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スサノオ

 時は少しだけ遡り、護たちが敵陣を突破した直後。場所はバトルノア付近の宙域。

「これより十秒後に主砲を発射します。機甲兵部隊は射線軸上から離れてください」

 麗華の指示によって、機甲兵が射線軸から離れる。

「主砲、発射」

 艦首より極太の粒子砲が発射される。バトルノアに向かって接近していた敵の機甲兵がそれを避け切れずに爆散する。

「艦長、今の攻撃で敵の機甲兵約二十機を撃破しました」

「主砲、これより冷却を開始します。冷却時間は四八○秒です」

「敵、機接近してきます」

「接近してくる機体を副砲、およびミサイルで攻撃。対空機銃担当者は敵機の接近に備えて。機甲兵部隊は散開。この艦から離れすぎないように!」

 敵の全機甲兵部隊はバトルノアに攻撃を集中させていた。その数はバトルノア側の十倍はあるだろう。そんな中で麗華はよく指揮をとっていた。無理に攻め込もうとはせず、遠方の敵をけん制しつつ、接近してきた敵機を確実に撃破する。そんな戦法をとっていた。そして、短期決戦が求められる戦法をとることができるのは……

「この様子だと、護と千歳、凛、それに宗は無事に敵陣を突破できたようね。後は彼らを信じて耐えるのみ」

 麗華にとってはこの危機的状況すらも作戦成功の予兆とすら感じていた。

「敵、大部隊が接近中。このままだと数で押し切られます」

「サバイバー四機を向かわせてください。その後、敵陣に向けてミサイルを発射。敵陣に近付いたところで、そのミサイルを副砲で撃ち抜いてください。爆発で敵の目を眩ませます。サバイバーの射撃支援ゴーグルを用いれば爆発の衝撃の中でも敵機を狙い打ちできるはずです!」

「こちらサバイバー部隊。指示通り、敵陣に向かいます」

「了解。ミサイル発射。砲術士はミサイルをしっかりとターゲティングしてください」

「まだ……まだよ。……今! 副砲、撃てぇー!」

 ミサイルの爆発の中で、小さな爆発が立て続けに起こった。作戦通りだ。サバイバー部隊が敵機の多くを撃ち落としたのである。

「艦長、数は減りましたが、それでもまだ多くの敵機が残っています」

「……主砲発射」

「艦長、主砲はまだ冷却が終了していません。回路が焼き切れます」

「壊れても構いません。無理にでも発射してください」

「りょ、了解!」

 発射された主砲によって接近していた敵部隊の多くが撃墜された。

「皆、こちらはなんとか持たせます。だから早く白馬とアンドレイを……」


「ソフィアとの戦闘でかなり時間を食っちまった。早く二人に追いつかないと……」

 護はひたすら前へ前へと加速していた。早く白馬とアンドレイを見つけて倒さなくてはならない。いや、それ以上に二人のことが心配なのだ。二人とも機甲兵の操縦の腕前はかなりのもの、そうそう撃墜されたりはしないと信じているが、先が見えないほどの広い宇宙ではそれを感じられる距離にいないと不安になって仕方がないのだ。

「ん? あれは機甲兵が三機……いや、二機か。片方の機甲兵がやけに大きいんだ。小さい方は大禅師か? ええい、間に合ってくれよ」

 俺は更なる加速をかける。その時、一閃の光が大きな機甲兵を撃ち抜いた。それっきり機甲兵は動かなくなる。

「今の光はツクヨミのスナイパーライフルか。凛も近くにいるのか?」

 俺は辺りを見回すが、ツクヨミの姿は確認できない。超長距離狙撃銃による攻撃なら、ここからは見えない位置からの攻撃も十分に考えられる。

「とにかく、大禅師を助けよう。あの様子じゃかなり手酷くやられているみたいだ」

「……待って、護! あっちに何かいる!」

 大禅師の方に進路を変更しようとした時、千歳が叫んだ。千歳が指差す方向を見ると、そこには、先ほどはいなかった大きな機影が確認できた。

「どういうことだ。さっきはあんな機影はなかったぞ」

「宗は大丈夫……だと思う。それよりも凛が危ないわ。あの影は凛を襲っている」

「それは本当か! なら急がないと」

 俺は突然出現した謎の機影に向けて更に加速した。


『……助けて、護』

 俺は敵機の牙に貫かれようとしている、ぼろぼろになったツクヨミの姿を見た。

「凛ーっ!」

 俺は咆哮と共にツクヨミを貫こうとしているその腕を切り裂いた。

 敵機がこちらを向く。確かに切り裂いたはずなのに敵機の腕は繋がった状態のままだった。

「凛、凛、返事をしろ、凛!」

 宙に漂うツクヨミに乗っているはずの凛に通信で呼びかける。しかし、応答がない。通信システムが壊れているだけだと思いたいな。直接、機体同士を伏せ合わせれば会話をすることも出来るだろうが、目の前に敵機がいるのではそれを出来ない。

