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普通の冒険者と空の王者

「二人とも、ランドさんたちを頼みます」


 ランド一家の脱出の目処が立ったところで、ウィルは残っている二人に向き直る。


「さて、それじゃあ残業といきますか」

「……はい」

「ハハハ、いやはや昨日のコッコトリスといい、この森は実に楽しいのう」


 緊張した面持ちメイプルを和ませるためか、ロウガは実に楽しそうに頷くと、彼女を連れて近くの木の下へと移動する。


 二人がグリフォンの死角へ退避したのを見たウィルは、大盾を手に前へ出る。


「目的はあくまで時間稼ぎ。メイプルは俺の補助を、ロウガさんはかく乱をお願いします」

「わ、わかりました」

「任された。何、防ぐだけならそうたいした敵じゃあるまいよ」


 作戦を聞いた二人は、それぞれ分かれて杖を構える。


「兄さん、いきますよ」

「ああ、いつでもやってくれ!」

「はい! 守護の女神よ。我が声に応え、立ち塞がりし難敵を阻む壁を創り給え……」


 メイプルの詠唱を聞きながらウィルが大盾を構えると、彼の持つ巨大な盾が白く輝き出し、サイズが一回り大きくなる。

 守護強化の魔法を受けて大きくなった盾をウィルが構えると同時に、再びグリフォンが急降下して来るのが見える。


「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」


 ウィルが気合の雄叫びを上げながら両足を踏ん張ると同時に、グリフォンが振り下ろしたかぎ爪が強化された盾を削って激しく火花を散らす。


「来い! 俺が相手だ!」


 グリフォンの意識がメイプルたちに向かわないように、ウィルが叫びながら盾を押し出すと、怪鳥は再び巨大なかぎ爪を振り下ろす。


「ぐぬっ!」


 受け止めただけで膝を付くほどの衝撃に、ウィルは歯を食いしばりながら盾の向こう側のグリフォンの動きを注意深く観察する。


 かぎ爪が振り下ろされる度に、メイプルの補助を受けた盾が激しく火花を散らして小さくなり、くちばしが当たる度に盾が悲鳴を上げてひしゃげていくのがわかる。

 あのくちばしに、かぎ爪に捕捉されたら、鉄製の鎧を身に着けていたとしてもどうなるかわからない。


 故に、一撃たりと攻撃を受けるわけにはいかないと、ウィルは慎重に防御し続ける。


「キエッ! キエッ! キエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!」


 獲物が簡単に倒れないことに業を煮やしたグリフォンが、激しく羽ばたきながら執拗に繰り出すかぎ爪攻撃を、ウィルは必死の盾さばきでガードしていく。


「くっ、手強い……」


 削り取られた盾の破片が頬を掠めて血が舞うのを見て肝を冷やしたウィルは、近くにいるはずのロウガに助けを求める。


「あ、あの……ロウガさん。まだですか?」

「何、今しがたできたところじゃ……」


 焦るウィルに対し、何処からかロウガの声が聞こえてくる。


「ほれ、カウントダウンいくぞ。三……二……一……今じゃ!」

「――っ!?」


 ロウガの声に反応してウィルが目をきつく閉じると同時に、閃光が弾けて辺り一帯が真っ白に塗り潰された。



 ※


 閃光が迸ったのは一瞬、光はすぐに収まり世界に色が戻る。


「……クェ」


 閃光を受けると同時に上空に退避したグリフォンは、翼を羽ばたかせながら首を振り、目を何度も瞬かせてどうにか視界を取り戻す。


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!」


 視界が完全に戻ったところで、グリフォンは大きく翼を広げて森全体に響き渡るような甲高い声を轟かせる。


 それは怒りの咆哮だった。


 森の王者として君臨していたグリフォンにとって、ダメージを負っていないとはいえ、ただの人間に驚かされ、空に逃げてしまったことは耐え難い屈辱だった。


「…………」


 あの人間を見つけて、八つ裂きにしてやる。

 目に怒りの色を灯したグリフォンは、血眼になってウィルたちの姿を探す。

 普段から上空から森の中の獲物を探すグリフォンにとって、森の中を走る人間たちを見つけることなど造作もなかった。


 ……程なくして、


「キェッ!」


 グリフォンの目が怪しく光ったかと思うと、森に向けて一直線に降下していく。


 真昼の流星の如く、凄まじい速度で急降下したグリフォンは、急接近する影に気付いて驚愕の表情を浮かべるウィルへと一気に肉薄してかぎ爪で切り裂く。

 肩口から腰にかけて大きく切り裂かれたウィルは、驚愕の表情を浮かべたまま地面へと倒れ、そのまま跡形もなく消える。


「…………キェ?」


 倒したはずの人間が消えたことにグリフォンは不思議そうに首を傾げるが、


「キエッ! キエッ! キエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!」


 満足したのか、奇声を上げながら飛び立つと、そのまま大空の彼方へと消え去っていった。

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