世間って狭いね(中編)
よく『私の知り合いの知り合いの友達のお姉ちゃんの友達は有名人なんだよ』という言葉があるが、それだけ知り合いを辿っていけば、それなりに有名な人に当たってもおかしくはない。そして『○○は俺の祖先なんだ』というのもまたありけりである。
そんなこんなで、一人っ子であるはずの一花が『姉を紹介したい』と言って、嘘を付いてまで会わせたい人物がいるらしく、その待ち人との待ち合わせ場所に拓馬、隆、名波、一花の4人が待っていた。
待ち合わせ場所となっているのは、待ち合わせ場所として定番のロッテリアである。細かいことはいいんです。しかし以前、隆と名波が勉強をしていたロッテリアとは違う場所で、交通の便が悪く客入りが少ない、少し寂れたロッテリアである。そして今日も客入りは少なく、店内には拓馬達を除くと、3人しかいない。そのうち1組は老人同士のカップルで、残りの一人はサラリーマンである。
そんな場所で誰を待っているのかもわからずに一花の嘘に乗っかって、隆と名波はポテトをモグモグと食べていた。
だが拓馬だけは待ちきれないのか、何度も一花から聞き出そうとしている。
「いつになったら来るんだよー」
「あの子も忙しいから・・・あっ」
どうやら到着したらしく、入口に面した窓から見える駐車場に一台の乗用車が止まった。
その車から一人の女子高生が降りてきて、店内へと駆け足で入ってくる。名波の着ている制服と違うことから、別の学校の生徒だということがわかった。その女子高生は、制服に麦わら帽子というちょっと変わったファッションだった。
麦わら帽子で隠れていた顔が見えるくらいまで近づいてきた女子高生は、恐ろしいくらいの美少女だった。もしかしたら名波といい勝負かもしれません。
「ごめんごめん! ちょっと長引いちゃって!」
「いいわよ。忙しいのは知ってるから」
こちらに向かってパタパタと近づいてくる女子高生。その女子高生が謝っている姿を、拓馬が見たり逸らしたりを繰り返していた。
「おい、どうした?」
「あ、いや、多分記憶違いだとは思うんだけど・・・」
「はぁ?」
「えーとこちらが、私のしん・・・姉の市原トモエです。そしてこちらが私の未来の旦那様の木下拓馬君。と、そのお友達の相沢君と黒木さん」
「姉って何さ!」
どうやらトモエさんには説明していなかったらしく、姉と呼ばれたトモエさんが食ってかかった。
「だってゆ・・・トモエ姉さんのことバレたら困るでしょ?」
「別に一花の友達なんだからバレたっていいってば。それに一花の友達は私の友達でもあるんだから」
「どっかの拓馬と一緒だね」
「だな」
隆と名波がこっそり耳打ちをしていたのだが、そのどっかの拓馬が無反応だった。少し不思議に思った隆が拓馬に声をかける。
「おい。拓馬? さっきからどうした? 大丈夫か?」
「・・・・・・」
「おい。聞いてんのか?」
そう言って拓馬の肩に手を乗せた瞬間、拓馬が椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった。
その勢いに隆だけではなく、名波と一花とトモエさんも驚いて視線を拓馬に集めていた。
「た、拓馬?」
「あ、あ、あ、あ」
「壊れたか?」
「たか、隆」
「ん?」
「この人、ユ、ユリちゃんだ・・・」
「は?」
その発言に思わず固まる隆と名波。そして一花は『やっちまったか・・・』みたいな表情でこめかみを抑えている。そしてトモエさんは手をひらひらと振って挨拶をし直す。
「どーもー。一花の親友の竹中友里恵ですー。職業は女子高生兼アイドルです。あ、ちょっとお腹減ってるから食べ物注文してくるね」
そう言って、トモエさんもとい友里恵はレジへと向かっていった。
それを見た隆と名波が一花に問い詰める。
「委員長ってあのユリと友達だったのかよ!」
「ま、まぁ幼馴染なのよ」
「じゃあさ! 中学校のころのユリちゃんのことも知ってるの!?」
「中学校どころか幼稚園も一緒だったわ」
「「へぇ~」」
まさかの有名人の登場に、驚きを隠さずに一花を質問攻めしている隆と名波。欲望に忠実ですね。
それとは打って変わって、珍しく大人しくジュースを飲んでいる拓馬。その様子を横目で見ていた一花が問いかける。
「木下君? 大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫。ちょっと驚いただけ」
「いやーお待たせー」
レジで注文を終えて、てりやきバーガーセットを手に戻ってきた友里恵は、隣の席から椅子を拝借すると、拓馬達のテーブルでバーガーを食べ始めた。
「んふー。おいしー。やっぱりハンバーガーはてりやきバーガーだよねー」
「友里恵。今日は仕事無いの?」
「うん。今日は大丈夫。っていってもそこまで有名なわけじゃないからそんなに毎日仕事はないってば」
「え? ユリちゃんってそんなに有名じゃないの?」
友里恵の言葉に思わず聞き返してしまう名波。
「え? 全然有名じゃないよ? だってディスカッションの中でも人気は一番下だし、芸能界なら私よりももっと可愛かったり綺麗な人は多いからねー。ってゆーか君めんこいね。チューしていい?」
「ダメだ。お前も変態か」
「冗談だって。この子の彼氏?」
「そうだ。だからダメだ」
「ふーん。あ、そういえばよく私がユリだって分かったね」
そう言って拓馬のほうを見る友里恵。突然話を振られた拓馬は借りてきた猫のように小さくなっていた。
「あ、はい。弟がファンなので・・・」
「弟さんが私のファンなんだー。嬉しいなー」
嬉しそうに笑顔を作る友里恵。これ以上に眩しい笑顔は名波以外に見たことがないと思った隆であった。芸能界おそるべし。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると発狂します。
ついに出てきちゃいました。
ユリちゃんハァハァ
次回もお楽しみに!