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アマテラス

 護とソフィアが熾烈な戦いを繰り広げていた頃。その先の宙域でも別の戦いが始まろうとしていた。

「もう敵の基地は間近だっていうのに敵機の姿が全然ないな」

「そうね。多分、バトルノアの攻撃に戦力を集中させているのよ」

「だろうな。早いところ決着をつけないと。このままじゃ麗華たちが危ない」

「……もしかして大禅師君って麗華のこと好きなの?」

「な、こんな時になにを言っているんだよ! そりゃ別に嫌いじゃないけどさ……」

「大禅師君って素直じゃないのね」

「うるせえ」

 自信家で緊張や羞恥とは無縁の大禅師は珍しく顔を赤くして言った。

「全く……どこから敵の攻撃がくるか分からないってのに」

「本当にな。これほどまでに緊張感のない反逆者は初めてだ」

「だ、誰だ!」

 大禅師の目に映るのは通常の機甲兵の二倍はある巨大な機甲兵だった。腰からは巨大なアームが伸びていて、腕は大型のビーム砲だろう。推進機は胸部と一体化しており、本来それがあるべき背中には別の何かがついている。

「戦況を知るにはまずは情報だ。故に私の機体は指定した周波数以外の通信を全て傍受する。重要なのは自軍よりもむしろ敵の情報だ。なのに、接近してきた敵機で行われている会話がこんな馬鹿な話だなんて、私の兵法が否定された気分だよ」

 その声が放つのは言葉づかいこそ流暢であるものの、発音はカタコトの日本語。それはこの男がソビエトから来た人間であることを示していた。

「誰だと私に聞いたな。……反逆者には二種類の人間がいる。皇帝白馬を狙う者と、この私アンドレイ・マレンコフを狙う者だ。私は貴様の目の前に。そして、皇帝白馬はこの先の宇宙軍基地にいる。貴様はどちらだ?」

「これはご丁寧にどうも。俺たちの狙いはまさにあんた等二人さ。二年前のクーデターを企てた中心人物である二人を倒しちまえば、それでめでたくこの戦いは終結さ。我らが旗印である千歳皇女によってこの国は納められる」

「そうか。行方を捜していた千歳はこの場にいるのか。それはよいことを聞いた。白馬はその力を利用しようと考えているようだが、私に言わせれば彼女は危険なだけの存在だ。殺してしまうにこしたことはない」

 そう語りかけてくる敵機はただならぬ殺気を放っている。アンドレイという男はかなりの実力者らしい。

「……凛、俺が援護するからお前は先に行け。この先にいる白馬を倒すんだ」

「でも、それじゃ大禅師君が」

「俺が負けるとでも思っているのかよ。安心しな、しばらくすれば護だってくるんだ」

「分かった。じゃあ、またね」

 凛はアンドレイの機体を大きく迂回して先へと進む。しかし、アンドレイはそれを止めるような素振りは見せない。

「行かせていいのかい、アンドレイさんよ?」

「構わん。むしろ、戦死してくれれば私としてはありがたいぐらいだ。ソ連人の手ではなく同族の手によって殺されたなら私が避難されることもない。しかし、私自身も死んでしまっては意味がない。まずは貴様らから血祭りにあげるとしよう。このアンドレイ・マレンコフと私が操るこのイズミエナがな!」

 そう告げるとアンドレイはその腕の大型ビーム砲を大禅師に向けて放った。

「そんな攻撃当たるかよ!」

 大禅師はそれを軽く躱すと背中にある五本のビーム砲を一斉に放つ。

「そんな大雑把な攻撃で私を倒せると思っているのか?」

「まさか。そこまで甘ちゃんじゃないさ、俺は」

 大禅師はアマテラスの背中のビーム砲を二本取り外してその手に持つとアンドレイに向けて剥きだす。その先端には発射されずにその形を維持するビーム光が輝いている。柄の長さも合わせればその長さはビーム剣の比ではない。言うなればビーム槍とでも呼ぶべき代物だ。

「なるほど、その武器は接近戦もこなすのか」

 アンドレイはイズミエナの腰から生える不気味な光を放つ手でその槍を掴んだ。その怪しげな光が、槍が放つビームを掻き消す。そしてその両腕のビーム砲でアマテラスの両腕を撃った。そのビームはアマテラスの黒い特殊走行によって弾かれる。しかし、アンドレイはアマテラスの小さなダメージを見逃さなかった。

「その装甲はビームを防ぐか。だが、貴様のその指は溶けている。全身がその装甲という訳ではないようだな。手に顔面、それに胸が。そこから貫通させれば内部からの破壊は容易。しかし、その胸には何か秘密がありそうだな。あまりにも目立ちすぎる」

