美少女の間違い探し
「さみー」
「この時期の体育の授業の後って気持ち悪いぐらい寒いな」
「だよなー。しかも今日みたいに汗かいちゃうと余計に寒い」
拓馬と隆は、小走りで暖房が点いている教室へと急いでいた。
廊下は暖房が点いていないので外よりはマシだがかなり寒かった。窓の外は猛吹雪です。
いそいそと教室に戻ってきた二人は自分の席に座るなりカバンの中をガサゴソと漁っていた。
「よっしゃ! これで冬の寒さを凌げるぜ!」
そう言って拓馬が取り出したのはカイロだった。
袋の中に鉄粉や吸水剤、活性炭、バーミキュライトなどが入っていて、それをシャカシャカと振って空気に触れ合わせることによって酸化発熱を起こす際に発生する熱を利用した、皆さんもご存知の小型暖房道具ですね。
拓馬はそれをシャカシャカと振ると顔や手に当てて、ふへー、と声をもらした。
「くそっ! カイロ切らしてた!」
すごい悔しそうに言う隆。たかがカイロの一つや二つでグチグチ言うのはみっともないですね。
手を擦り合わせてハーっと息をかけて暖まろうとする隆と、カイロでヌクヌクしている拓馬。
だんだんと教室に他の生徒が戻り始めた頃、名波と有紀が仲良く教室に戻ってきた。
「あったかーい」
「私はまだ暑いかも」
有紀、名波の順で入ってくる。さっきまでバスケの試合で華麗なステップ(笑)を披露していた名波は、ブレザーの制服のシャツをつまんでパフパフと涼んでいる。
「うわっ! 何あんたら、キモイ」
「キモイとはなんだ」
一人は真剣な目で手を擦って、もう一人はのほほんとした目でカイロちゃんと戯れている。
「あ? お前誰だよ」
手を擦りながらもちゃんと返答した隆に対して、拓馬は名波に聞いた。
ポカンとする名波と有紀。
誰かと聞かれればそれは黒木名波と竹中有紀以外の誰でも無い。
「誰って・・私?」
自分のことを指さして聞き返す名波。その様子を見て、隆が声をかけた。
「実はな・・・さっきの体育の授業の時、頭を打ってしまったんだ。それでなんともないと思っていたんだが、この様子だと黒木のことを忘れてしまったみだいだな」
「は? 何言ってんの?」
「冗談だと思ってるのか? なら本人に聞いてみるか?」
そう言うとカイロでヌクヌクしている拓馬に一歩近寄り声をかける。
「拓馬」
「どした?」
「こいつ誰かわかるか?」
「・・・しらん」
「えっ! ちょっと嘘でしょ!?」
「ちなみにこっちは?」
「竹中だろ。変なこと聞くなよ」
「いやいやいやいや! なんで私だけわからないのっ?」
拓馬の肩を掴んで前後に振る名波。
その後ろでちょっと深刻そうに見守る有紀。
そして笑いを堪えている隆。
そんな隆の表情を見て、名波が反撃に出る。
「わかった! またあんた達がグルで私のことからかってるんでしょ!」
そう言い放つとプンスカと怒って自分の席のほうに歩いていってしまった。
残った有紀が隆に聞く。
「木下君、大丈夫なの?」
「うーん・・・全然大丈夫だぞ」
「本当に名波ひ・・・名波ちゃんのことわからないの?」
有紀がうっかり姫と呼びそうになったのに隆が反応して、有紀にバレないように必死に笑いをこらえる。
「わからないってゆーか・・・ヒントは間違い探しだな」
「間違い探し?」
「いつもの黒木と今日の黒木が違うところはどーこだ」
クイズの出題者となった隆は、わからないといった顔をする有紀に出題した。
じっと名波を観察する有紀。見れば見るほど可愛い。愛でたくなる。めんこい。
いろいろな気持ちが浮かんでくるが、それらを制御しながら思考を巡らせる。
可愛い顔。いつも通り。
微妙に膨らんだ胸元。いつも通り。
少し小柄なからだ。私好み。
スラリとした綺麗な生足。舐めたい。
いくら考えてもわからなかった。というよりも邪念ばかりが浮かんできてそれどころではなかった。
表面上は『わかりませーん』な表情でも、心の中は『ムフフ』な気持ちで一杯な有紀。この女もかなりの変態ですね。
そんな有紀を見ながら心の中で隆は思った。
『そういえばこいつは黒木大好き変態バカだったな。気づかないか』
「どうかしたの?」
並んで立っていた二人に声をかけたのは吉永春樹だった。
その声に振り向いた隆。有紀は依然名波をガン見したままだ。
「・・・誰?」
「あ、僕、吉永です。竹中さんの部活の先輩なんだ」
隆達2年生の一つ上の3年生の春樹は簡単に自己紹介をした。
なんで3年生がこんなところに、と隆が思っていると春樹が答える。
「竹中さんに用があったんだけど・・・これってどういう状態なの?」
「こいつが黒木っていうあそこの女子のことを忘れてしまったっていう話をしてたとこです」
「ん? どういうこと?」
簡単に説明する隆。それを聞いて納得した顔をする春樹。
「要は間違い探しなんでしょ?」
「まぁそうですけど・・・」
今日初めて見たであろう名波の間違い探しをさせたところで、わかるわけがないと思っている隆。
しかしこの吉永春樹と言う男、ただものではないがそんなことを隆が知る由もなかった。
ここで有紀が背後に誰か立っているのに気づいたらしく振り向く。そこに立っていた春樹が視界に入ると同時に、さっきまでの邪念が吹き飛んだかのように驚いた表情を浮かべる。
「吉永先輩っ? な、なんでこんなところにっ?」
「竹中さん。今日の部活のことで話があったんだけど、今大丈夫だった?」
「だ、大丈夫ですっ」
「じゃあちょっと行こうか」
そう言って教室を出ていく春樹と有紀。
残された隆はなんとなく拓馬の頭を叩いてから席についた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とかあれば書いていただけると大変喜びます。
ついに彼が日常に出現しました。
もちろん彼が誰だか覚えてますよね?・・・覚えてますよ・・・ね??
次回もお楽しみに!