新年度・前編
桜も咲かない入学式。北海道ではよくある光景なので、玄関に立てかけられた看板を見て違和感も何も感じずに『あー入学式かー』程度に思いながら、拓馬と隆が校舎へと入っていく。
入学式が午後からなので、午前中は在校生の始業式となっている。
持ち物は、春休み前に持ち帰った上靴のみ。プリント類も配られるであろうが、それは机の中に入れて帰って、明日持って帰るという算段でほとんど手ぶらで登校してきた拓馬と隆。
今日は始業式よりもワクワクドキドキなイベントが待ち構えている。
無事に3年生へと進級することができたので、3年生の教室がある2階へと登っていく。
ちなみに1年生は3階、2年生は4階、1階は理科室や保健室などのクラス以外の特別教室が固まっています。
階段を登りきった二人は、少しドキドキしながら目の前にある掲示板に目を向けた。
そう。クラス替えがあるのです。
階段を登りきったところの掲示板にクラスの一覧が載っています。
「おっ、見っけ。俺3組だ」
「俺は4組」
「じゃあ今年は別々か。残念だったなー」
「まぁこればかりは仕方ないだろ」
別々のクラスになってしまったが、対してなんとも思っていない様子の二人。
とはいえ、全9クラスの中で同じクラスになれるほうがすごいのだ。
「あれ? 俺、名波と一緒だわ。悪いね」
「別に妬まねぇよ。・・・うわぁ、委員長と同じクラスかよ・・・」
「どうして私と同じクラスだと嫌なのよ」
背後から急に声をかけられて驚く隆。
振り向くと一花と名波が並んで立っていた。珍しい2ショットですね。
「私は木下君と同じクラスが良かったのに、どうして相沢君のほうと同じクラスなのよ」
クラス替えの結果に、隆の代わりに思い切り妬んでいる一花。
その横では拓馬と名波がハイタッチを交わしていた。
「拓馬と同じイェーイ!」
「名波と同じイェーイ!」
「あ、今年もよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
まるで新年のような挨拶をしてペコリとおじぎをする二人。
顔を上げた名波が、拓馬の向こう側に有紀の姿を見つけた。
「有紀ちゃーん!」
「あ、名波ちゃん。おはよー」
「おはよー。クラスどうだった?」
「私は理系選択してるから8組だったよ」
「そっか。じゃあ違うクラスだねー」
「うん。残念」
「私も残念。じゃあまた今度ね。バイバーイ」
「うん。バイバイ」
手を振って有紀と別れる。
「そういえば名波は隆と違うクラスだけど気にしないの?」
「え? うん。気にしないよね?」
「そうだな。別に学校の外で会うし、会おうと思えばいつでも会えるしな」
目を合わせて微笑み合う隆と名波。
「いちゃいちゃすんなー」
「お前が振ってきた話題だろうが」
春休み中も何回か会ってはいた(拓馬付きの日も何度か有り)が、特に進展も無く、『ラブラブ』というよりは『仲良し』という感じだった。隆は特に何も進展を望んでいるわけでも無かったので、このままでいいと思っている。名波は・・・名波です。
「そろそろクラスに行きましょうか。時間も時間だし」
一花が壁に掛けてある時計を見てみんなに言った。
途中まで一緒に行き、拓馬と名波は3組へ、隆と一花は4組へとそれぞれ入っていく。
教室に入るなり、名波にクラスメイト達の視線が集まったのだが、それに全く気づかない名波。
まだ席が決まっていないので、とりあえず真ん中の列の一番後ろの席に名波と拓馬が並んで座る。
新しいクラスで少し緊張した様子の名波と、自分の席から見える範囲で女子の黒タイツの選別に取り掛かっている拓馬。
少しすると先生が入ってきて挨拶をする。
男の先生だったので対して興味を示さなかった拓馬は、隣に座っている名波に小声で話しかける。
「名波。お前の黒タイツが一番だぞ」
「ありがと。でも今はどうでもいいや」
真面目ちゃんの名波は先生の話をきちんと聞いていたので、拓馬の話を適当に返すと先生の話にまた耳を傾けた。
名波にも相手をしてもらえずに、暇になった拓馬は初日から教室に突っ伏して寝る体勢に入った。
一方、隆と一花が教室に入ったときには最前列しか空いていなかったので、仕方なく教卓の目の前に座ると、見計らったかのように担任が入ってきた。
しかしその先生はこう言った。
「えーと。今は私がここに来てますが、明日からは違う先生がここに立ちます。転勤してきた先生が君たちの担任になるわけですが、その先生が誰なのかは入学式のお楽しみなので、今は私が代理で来ております」
とのこと。
どうせ入学式に参加できないのだから秘密にしておく必要はないのでは?、と隆は思ったが、目立ちたい訳ではないので、あえて黙っておく。
「では始業式が始まりますので廊下に並んでください」
先生の指示に従って廊下へとぞろぞろ出ていくクラスメイト達であった。
100話キター!
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