第3話:ぷるぷるの奇跡と、街を埋め尽くす行列
ザンガさんを「もふもふの沼」に引きずり込んだ翌日。
僕は街の噴水広場で、次なる「癒やし」を探していた。
「あ、いたいた。……君、迷子?」
噴水の隅っこで、光を反射してキラキラ輝く、透き通った水色の塊を見つけた。
「水玉スライム」のルルだ。
普通のスライムはベタベタして嫌がられるけど、ルルはまるで高級なゼリーみたいにプルプルしていて、しかも、ほんのりシトラスのいい香りがする。
「キュイ!」(ポムが「新しい仲間だ!」とはしゃいでいる)
僕がそっと手を差し出すと、ルルは「ぷにんっ」と僕の腕に飛び乗ってきた。
その瞬間、視界に真っ赤な警告ログが走る。
【緊急ワールドクエスト発生!】
【内容:伝説の『清流スライム』を保護し、その機嫌を最大まで回復させよ!】
【報酬:街全体の全プレイヤーのMP回復速度が2倍になる「癒やしの加護」】
「えっ、クエスト!? ……しかも僕の腕の中の子が対象!?」
街中に鐘の音が響き渡り、何事かとプレイヤーたちが広場に集まってくる。
「なんだなんだ?」「清流スライム? どこだ!?」
殺気立ったプレイヤーたちに囲まれ、ルルは怖がって僕の服の中に潜り込んでしまった。
マズい。
このままだとルルの機嫌が悪くなって、クエスト失敗(=加護なし)になってしまう。
「……みんな、下がって! この子、怖がってるから!」
僕が叫ぶと、人混みを割ってあの男が現れた。
「道を開けろ。……この御方は『もふもふの導き手』だぞ」
黒鎧のザンガさんだ。彼は仁王立ちになり、周囲のプレイヤーを威圧……するのかと思いきや。
「……おいお前ら、並べ。順番に、このスライム様とポム様の『癒やしの光景』を遠巻きに眺める列を作るんだ。騒ぐ奴は俺が斬る」
「えええええ!?」
ザンガさんの(間違った)統率力により、広場にはあっという間に数百人のプレイヤーによる「整列」が完成した。
「……あの、ザンガさん。眺めるだけじゃクエストが進まないんです。ルルの機嫌を直さないと」
「ならばどうする?」
「……ブラッシングと、高級な天然水が必要です」
そこからはもう、お祭り騒ぎだった。
最高級の天然水を持ってきた商人、ルルのために歌を歌う吟遊詩人、そしてポムの毛並みを維持するために日傘を差し出す魔術師……。
【システム:ルルの機嫌がMAXになりました!】
【緊急クエスト成功! 街全体に『究極の癒やし』が発動します!】
広場が柔らかな光に包まれ、徹夜で狩りをしていたプレイヤーたちのクマが消え、装備の耐久値まで(なぜか)回復していく。
「……コハク。お前、やっぱりただの召喚師じゃないな」
ザンガさんが、ポムを指一本でつんつんしながら真面目な顔で言った。
僕の腕には、満足げに眠るポムと、その上で跳ねるルル。
僕はただ、もふもふとプルプルに囲まれていたいだけなのに。
僕のVR生活は、どうやらどんどん「大ごと」になっていく予感がした。




