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普通の冒険者、妹の気持ちがわからないと怒られる。

 陽が傾き、空が茜色に染まるころ、ウィルたちは目的地であるスモークウッドの町に辿り着くことができた。


 門が閉まるギリギリで町の中に入ったウィルたちは、冒険者ギルドへの報告のため、ランド一家との別れの挨拶もそこそこクエスト完了報告を行い、報酬を受け取って宿屋へと向かった。



「あ~、疲れた」


 冒険者ギルドで紹介された宿の二階の部屋に入るなり、メイプルは荷物を捨て、着ている服を脱ぎ散らしながら部屋の奥のベッドに飛び込む。


「ううん、久しぶりのベッド……今日はもう動かない」

「メイプル、仮にも聖職者なんだから、もうちょっと恥じらいというものだな……」

「あ~、あ~、聞こえません。今日はもう何もかもお休みです」


 ウィルの苦言に、下着姿のメイプルはベッドに顔を伏せたまま足をバタバタさせ続ける。


「……やれやれ」


 今のメイプルに何を言っても無駄だと悟ったウィルは、諦観したようにかぶりを振って彼女が脱ぎ散らした衣服を拾う。


「まあ、今回は特に厳しかったからな」


 ただでさえ不安定な森での護衛任務、何処に魔物が潜んでいるかわからない状況で接敵したコッコトリスという大型の魔物、さらにグリフォンという自分たちでは到底手におえない強大な魔物との邂逅と、ウィルが冒険者になってから初めてといっても過言ではない緊張の連続だった。


 その中でもメイプルの気付きと活躍がなければ、誰かに犠牲が出てもおかしくなかった。

 パーティーメンバーの中で一番経験が浅いメイプルが、少しでも仲間たちに追いつこうと必死に努力しているのを知っているウィルは、今日ぐらいは妹のわがままを許容してもいいだろうと考える。


「明日からはいつも通り頼むぞ」


 おそらく今の言葉はメイプルには届かないだろうな、と思いながらウィルは妹の荷物をいそいそと片付け始める。



 荷物を整理して、聖職者の証である法衣をしわが残らないように綺麗に畳んだところで、


「ん?」


 ウィルは視線を感じて後ろを振り返る。


 すると部屋の入口に、こちらを心配そうに見ている二つの人影が見える。

 上下に並んだ人影の一人、上から部屋をのぞき込んでいるロゼが声に出さず口の動きだけで「どう?」とウィルに尋ねる。


「ああ……」


 それで女性陣からメイプルを注視しておいてほしい、と言われたのを思い出したウィルは、自分の主観を伝えることのする。


「実は……」

「おいっ!?」


 心配そうに見ている仲間たちにその場で話し始めようとしたウィルであったが、ロゼが両手でバツ印を作り、黙っていいからこっちに来いと手招きする。


「…………」


 別にこのままでもいいのでは? と思うウィルであったが、ベッドに顔を埋めたままのメイプルをちらと見てから、そっと部屋の外に出て話し始める。


「見たところ特に問題ないみたいだけど、二人の目から見てどうですか?」

「どうってそりゃ……」

「気になるところですわね」


 おとがいに手を当てたリーリエが、気難しい顔をしてウィルに尋ねる。


「普段のメイプルと比べるとまるで幼子のようですが……あれは兄の目から見て問題ないですの?」

「えっ? まあ、家にいた頃はよくあんな感じでゴロゴロしてましたからね」


 ウィルは駄々っ子のように足をバタバタさせているメイプルを見て、懐かしそうに双眸を細める。


「久しぶりに再会した時には大人になったな、なんて思いましたが、ああ見るとやっぱりまだまだ子供だな……って何ですか?」


 昔を思い出して懐かしむウィルに、二人の女性が表情を硬くして詰め寄る。


「おい、リーダー。それは違うだろう」

「メイプルにとって今日の経験は、冒険者になって初めて命の危機を感じる体験でしたのよ? 緊張からようやく解放されたことで心が壊れないように、ああして童心に帰っているのですのよ」

「そう……なのですか?」


 リーリエからの説明を受けても、メイプルをよく知るウィルからすれば、彼女が童心に帰っているというよりは、家にいた頃と同じようにリラックスしているようにしか見えない。


「かああぁぁ……全くリーダーは、そういうところがまだまだだな」


 まだ理解していない様子のウィルを見て、ロゼはガシガシと頭を掻いて彼を押し退ける。


「ここはあたしたちが面倒を見るから、リーダーはメイプルの好物でも作ってきてくれ」

「それはいいですわね。今日の夕食はそれにしましょう」

「ええ、ですが……」


 せっかく町に来たのだから、酒場で酒を飲みながら楽をしたい。

 そう思うウィルであったが、


「いいから、店主に話を付けてとっとと料理を作って来い!」

「ウィルたちの故郷の料理ですからね。とびきりおいしいものを期待していますわよ」

「わ、わかりました。わかりましたよ」


 約一名、私情が挟まっているような気もするが、二人の迫力に負けたウィルはもろ手を上げる。


「それじゃあ、ここは二人に任せますね」

「おう、任せろ。リーダーも元気が出るやつを頼むぜ」

「メイプルは大事な仲間ですから、必ずやいつもの彼女に戻して見せますわ」

「……お願いします」


 仲間たちの頼もしい言葉に、ウィルはこの場を二人に任せて階下へと降りて行った。

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