意中の相手は百合の君
昼休み。
昼食のパンと一緒にコンビニで買っている飲み物を、今日に限って買い忘れてしまった隆は、一階の自販機へと向かっていた。
校内には他にも何箇所か自販機が設置されているが、一階のここが一番種類が豊富でよりどりみどりである。
「おう。相沢。こんなところにいるなんて珍しいな」
どれにしようかと自販機の前で考えていると、後ろから同じクラスの椿来兎に声をかけられた。
来兎の手には、購買で買ったと思われるパンが何個かあった。
「飲み物を買い忘れたからさ。お前は購買で買ってんの?」
「まぁな」
「購買って競争率高そうなイメージがあるんだけど、どうなん?」
「競争率は高いんじゃないかな。でも俺がここに来てるのは昼飯確保のためだけではないのだよ!」
どこから湧き出てきたのかわからないが、自信たっぷりに言い放つ来兎。
そんな来兎に冷たーい視線をプレゼントする隆。
「ちょっと、その目やめてくれない? テンション下がるんだけど」
「あぁすまん。つい気持ち悪くて」
「いや、本人の前で気持ち悪いとか言わないでくれません? さらにテンション下がるんですけど」
来兎のテンションをどん底までたたき落とした隆は、思ったよりもつまらなかったので、来兎がここにいる理由を尋ねることにした。
「で、何が目的なんだ?」
「さすが相沢だ! いいところに目をつけた! 俺が狙ってるのはあの子だ!」
そう言って指をさした先にいたのは、有紀だった。
「えっ? ごめん。どの子?」
「ほら。あそこにいるメガネの子だよ。こう肩らへんで二つにくくってる女の子いるじゃん」
やはり有紀のようでした。
要するに、有紀を見るためだけに来兎は購買で昼ご飯を調達していたことになる。
有紀の本性(?)を知っている隆は、少し複雑な気持ちで来兎に話しかける。
「えーっと、あいつが誰なのか知ってるのか?」
「俺の情報網を舐めるなよ? 2年8組の竹中有紀。血液型はB型で誕生日は10月1日。どうよ?」
自身ありげにこちらを向いてドヤ顔をしてくる来兎。
この来兎君ですが、年下が大好物なのです。『彼女にするなら年下』と心に決めております。夢は『先輩っ!』『先輩じゃないだろ?』『あ、そっか。エヘヘ。・・・来兎くん』というやりとりをすることです。
しかし決定的なミスを犯していることに隆は気づいていた。
『来兎の持っている情報は、一年前の情報』ということだ。
どこから仕入れた情報なのかはわからないが、有紀は留年していないので、隆達と同じ3年生である。組は今のクラスとあっているので、違うところといえば学年だけである。
「どうした? そんなにあの子が気になるのか?」
「気になるのはお前の情報網のことぐらいだよ」
「へへへ。こればかりは相沢には教えられねぇなー」
違った捉え方をしたようで、褒められていると勘違いした来兎が鼻の下を人差し指でこすった。
隆は心の中で、哀れな奴め、と思った。
そしてこのまま真実を告げずにいようと心に決めた。もちろん来兎を困らせるために。
「じゃあ俺がお前とあの子の愛のキューピットをしてやるよ」
「おいおい。馬鹿言うなよ。俺があの子に話しかけられるようなチャラ男に見えるのかよ。俺はこう見えて、たいそうなチキン男な」
「おーい、竹中ー」
「って、えぇっ!?」
来兎が言い終わる前に有紀に向かって手を振る隆。そんな隆に目が飛び出るほど驚く来兎。
隆の呼び掛けに気づいた有紀がトテトテとこちらに向かってやってきた。
「よう久しぶり」
「ひさしぶり。名波ちゃんは?」
「残念ながら教室だ」
「えぇー。じゃあなんで呼んだの?」
「そこまで嫌な顔することないだろ。こいつがお前に話があるんだって」
「あ、どうも初めましてー」
軽く挨拶をする有紀に対して、現状を理解出来ていない来兎がカチコチと動き出す。
「あ、あの、はじまままして。俺、椿っていいます。相沢のクラスメイトしてます」
「椿君ですか。私、相沢くんと同じクラスだった竹中です。どうぞよろしく」
「へぇ。同じクラスだったんだー・・・ん?」
ようやく何かおかしなことに気づいた来兎が隆の方を見た。その隆は背中を向けて静かに爆笑していた。
「まさか相沢っ。お前気づいてたのかよー! ってゆーか知り合いなら知り合いって教えろよなー。緊張しちゃったじゃん!」
「アハハハ! 『はじまままして』だってよ。アハハハ!」
「ちょっと笑いすぎだろ!」
「え? なにこれ? どういうこと? ってゆーか話って何?」
置いてけぼりになっていた有紀が来兎に向かって問いかける。
「えっ! あのーそのーなんてゆーか・・・」
「こいつがお前のこと気にふがっ!」
「余計なこと喋るな!」
ネタバレをしようとした隆の口に来兎が飛びついて阻止をした。
「うーん。でも私、女の子にしか興味無いから。むしろ名波ちゃんしか興味無いから」
「はっ?」
「残念だが、名波は俺のもんだ」
「ふんっ。関係ないもんねーだ」
あっかんべーと舌を出して隆を挑発して去っていく有紀。そんな有紀に『あいつ変わったなー』というようなことを思った隆。
そして惚けて見ていた来兎が一言。
「有紀ちゃんかぁ・・・可愛いな」
「はぁ?」
何かに目覚めてしまった来兎であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大興奮します。
久しぶりに有紀ちゃんの登場でした。
来兎も久々でしたね。
次回もお楽しみに!