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普通の冒険者と森の民の助言

 朝食を食べ終え、キャンプの後始末をした一同は、再び森の中を進む。


 ランドが乗る馬車を中心に前をウィルとリーリエが、後ろにロゼとロウガが陣取り、サポート役であるメイプルは馬車の中でランドと彼の家族を守っていた。


 メイプルの魔物を退ける結界魔法の恩恵もあり、道中は魔物とエンカウントすることなく森の中を進む。

 昼間でも暗く、ジメジメした森の中は大量の蔓が巻き付いた木や、奇声を上げる鳥やこぶし大ほどもある虫、人よりも大きな花を咲かせる怪しい色の花など、魔物の姿はなくとも一人では絶対に歩きたくない危険な雰囲気に満ちていた。


 だが、ウィルたちはそんな暗くて深い森の恐怖とは無縁でいられた。

 その理由は、


「ウィル、あそこにハクモクレンが見えるでしょう? あの花は北を向く習性があるので、西を目指すならあちらですわ」

「あの大きな虫はオニトビムシ、肉食ですが人を襲う虫ではありませんので、無視して進みますわよ」

「木の年輪も方角の指針の一つとなりますわ。幅が広い方が南ですので覚えておきなさい」


 森の民であるエルフのリーリエが、キビキビと道案内をしてくれるからだった。


「あれはイノモトソウという水脈に沿って生える植物ですわ。これを辿れば水辺に行けますから、ひとまずそこを目指しましょう」


 リーリエの指示に従い、地面に群生しているシダ植物に沿って進むと、ほどなくして前方の藪の向こう側から水のせせらