存在意義
最近、一花に対して好きという感情や、その反対の嫌いという感情がほとんど感じなくなり始めていた拓馬。
そんな拓馬は、自分にとって『市原一花』という存在がどんなものなのかがよくわからなくなってきていた。
恋人というような恋愛感情は持っていないので、まず違う。
親友は、どうしても隆と比べてしまうから見劣りしてしまって選択肢には入らない。
友達。これが一番しっくりくるような気はするが、名波と比べるととても疲れる対象なのでよくわからない。
その下になってくると・・・
「あぁ・・・もうわかんね」
「・・・何考えてたんだよ」
拓馬の家で、ゲームをやっていた拓馬が呟いた。
視線を一瞬だけ拓馬に移したが、すぐにテレビ画面へと戻す。
「いや、市原って俺にとってどんな存在なのかなぁって思ってさ」
「ついにお前もその気になってきたのか」
「そんな馬鹿な。それこそ天変地異の前触れだろ」
「もう委員長も諦めたらいいのにな。あっ。やべ。拓馬、復活復活」
話してて操作をミスした隆が拓馬に回復を要求した。
素早く操作して隆にアイテムに戻して飲み込み、また復活させてあげた拓馬。
「何してんだよー。ほれ。もういい加減に諦めてくんねーかなー」
「サンキュー。でもあの委員長が諦めたらそれこそ天変地異だろよ」
「まぁそうなんだけどよ。おっ。もうボスか」
「喋ってると早いなー」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
さすがにボス戦は話す余裕がなくなるのか、二人して急に黙り込んでカチカチとボタンを押す音とテレビから聞こえるゲームの音だけが聞こえる。
カチカチと集中していると、背後から一つの人影が迫ってきました。
「たーかしっ!」
「うおぅっ!!」
びっくりした隆がコントローラーを落としてしまい、隆が操っていたキャラクターがゴリラのハンマーに潰されてやられてしまった。
「ゲヘヘヘ。ゲームをやっている間の隆は無防備ですのぅ」
「おい芳恵。今いいところだったんだから邪魔すんな」
「いいじゃん。どうせ何回もやってるゲームなんでしょ? たまにはお姉ちゃんと遊びなさいよー」
隆の背中にしがみついたままウリウリとからだを擦りつけてくる芳恵。
もしもこれをしてくるのが名波だったら、大人しくしていた隆だったが、芳恵相手だと容赦無く引きはがしにかかる。
「邪魔くせぇから離れろ!」
「イテテ! 恥ずかしいからって照れんなよー」
「照れてねーよ! いいから離れろー」
「いーやーだー!」
引き剥がそうとする隆と、必死に抵抗している芳恵。
はぁ、と小さくため息をついてゲームを一時停止させると、芳恵の後ろに回り込む。
そして脇腹を猛烈にくすぐった。
「アヒャヒャヒャヒャハハハ!!!」
「隆が困ってんだろー。離れてやれよー」
「わかったっ! わかりましたっ! ちょっともうやめてーっ!」
抱腹絶倒している芳恵が離れたのを見て、脇腹から手を離してやると、芳恵がゼーハーと肩で息をしていた。
「ハァハァ。・・・がー・・・うえっ。・・・なんか出てくるかと思った」
「アレだろ。モンスターとかなんかだろ?」
「違うわい! 嘔吐物とかお昼に食べたものだよ!」
「なんだこいつ。超汚ねぇ・・・」
コントローラーを握り直した隆が芳恵のことを気持ち悪そうな目で見る。
「いやん。そんな目で見られたら私孕んじゃうかも」
「拓馬。こいつなんとかしろよ」
「あ、お腹おっきくなってきた!」
「もう無理だ。もう手遅れだ」
「そうか。なら仕方ないな」
「私産まれるー!」
「そんなことより早く進めようぜ」
「おう。ってもうボス倒したのかよ」
「お姉ちゃんを無視しないでっ!!」
ゴロゴロと妊娠ごっこをしていた芳恵が隆と拓馬の背中に飛びついた。
もうこれ以上のゲームの続行は無理だと判断し、セーブを書いてゲームを終了した。
コントローラーをかたずけて、後ろを向いて芳恵と向かい合って正座をする。
そして隆が切り出す。
「じゃあ話をしよう」
「「またそれかよー」」
芳恵のかまってちゃんモードが発動している時に、いつも隆がしてやることは『話すこと』だった。
しかもわりと真面目な話ばかりなので、楽天家の芳恵と拓馬は毎回ブーイングです。
しかし隆は気にせず続けます。
「今日は拓馬と委員長の関係についてだ」
「バカッ! 隆のバカッ!」
「えっ、拓馬と一花ちゃんって出来てるの?」
「いや、拓馬は否定してるんだが、もうほとんど夫婦状態だ」
「夫婦っ!? 色々と過程をすっ飛ばしてるよねっ!? 私まだ紹介されてないんだけど!」
夫婦という言葉を聞いて悪ノリした芳恵が拓馬に掴みかかる。
「ちげーよ! なんでそんなに楽しそうに笑ってんだよ! それに市原のこと見たことあるだろ!」
「うん。見たことある」
「もうなんなんだよ! 意味わかんねーし!」
「で、拓馬は一花ちゃんのことはなんとも思ってないの?」
「ま、まぁなんとも思ってないわけじゃないけど、別に居ても居なくてもいいかなーって感じ」
「でも居ないと物足りないみたいな?」
「人の話聞いてた? でも隆と市原が隣同士の席だから、会いに行ったら必ず見るもんな」
「そうだな。俺はてっきり委員長に会いに来てるのかと思ってた」
「隆まで悪ノリすんな。なんて言えばいいんだろうなぁ・・・」
上手いたとえが見つからなくて、首を傾げて考え込む拓馬。
それを見ていた芳恵が例を挙げてみた。
「酸素みたいな感じ?」
「いや、そんなに大事じゃない」
「じゃあ二酸化炭素?」
「俺から生まれてくるわけじゃないし」
「うーん。あったら便利だけど無くてもいいものでしょー?・・・あ、生姜とか?」
「あ、それいいな! そんな感じ!」
「うわー! 私すごいの生み出しちゃった!」
「姉ちゃんもやるときゃやるじゃん!」
「まったく。姉をなんだと思ってるのよ」
拓馬に褒められて堂々と胸を張っている芳恵だったが、隆は思った。
『委員長が生姜扱いされてる・・・かわいそうに』
一花に対して、初めてかもしれない気持ちを抱いた隆であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
ちょっと休憩感覚で、のんびりした話が続きますがご了承ください。
次回もお楽しみに!