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普通の冒険者、クエストを無事に終える。

 グリフォンが立ち去った後の森は、祭りの後にように静寂が戻っていた。


「…………行ったか」


 ガサガサと音を立てて藪の中から顔を出したウィルは、鎧に付いた草木を払いながら大きく嘆息する。


「ロウガさん、ありがとうございます。お陰で助かりました」

「なになに、別にたいしたことはしておらんよ」


 ウィルのすぐ近くの藪から顔を出したロウガは、顎の下を摩りながらニヤリと笑う。


「目くらましに幻術をちょっと合わせただけじゃよ。獣ならともかく、人間にはまず効かない子供だましじゃよ」

「だとしても、あの場で的確に最適な魔法を使える人はそうはいませんよ。ロウガさんがいなければ、俺たち揃ってグリフォンの腹の中だったかもしれません」


 グリフォンの攻撃で大きく傷つき、形が変わってしまった大盾を見て、ウィルはかぶりを振る。


「メイプルのサポートを受けてこれです。ランドさん一家を先に逃がしたこともそうですが、何か一つでもピースが欠けたらと思うとゾッとしますよ」

「全くです。今回は本当にダメかと思いました」


 全身に付いた葉を振り払いながらやって来たメイプルが、涙目でウィルへと詰め寄る。


「私なんて、まだ一度も昇級していない(ウッド)ランクの冒険者なんですよ。それなのにグリフォンなんて高ランクの魔物……本当に……本当に怖かった……」

「おっと」


 グリフォンと対峙した時の恐怖を思い出して膝から崩れ落ちそうになるメイプルを、ロウガがすかさず手を伸ばして支える。


「ハハハ、メイプル嬢ちゃんには少し刺激が強過ぎたようじゃな」

「うぅ……すみません。す、すぐ……立ちますから……」

「無理する必要はないぞ。どれ……」


 腰が抜けてしまっているメイプルを、ロウガは軽々と持ち上げて背負ってやる。


「こんなジジィに背負われて不満かもしれんが、馬車に合流するまで我慢しておくれ」

「い、いえ、そんなことないです。ロウガさんの背中……広くて、とても安心します」

「カカッ、そうかそうか、なら落ち着くまで存分に休んでくれ」


 ロウガは嬉しそうに何度も頷くと、全員の荷物をまとめているウィルに話しかける。


「安全も確保できたし、そろそろ馬車を追いかけるとするかのう」

「そうですね……後、メイプルのこと、お任せしてすみません」

「気にするな。お前さんたち兄妹の成長を見守るのも、ワシの楽しみの一つじゃからな」


 そう言ってロウガは、ズラリと並んだ牙を見せるように豪快に笑った。



 そこからウィルたちは、馬車が残した轍を頼りに森の中を進む。

 グリフォンがいなくなっても、巨大な魔物の縄張り内で過ごそうという物好きな動物や魔物はおらず、道中は至って平穏だった。


 葉の擦れる音だけが支配する静かな森を進んでいると、前方に先行した馬車の姿が見えて来る。


「おう、リーダー。無事だったか」


 馬車の後方の警戒をしていたロゼがウィルたちの姿を見つけ、手を振りながら駆け寄って来る。


「グリフォンの奴が奇声を上げて飛び去って行くのを見た時は肝を冷やしたけど、特に問題はなかったようだな」

「ああ、メイプルが恐怖で腰を抜かしたぐらいだ」

「そうか、安全な場所にいるあたしも怖かったし無理もない。とにかく無事で何よりだ」


 ロゼは心からの安堵のため息を吐くと、ロウガの背中で恥ずかしそうに顔を伏せているメイプルに駆けよる。


「メイプル、一番経験が浅いのにも拘わらず、恐怖に耐えてよく頑張ったな」

「私……少しはお役に立てましたか?」

「何言ってんだ。お前がグリフォンの存在に気付いて、初撃を防いでくれたお陰で皆が助かったんだ。本当にありがとうな」


 ロゼは両手を広げると、ロウガの背中からひったくるようにメイプルを抱き寄せる。


「後はあたしたちに任せて、のんびり馬車で休んでくれ」

「は、はい……ですが、もう自分で歩けますから」

「気にすんなって。子供たちも心配してたから、早く顔を見せて安心させてやろうぜ」

「わ、わわっ、ちょっと待って下さい!」


 慌てふためくメイプルを軽くいなしながら、ロゼは跳ねるような足取りで馬車の中へと入っていく。

 メイプルを励まそうと元気に振る舞うロゼを見て、ウィルとロウガは顔を見合わせて肩を竦める。


「とにかく、これで後は森を抜けて街に向かうだけですね」

「グリフォンとエンカウントするなんてこと以上に悪いことなど起こるまい。今晩は暖かいベッドで眠れそうじゃな」

「ええ、ですが気を抜かずに行きましょう。クエストは……」

「ギルドに報告するまで、じゃろ?」


 冒険者の間で語られるお約束を話し合って、ウィルたちはランド一家を護衛するクエストへと戻っていった。

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