第2話:レベルアップの秘訣は、ブラッシング!?
「キュイ〜♪」
草原の木陰で、僕は必死に手を動かしていた。
手にあるのは、初期装備の「呼び子の笛」ではなく、露店で全財産をはたいて買った『特製・極細毛ブラシ』だ。
膝の上では、伝説級(自称:ただの綿毛)のポムが、とろけそうな顔でブラッシングを受けている。
「よしよし、ポム。毛並みがツヤツヤになってきたね」
【システム:召喚獣『ポム』の毛並みランクが上昇しました!】
【スキル:『物理反射・極』の威力が10%アップ!】
(……ん? 物理反射?)
首を傾げていると、背後の草むらがガサリと揺れた。
現れたのは、このエリアの初心者殺しとして有名な『ワイルドボア(野猪)』だ。
「グルルッ!」
突進してくる巨体。僕は反射的にポムを抱きしめて目を閉じた。
――が、衝撃は来ない。
『べふんっ!』
間の抜けた音と共に、目を開けると。
ポムの毛並みに弾き飛ばされたイノシシが、空中でキリモミ回転しながら吹き飛んでいくのが見えた。
「ええええっ!?」
「……おい、今のはなんだ?」
呆然とする僕の背後から、低い声が響いた。
振り返ると、そこには全身を黒い重甲冑で固めた、いかにも「攻略組」といった風貌の戦士が立っていた。
名は『ザンガ』。
彼は、さっきのイノシシを仕留めようと追っていたらしい。
だが、その目は吹き飛んだモンスターではなく、僕の腕の中の「もふもふ」に釘付けになっていた。
「……その、綿毛。そいつが今の反射を?」
「あ、はい。多分……ブラッシングの成果、ですかね?」
ザンガの強面が、わずかに引きつる。
彼は一歩、また一歩と近づいてきた。殺気……ではなく、何か別の、もっと切実な気配を漂わせて。
「……そいつ、ちょっとだけ……触らせてもらってもいいか?」
「えっ、あ、はい。ポムがいいなら……」
ザンガが、鉄の手袋を震わせながら脱ぎ、ごつごつした指先でポムの背中を「ぷにっ」と突いた。
「…………っ!!」
ザンガが沈黙する。
そして、そのまま膝から崩れ落ちた。
「なんだ、この弾力は……。俺は今まで、何を求めて最前線で血を流していたんだ……?」
【システム:トッププレイヤー『ザンガ』が、あなたの『もふもふファンクラブ』に仮入会しました】
「いや、そんなギルド入った覚えはないんですけど!?」
こうして、僕の意図しないところで「もふもふの輪」が広がり始めてしまった。