「……護、通信をオープンにして」

「急にどうした。オープン回線にしたって凛とは繋がらないぞ」

「違うわ。あの機体。あれにはお兄様が乗っている気がする」

「お兄様……白馬か!」

 俺は通信をオープンチャンネルに設定して敵機に向けて話しかけた。

「その機甲兵に乗っているのは白馬皇子か?」

「いかにもそうだ。しかし、私が乗っているのは機甲兵ではない。言うなれば機甲獣。その名もズミヤー・アハト。この二年で我々はこのような物を作ることすら可能になった。それは私の正しさを証明することに他ならない。そうは思わないか、少年」

「俺は……そんな風には思わないね!」

 俺は腰のビーム剣を抜き、構える。敵機ズミヤー・アハトは丸っこい本体に頭部。それに長い六本の腕と、腕によく似た形の尾が生えたような構造をしている。そして、ハッキリと見ていた訳ではないが、その腕にはなんらかの再生能力が備わっていると思ってもいい。

「そちらからこないなら、こちらから行くぞ!」

 ズミヤー・アハトの三本の腕が同時に襲いかかってくる。俺はそれを回避しつつ剣で振り払う。そして見た。切り裂かれて壊れた腕の部品が外れ、無事な部分が連結するのを。

「なるほど、そういう仕掛けか」

 腕を切っても意味がない。その先端を潰さないと。俺は再び剣を構える。

「待って、護。……お兄様、千歳です」

「千歳……か。まさか機甲兵に乗っているとは。まあ、これで部隊に作戦変更を伝える必要もなくなった訳か」

「お兄様、私の話を聞いて。なんでお兄様はこんなのことをしたの? お兄様は、お父様たちとは仲が悪かったけど、私とはよく遊んでくれたじゃない!」

「遊んでくれた……か。今になったから言うが、それは千歳の力を利用したかったからだよ。父のやり方に反対したのも千歳を私の味方につける為だ。私とて、千歳に関する考え方は愚か者の父と同じだよ。未来を視る力……これほど便利な力はないだろう」

「そんな……お兄様は、お兄様だけは家族の中でも私を私として見てくれていると思ったのに」

「それは千歳の勝手な想像だよ」

 千歳は兄の言葉を聞いて俺の膝の上で泣いていた。許せなかった。こんな風に人の気持ちを踏みにじるような行為が。

「白馬! お前は絶対に許さない!」

「許さなければどうする。力無き者は強者によって屈服させられるのみ。だから私は力を求めた。何者にも屈服させられない強大な力を。君が私を許さないというのなら力を見せてみろ!」

 ズミヤー・アハトの六本の腕が同時に襲いかかってくる。俺はそれを躱して敵機の後ろに回り込む。

「私にとって後方は死角ではない!」

 尾の先が開き、そこに並んだビームの歯によってスサノオの左腕を噛み切る。

 俺はそのまま機体の下に回り込み足を振り上げる。そしてーム刃を起動させない状態のクツナギをズミヤー・アハトの下腹部に突き刺す。

 そして敵の下腹に足を固体した状態で手首を回転させて尾の連結部を斬る。斬られたことで破壊された部品が自動的に破棄され、無事な部品が連結する。その連結された部品をまた切り裂き、破壊された部品が破棄されて、再び無事な部品が連結する。これらが高速で行われ、瞬く間に尾の先が手元にまで近づいてきた。俺はそれを切り裂く。

「な、貴様! しかし、そこにいては逃げられまい」

 二本の腕が襲ってくる。俺はクツナギのビーム刃を起動させると、その場をすばやく移動し敵の腕を掻い潜った。

「白馬、弱者が強者によって屈服させられるというのなら、何故お前は同じことを行う」

「……それがこの世界の真理だからだ」

「違う。そんなものは真理なんかじゃない。お前はそれが嫌いなんじゃないのか。だから諦めたような口調でそう繰り返すんじゃないのか。お前に力があるのなら、なんでその力で弱い物を守ってやろうと思わなかったんだ!」

