を追うように後ろを振り返る隆。
そこに立っていたのは有紀だった。
隆が有紀に声をかけようとすると、その声に被せるように来兎が挨拶をした。
「竹中さん! こんにちわっ!」
「あ、うん。どうも」
「有紀じゃん。何してんの?」
「圭子に会いに来たんだよ。今日の放課後にミーティングあるから忘れないでよーって言おうと思って」
「そっか。あんがとー」
顎をしゃくれさせてお礼を言う圭子。
こんなにフランクに話している有紀を初めて見た隆は驚いてただ見ていた。
しかし来兎は大人しくしていることが苦手らしく、気づいたときには隆の真後ろまで来ていて、有紀に話しかけるタイミングを伺っていた。
「それだけだから。じゃあまた放課後ね」
「あ、あの、竹中さん!」
「・・・?」
「えっと、連絡先とか聞いてもいいですか?」
「お断りします」
「ですよねー」
「じゃあまた」
そう言って自分のクラスのほうへと歩いていく有紀。
「なんかあいつ変わったなぁ・・・」
「そうね。ちょっと変わった気がするわ」
隆の呟きに反応した一花。
同じクラスだったの者同士で意見が合うので、きっと変わったのでしょう。
そんな有紀に振られたにも関わらず、少し嬉しそうな来兎。
「あぁ・・・竹中さん・・・可愛らしいのにそっけないところが素敵だ・・・」
「おい、委員長。竹中のやつが椿の開けてはいけない扉を開けそうだぞ」
「馬鹿ね。開けてはいけない扉なんてないのよ。開けてしまったなら進むしかないのよ」
「なんだそれ。カッコイイな」
「でしょ? 今、思いついたの」
「委員長ってちょっとオタク入ってるだろ」
「まぁそれなりに知識がある程度よ。 なんで?」
「いや、なんとなくそう思っただけ。さて。そろそろ行かないと遅れるな。椿ー」
惚けている来兎に向かって声をかけた隆であったが、来兎から返事が帰ってくることは無かった。
一花のほうを向いて肩をすくめた隆は、来兎を連れていくことを断念して、一花と二人で移動教室へと向かった。
放課後。
とある教室の扉にかけられた『使用中』の札。
その文字を見ているのか見ていないのかわからないが、構うことなく中に入っていく圭子。
「おまたせー」
「時間は守ってください」
「まぁ掃除なんだから仕方ないって。多めに見てよ」
普段先生が立つ位置に立っている有紀が圭子に注意する。
ひな壇になっている席の後ろの方に腰をかけた圭子。
そこから見える男女の数はバラバラであるが、だいたい10人前後はいると思われる。
そして圭子が席に着いたのを確認した有紀は、自分の前に座っている生徒・・・いや、会員に向かって話し始める。
「さて。全員揃ったところで始めます。早速ですが、今日はどのようなことがあったか報告してください」
そう言うと会員の一人が立ち上がり、話し始める。
「名波姫にラブレターを出そうとした生徒の一人を食い止めました」
言い終わって席に座ると次の会員が立ち上がって報告をする。
「僕は名波姫が学校一可愛いと言う話をクラス内で広めました」
「俺もそれに加わってました」
「私は名波姫の悪評を言っていた女子グループを正しました」
そしてそれぞれが今日の活動報告をし終わると、有紀が胸を張って全員に告げる。
「順調だ。全員、その心がけを忘れないようにしてほしい。では解散っ!」
有紀が声を張り上げると、会員達はぞろぞろと教室を出ていった。
そして教室内には、有紀と圭子の二人が残る。
「いやー、やっぱり有紀は面白いなー」
「私たちは真面目にやってるんだからね」
「はいはい。わかってますよ。邪魔してないんだからいいじゃん」
「圭子が名波姫のこと好きだっていうから入れてあげたのに、全然活動してないじゃない」
「だって好きだから見守るっていうのもアリだと思うけどなー」
「はいはいわかってますよ。 『見守る』ってことが、圭子の活動なんでしょ」
満足そうに頷いた圭子。
その顔を見てから教室を出ていく有紀。
ご察しのかたもいるとは思いますが、そう。有紀の手によって、黒木名波ファンクラブはここに再結成していたのだ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
ファンクラブ復活してました。
次回もお楽しみに!