敵
――東城護と九条凛が防衛軍の聴取を受けていた頃、白馬皇子が率いる独立宇宙軍のとある基地の会議室は荒れに荒れていた。
「何故、赤軍の機甲兵が地上に降りているのだ。このことが皇帝にばれたらどうするつもりだ!」
怒鳴り声をあげているのは、宇宙軍の最高司令官であり、現皇帝武蔵の息子、白馬第二皇子であった。
「まあまあ、落ち着いてください、殿下」
「ぐぬぬ……アンドレイ殿、説明していただけるのでしょうね」
アンドレイと呼ばれた、がっしりとした体形の大男は、一切表情を変えずに、ゆっくりと口を開いた。
「我々、ソビエト宇宙連邦の兵士は、大地を離れて長い間宇宙を彷徨い続けてきたのです。このような美しい大地を見れば、そこに降り立ちたくなるのは必然。しかし、事を秘密裏に進めたいと、白馬皇子殿下が仰る意味も分かります。今後はこのようなことが起きないように致しましょう」
男の使う言語はこの国の人間か使う言語とは似ても似つかない。会議室にいる人間で彼の言うことの意味を理解することが出来るのは、古代語に精通している白馬皇子だけである。
「……まあ過ぎたことは仕方がない。今後このようなことが起きたならば、我々の間で結んだ協定の内容にも響いてくるものと思え。今回のことは我々、独立宇宙軍が全て対応する。諸君らはここでおとなしくしていて貰いましょう」
当然、アンドレイにもこの国の言語は理解できないので、白馬はこの国でいうところの古代語を使ってアンドレイに話しかけている。
「ええ、そうさせていただきましょう。それに、幸いにもパイロットは死亡したそうじゃありませんか。なに、白馬皇子殿下にかかれば誤魔化すことなど容易でしょう」
アンドレイは席を立ち会議室を後にした。
「何を言っているのか私どもには分かりません。しかし、あの男、反省している様子も見せない。処分せずともよいのですか、殿下?」
会議室にいる男の一人が白馬に尋ねる。
「よい、処分したところで状況が好くなる訳でもあるまい。……それにしても仲間が死んだことが幸いか。死んだ男から計画が露出する可能性がなくなったことは確かだが、こうも簡単に仲間を切り捨てるとは……あの男、どうにも信用ならない。とにかく監視を強化しろ。宇宙港に停泊している赤軍の船もしっかりと見張っておくのだ。もう二度と、この宇宙基地から外に出さないようにな」
「了解しました。ただちに監視を強化します」
男たちがぞろぞろと外に出ていくと、会議室の中は白馬一人になった。誰もいなくなった会議室で白馬は一人呟く。
「ここまで、皇帝にはばれずに計画を進めてきたのだ。千歳という不安要素はあるが、あれは大事な妹であると同時に、この国の宝だ。絶対に傷つける訳にはいかない。あと一週間を切ったのだ……この国の未来の為に、なんとしても、計画を成功させなくては」
白馬は深いため息を一つ吐くと、ゆっくりとした歩調で会議室を後にした。