エピローグ
全てが終わり、平和な日常が戻ってきた。
千歳は国民の多くの要望によって、やはり皇帝に就任することになった。右も左も分からない千歳の事は、麗華と養老がその両腕となって支えている。あの二人なら、千歳を利用してこの国を間違った方向へ進めるようなことはしないだろう。
そして、俺と凛、大禅師は防衛軍士官学校へと戻ってきた。俺たちがいない二年間、士官学校は軍人養成学校として、人員の変更やそのカリキュラムを軍事より大幅に変更させられていたが、今はすっかり元通りになっている。学校を束ねる校長も、白馬の部下から元の穏和な校長に戻った。
かつての同級生たちはもう三年生になるが、俺たちは一年生のままだ。それには違和感があるが、彼らが送った二年間は俺たちにとっては二日間でしかないので、一年生のままなのは仕方がないだろう。
今の学年で知っているのは凛と大禅師だけ……いや、もう一人いた。
「護、宗。次の演習では絶対に負けんぞ。覚悟しておくがいい!」
ソフィア・ラビミーヒナ。俺たちが戦った彼女が転入してきたのだ。あの戦いで、リーダーを失った多くのソ連兵は降伏し、数は少ないが今は俺たちと一緒に普通に暮らしている。ソフィアは、何かと俺たちと張り合ってくるので、彼女がいると学校生活が退屈しない。
「大禅師、そういえば昨日いなかったが、もしかして麗華のところに行っていたのか? 大禅師に限って、まさか風邪というはないだろうしな」
「おいおい、失礼だな。確かに、俺は生まれてこの方、風邪なんて引いたことはないが。昨日は護の言う通り、麗華のところに行っていたよ。軍の再編成に関する相談とかでな」
大禅師は、ちょくちょく麗華と会っているようだ。あの戦いを経験していて、かつ戦いに関する豊富な知識がある大禅師はその方面において大いに頼りにされているようだ。大禅師も軍事方面で頼られるのは満更でもないようだ。しかし、そのことを凛に話したら、「……護からすれば、そう見えるかもしれないね」などと冷たい声で言われた。俺は何か間違っているのだろうか。
そして今、俺は凛に呼び出されて体育館裏に来ている。
「……護、来てくれてありがとう」
「ああ。それで、こんなところに呼び出すなんて、なんの用事なんだ?」
「えーと、あの戦いの出撃前に、言いたいことがあるっていったでしょ。今日はそのことを話そうと思って」
「あの時のことか。ずっと気になっていたんだ。戦いが終わった後も何も話してくれなかったしさ」
「そ、それで私が言おうと思っていた事なんだけどね……」
「うん、なんだ?」
「ま、護のこと好きなの!」
「そうか。俺も凛のこと好きだぞ」
「え! ほ、本当に!」
「ああ、それに大禅師や他の皆のことも好きだぞ。色々とあったけど、ソフィアも一緒にいると退屈しないし面白いよな」
「……好きってそういうこと。そうだよね、護だもんね。大禅師君と麗華のことだって、分かってないみたいだし……」
「どうしたんだ? そんなに肩を震わせて?」
「護のことなんて知らないっ!」
「あ、おい! 待ってくれよ!」
急に走り出した凛のことを俺は追いかける。
白馬の言っていたことはある意味では事実だ。この宇宙にはソ連本部や、俺たちの知らない別の組織だっているかもしれない。彼らとめぐり合うことになったら、また戦いになるのだろうか? それとも、互いを理解し、共存することができるのだろうか?
俺には未来の事は分からない。誰だってそうだ。予知能力を持つ千歳にだって、これからのことなんて本当の意味では分かりはしない。だからこそ、俺は願い、努力するのだ。退屈なようで、楽しい。でも、時には傷つくこともある、そんな日常がずっと続くように。