黒タイツにかける情熱
「人生ってなんだろな?」
「は?」
教室で授業を受けていたら、いきなり話を振られた黒髪のだるそうな少年・相沢隆。
その突拍子もない会話を振ってきた茶髪の明るすぎる少年・木下拓馬。
通路を挟んで席が隣同士の二人は仲が良かった。
「だーかーらー。人生ってなんだと思う?」
「別に聞こえなかったわけじゃねーよ。質問があまりに唐突すぎて意味がわかんねぇだけだ」
「さいですか。じゃあなんだと思う?」
「あー・・・」
めんどくさそうに考え始める隆。なんやかんや言っても友達想いな彼は拓馬の友達であり幼馴染であり大親友です。
「楽しむコトじゃね?」
「その心は?」
「いや、今のが心の部分だけどな。毎日笑って暮らしていければそれはそれで良い人生になりそうじゃん?」
「さすが隆!」
「じゃあ拓馬はどうなんだよ」
「黒タイツかな☆」
さして迷った様子もなく、軽快かつ大胆に答える。そんな拓馬を見て隆はため息を漏らす。
木下拓馬は、壮絶な黒タイツフェチなのである。高校2年でもはや女性の足に興味があるのはどうかと思うが、相当な変態である。
「それにしてもいい時代になったもんだよなぁ」
そう言って前のほうをうっとりと見つめる拓馬。
真ん中よりもやや後ろに位置している二人の席から前を見ると、同い年の女子生徒が見える。全然普通の光景ではあるのだが、そこは黒タイツ拓馬である。女子生徒の顔や胸、背中や髪など全てをスルーして、足だけを見定めている。
季節は秋も深まりし11月。自然と女子生徒たちも冬服の上にコートを着たりして防寒対策をし始める季節だ。
しかし腰から下のスカートから伸びている部分は隠しようがない。
そこで上からジャージを履いてくる生徒もいるが、大半はタイツである。さらにその大半が黒いタイツを履いている。
拓馬にとっては冬という季節はパラダイスだった。北国パラダイスだった。
そして隆の3つ前の席に座っている黒髪の美少女の女子生徒こそが、拓馬好みの足をもつ生徒だった。
「はぁ~」
うっとりと眺める拓馬から桃色の吐息が漏れた。その瞬間、見られていた女子生徒がブルっとからだを震わせた。
「拓馬。キモイからやめろ」
「隆にはまだわからないんだな。よし、ちょっと待ってろ」
そう言ってノートにせかせかと何かを書き始める拓馬。
こんな拓馬に慣れている隆は、無視して黒板の文字をノートに書き込んでいく。
授業が終わり、拓馬のもとへと一人の例の女子生徒がツカツカ・・・いや、ズンズンと歩いてきた。
「ちょっと木下! また変なこと考えてたでしょ!」
「誰がお前の足なんか見て欲情するかよ!」
「うそつけ」
「ちょっと!欲情って・・・この変態!」
「だからしてねぇって言ってるだろ! そんなことより隆、これ読んでろ」
隆の小さなツッコミを無視して、女子生徒と拓馬はケンカ腰で会話を始めた。
これもいつものことなので、隆は二人の声をBGMにして拓馬から渡された紙を読み始めた。
「ブハッ!!」
吹き出すのも無理はない。拓馬から渡された紙には、黒タイツの魅力についてが汚い字でびっしりと書かれていた。
ザックリとななめ読みをしていくと、途中から噂の女子生徒・黒木名波の話になっていた。黒タイツのことを何も知らない人がここの文章から読み始めたら、ラブレターか何かだと思ってしまうような内容だった。
そして最後の一文はこう書かれていた。
『木下拓馬は黒木名波の足を愛してます』
もうこれはダメだと思う。
しかしここで終わらないのが黒タイツ拓馬の親友である隆である。
隆はイタズラ好きで有名である。
この前も同じのクラスの男子の一人が生贄となってしまい、カバンの中がゲームのケースでたくさんになっているという事件が起こった。
中身は空っぽでケースだけが大量に入っていた。それを運悪く先生に見つかってしまったのである。
犯人が名乗り出てこなかったことから、この事件は迷宮入りなってしまったが、クラスの生徒たちは皆、犯人が隆であることが分かっていた。
なんやかんやで、皆も変わったことが好きなので、先生の犯人探しに手伝うようなことはせずに『小さいおっさんじゃね?』とか『さっきゲーム会社の人が来てたよ』とか適当なことを言っていた。
この事件を『ゲームケース混入事件』と名付けられてクラス内で処理された。
しかしカバンに入れられた生徒だけが先生に呼び出されてしまったのは内緒。
そんな隆が今回思いついたイタズラ。
「黒木。これやるよ」
「え? なにこれ?」
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
隆が渡したのはもちろん拓馬から受け取った紙である。
問答無用で渡す隆。それを絶対死守しようとして教室を揺らす勢いで大声を上げた拓馬。
今二人の戦いが幕を開ける。・・・わけもなく、あっさりと名波へと紙が渡ってしまった。
隆 WIN
隆のパーフェクト勝利であった。
「・・・相変わらず黒タイツ好きね。・・・ってなんですとぉぉぉおおお!?」
きっと最後の文を目にしたであろう名波が、美少女の異名からは想像できないような大音量の声が教室に響いた。
全力全開で真っ赤になる名波。それを見てしてやったりの表情をしている隆。隣の席で顔を逸らして口笛を吹いている拓馬。
今日も世界は平和である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると大変感謝感激します。
さて新作です。
初めて読んでいただいた方は初めまして。前回から読んでいただいている方はまたよろしくお願いいたします。
前作とは全く違う感じ(?)で今回もコメディ(笑)を始めていきます。
では次回もお楽しみに!