 やりにくい相手だと大禅師は感じていた。指に受けた僅かなダメージからこちらの弱点を瞬時に見切った。しかし、機体の性能面や操縦技術で負けている訳ではない。

「後ろからならぁ!」

 今度は正面からではなく後ろから攻撃をしかける。今度は接近せずにビームを発射して攻撃する。かし、腰のパーツがぐるりと回転して、バリアを放つ手がこちら側を向いた。それによってこちらの攻撃は防がれる。

「甘いな。この手のバリアは元々後ろからの攻撃を防ぐ為に付けたものだ」

「そうかい。なら正攻法で行くまでさ」

 大禅師は正面から敵機に向けて突っ込んだ。

「愚かな。死にたいと言うのなら、望み通り殺してやろう」

 大禅師が背中から放つビームは悉く腰の手のバリアによって防がれる。

「じゃあ、これはどうかな!」

 大禅師はそう叫ぶと、手に持った槍から生じるビームの刃を自分の胸に向けて突き付けた。胸に当たったビームの刃は、拡散して跳ね返される。細かな粒子の雨がアンドレイを襲う。

「やはり貴様は愚かだな」

 アンドレイはそう言うとその腕のビーム砲でアマテラスの頭部を撃ち抜いた。

「……あのほどに拡散させてしまったら威力が低すぎて意味がないことにも気付かないとは」

 アンドレイの言うように、大禅師の放った攻撃はイズミエナの装甲に小さな傷を大量につけただけだった。

「意味ならあるぜ。目暗ましっていう立派な意味がな。頭部はくれてやった。俺は代わりにコイツを頂く!」

 大禅師は敵機の真上で前転するように背後に回り込むと、手に持った槍を後ろに突き出した。ほぼ零距離の近接攻撃。腰から生えた手のバリアで防ぐ隙すらない。槍に貫かれた背中の装置は煙を吐くと音を立てて壊れる。

「さっきの発言は迂闊だったな。後ろの攻撃を防ぐ為になんて、背中にあるそれが大事なものだってばらしているようなもんだぜ。頭部は破壊されちまったが、視界は悪くないぜ。なんとってもこの機体は特別製だからな」

 大禅師はひょっとすると視界を失うことも覚悟しての攻撃だったが、頭部を破壊されてもコックピット内の全周囲モニターには乱れ一つない。全周囲を映し出すには頭部にあるカメラでは視界が足りない。故に頭部は破壊されても大きな問題はない。大禅師の希望的予測は当たっていたのである。

「……なんということだろう。移送エンジンが破壊されてしまっては、本国に転移することができない。こうなったら負ける訳にはいかない。そうだ、この反逆者どもさえ殺してしまえば何も問題はないではないか」

「何をぶつぶつと言ってやがる!」

 大禅師は再びアンドレイに向けて突撃する。

「貴様は殺す。絶対にだ」

 そう告げたのと同時に胸部のビームマシンガンを連射する。四つの砲門から発射されるビームの連射はまるで嵐のようであったが、アマテラスの特殊装甲の前では無意味だ。

「そんなもの効くかよ!」

「そうだ。効かない。そんなことは分かっている。しかし、この行動にも意味はある。貴様も先ほどしてみせたではないか」

 その瞬間、防御にばかり使うと思われていた腰の手がアマテラスの両腕を掴んだ。ビームが弾かれた衝撃で宙に漂う光の粒子でその動きが見えなかったのである。

「しまった」

 しかし、もう遅かった。アマテラスはイズミエナの腰の手によって左右に引っ張られ、まるで悲鳴のような軋み音をだす。大禅師は必死でその手を振りほどこうとするが、しっかりと腕を逃げるその手はアマテラスを離そうとはしない。背中のビーム砲も、この体勢では相手に向けて撃つことは不可能だ。そしてアマテラスの両腕は虚しくも無残に引きちぎられた。

「お次はその武器だ」

 敵は千切れた腕を放り投げると、その手を上から思いっきり叩きつけた。殴られた衝撃でアマテラスは敵に背中を向けた状態で下に吹っ飛ぶ。そこをアンドレイは腕のビーム砲で攻撃した。機体そのものは装甲によって保護されてダメージを受けないが、その背中にセットされた武器はビームの直撃を受けて破壊される。

「さて、これで貴様に戦う術はなくなったな。じっくりといたぶってやろう。その憎らしい装甲を一枚ずつ剥がしていって、最後には貴様の体を握り潰してくれよう」

 そういうとアンドレイは力任せに装甲の継ぎ目からそれを一つずつ剥がしていく。コックピットの全周囲モニターも完全に壊れ、大禅師は機体が破壊されていく音をその中で聞くことしかできなかった。

『ああ、俺はこんなところで死ぬのか。ごめん、麗華』

 大禅師がそう思ったその時のことだ。

「ああ、こんなことになるのなら、ソ連本国にさっさと報告をすればよかった。そうすれば、私は総統からそれ相応の褒美ぐらいは受け取れたはずなのに……」

 機体が壊されていく音が急に止まった。


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