拓馬と黒タイツについて
「やっぱ変だよなぁ?」
「確かにおかしいよな。拓馬が黒タイツ以外で人間を判断出来るなんて、名波とうちの家族以外はいないと思ってたもん」
「なんだろ? 親密度的な?」
「でもお前とユリは初対面だろ? 初対面で親密度MAX!!ってどこのゲームだよ」
「実は俺とユリちゃんは昔に会ったことがあるとか」
「どんだけ記憶力悪いんだよ。いや、むしろそんな小さい頃の記憶があったら良いのか?」
「よくわかんね」
拓馬と隆は、名波と一花と別れたあと、電車を降りてからの帰り道で友里恵の黒タイツの件で議論していた。
そもそも拓馬が黒タイツを履いていない人間を人として認めていないのが変なのであって、今の状態の拓馬は普通なのである。正常なのに異常扱いしているのを隆も拓馬自身も不思議に思わないのであった。
「じゃあとりあえずあとでそっち行くわ」
「おう。飯食って待ってるわ」
そう言って、夜ごはんを食べたあとに隆の家で続きを執り行うことにした。
1時間半後の夜8時半頃。
隆のケータイに拓馬からの連絡があり、あと少しで着くということで2階から降りてきた隆はリビングでテレビを見ながら待機していた。
「ねぇ望くん。今の芸人さんってどこが面白いの?」
「多分、テレビの液晶と水の液状をかけてるんだよ」
「さすが望くん! あったまいいー!」
ぼんやりと希に頭を撫でられている望を見ながら、さっき有名人に会っていたことが夢のように思えた。
平常運行の希と望は、隆を普通の日常に戻してくれる目安のような存在であった。
「お前らはホントに仲いいな」
「うん! 私望くん大好き!」
「僕も大好きだよ。希ちゃん」
「もーう! 恥ずかしいでしょー!」
バシバシと望を叩く希。
その時、玄関が開く音がして拓馬の声が聞こえた。
「であえーであえー! 迎えはまだかー!」
少し意味が違う言葉を使いながら、堂々と侵入してきた拓馬を出迎えに玄関へと向かった隆。
玄関に着くと、ビニール袋一杯にうまい棒を入れた拓馬が立っていた。
「よっ!」
「お前。そのうまい棒どうしたんだよ」
「ユリちゃんのサインを俊哉にあげたら、大喜びして2000円くれたから、そこのコンビニにあったうまい棒を在庫ごと買い占めてきた。今行っても在庫切れだぜ」
「すげー大人買いだな」
「拓馬だー! ってすげー!!」
拓馬と聞いてリビングから飛び出してきた希は、拓馬の持っていたうまい棒に大変驚いていた。
「どれ。おじさんが餞別をあげよう」
「拓馬サイコー!」
「さすが拓馬。男前」
うまい棒を二本ずつもらって、希と望が拓馬を褒めちぎった。
双子はそのまま両手にうまい棒を持ってリビングへと走っていった。
「あいかわらず可愛い双子だな」
「褒めていただき光栄だよ。じゃ、俺の部屋行くか」
隆の後ろについて階段を登っていく拓馬。
隆の部屋に着くなり、ベットの上に腰掛ける拓馬。ベットのうえが拓馬の定位置となっていて、隆は自分の勉強机の椅子に座ってます。
「さて早速本題に入ろうか。俺たこ焼き味な」
「本題に入れよ。サラダ味は譲らん」
互いに一本ずつ手に取ると、袋を開けてとりあえず一口。
「どうしてユリが黒タイツを履いていなかったのに、ユリだとわかったのか。ってことだよな」
「うん」
「ちょっと夜飯食べながら思ったんだけど、やっぱりユリが有名人だからわかったんだと思うんだよ」
「それは俺も思った。家に帰ってから気づいたんだけど、家のいたるところにユリちゃんのポスターやらなんやらが飾ってあるんだよな。それだけユリちゃんに囲まれた生活をしてりゃ誰だって覚えるわな」
「お前んちそんなにすごいのか?」
「もう母さんと高校生になったから浮かれまくりの俊哉がやりたい放題だよ。最近だと姉ちゃんも悪ノリし始めちゃって、ちっこいグッズが増えるわ増えるわでもう大変よ。『あら!ガチャガチャでかぶっちゃったの?だったらもう一組揃えるしかないわね!』って感じよ」
なんとなく想像できた隆は苦笑いを浮かべる。
自分が木下家の人間で無くて良かったと思った瞬間でした。
「まぁお前んちの状況はともかくとして、ユリのことが分かったのは拓馬の家の環境のせいってことで良いのか?」
「まぁそれ以外に思いつかないしねー」
「そうなんだよな。ってことは、そろそろ委員長が黒タイツを履いてなくてもイケるんじゃないか?」
「いけませんー。ってゆーか、市原もいい加減諦めてくんないかなー」
ベットに仰向けに倒れながら拓馬は言った。
「食べかすこぼすなよ。別に委員長はいい子だぞ?」
「そうやってまた俺を手のひらに乗せて遊ぶんだろ? 見え見えだよ」
「遊ばねぇよ。隣の席になって思ったんだけどよ、委員長って超いい奴なのな。この間も転勤してきたばっかの担任が緊張してたからって、担任が持ってたフィギュアの話までしちゃうんだぜ?」
「はぁ? 委員長ってオタクだったのかよー」
「だけど委員長は『先生の緊張を和らげるために言っただけよ。別にオタクじゃないわ』だってさ」
「それはすげーな。ちょっと見直したわ。俺の市原のイメージって、すごい積極的過ぎてしつこいイメージしかないんだよな」
「そうだよなー。はじめて告白されたときも押し倒されてたもんなー」
「そうそう。・・・って、なんで知ってんの?」
「あっ、やべっ」
「さて詳しく聞かせてもらおうじゃないか。夜は長いからねー」
そんなこんなで告白現場をのぞき見していたことがバレてしまい、ヘボ警官拓馬に尋問されることとなった隆。
二人の話は夜遅くまで続いていましたとさ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
というか風邪をひいてしまいました。
しんどいので、もしかしたら明日の更新は無いかもしれません。
ご理解ください。
そんなわけで次回もお楽しみに!