 俺はクサナギを手に持ち横に振りきる。白馬は腕で鞭をガードする。鞭はその腕を軸に円運動をして敵機を襲うが、白馬は機体を降下させることでそれを回避した。クサナギは一本の腕に巻きついただけだった。これではなんの意味もない。

「……弱い物を守るだと? この世界にはまだまだ強者がいる。この広い宇宙のどこかに潜むソビエト連邦本部などがそうだ。彼らに屈服させられない為にもまだまだ力が必要なのだよ」

「そうやって力を得てどうする。自分よりも強き者を倒していき、最後に誰よりも強くなった時にお前はどうする! 自分よりも弱い者しかいない世界で、自分が頂点に立つことで満足でもするのか」

「そうなれば私は弱者を守るさ」

「それは相手を屈服させた結果だろう!」

 先端にビーム状の牙を突出させた敵の腕が目前に迫る。俺は五種目の剣、ツムガリを起動させる。頭に生えている角からビームの刃が生じ、倒れこむようにして腕の先端を引き裂く。

「白馬、貴方は軍備を増強させて自分の力を誇示したいだけなんだ。軍というのは一般人の見えないところで平和を維持するものだ。それでも、どうしても水面下で物事を防げない時だけ表に出てきて人々を守る為に戦うのが軍だ。それが力だ」

「それは子供の理屈だ。誰もが力に対して力で対抗している。私だってその真理に従っているだけだ」

「そうやって力でしか物事を考えられない方がよほど子供でしょう!」

 俺は肩にセットされていた五種目の剣、ムラクモを手にした。

「このムラクモは周囲に拡散しているビーム粒子を集めて刃とします。この剣の粒子の収集範囲はこの戦場全体に広がっている。それがどういうことか分かるな」

 戦場全体、それは千歳の優しさの光、大禅師の勇気の光、麗華に他の仲間たちの守るための光、そして白馬によって生み出された大量の悪意の光。

「これが、お前の行った罪の大きさだと知れ」

 俺が振りあげた剣には周囲から続々と光の粒子が集められていく。その長さは天まで届くような、あるいは星さえも切り裂くような大きさへと成長していく。

「おのれっ!」

 白馬が残っている全ての腕でこちらに攻撃を仕掛けてくる。しかし、その巨大な剣の一振りで全ての腕が一瞬で蒸発した。

「ならば、ならばお前はどうなる。力によって私を屈服させて……お前は千歳を利用してこの国を支配するつもりなんだなっ! そうだ、そうなんだろう!」

「……俺はいつだって誰かを助ける時は影から助けていた。そして今回は影からでは防ぐことができないような事態だった。それだけどのことだ。貴方が死ねば千歳が皇帝となることでしょう。そうなったら俺は千歳の事を影から支えるつもりだ。そして、千歳に必要とされなくなればそこから姿を消すだけのこと」

「……口ではなんとでもいえる」

「そうだな。だから貴方は空から俺のことを見ていればいい。さようなら」

 俺はその剣を振り下ろした。白馬が乗るズミヤー・アハトは跡型もなく消滅する。

「とにかく凛を助けないと。凛、凛!」

 俺はツクヨミにその手を触れて声をかける。音が伝わらない宇宙空間でも手と手を触れ合わせれば、その思いを伝えあうことが出来るのだ。

「ま、護。そうだ、白馬は! 白馬はどうしたの!」

「それなら、さっき俺が倒したよ。あとはアンドレイだけだな」

「アンドレイなら私が討ったわ。白馬にやられる直前にね」

「そうか、あの時の閃光がそうだったんだな。じゃあこれで全てが終わったのか」

「うん。だから早く伝えてあげて。麗華ちゃんたちはまだ戦っているかもしれないから」

「そうだな。じゃあ俺は敵の宇宙基地に行くよ。あそこからなら、ここら一体の宙域全体にオープンチャンネルで通信できるはずだから。後で必ず迎えに来る」

 俺はひとまず凛たちをその場に置いておき、目前にある宇宙軍基地本部へと向かった。そこで宙域全体に通信を送る。

「こちら東城護だ。戦闘を行っている全員に告げる。皇帝白馬とソ連駐留軍のリーダーアンドレイは倒れた。これ以上、戦いを続ける理由はない。この場にいる千歳にも挨拶をしてもらおうと思う。さあ、千歳。何か話して」

「え、えーと千歳です。私は死んだりはしていません。二年前の事件から逃げ伸びて、この度故郷に帰ってきました。これからは皆で仲良くやりましょう!」


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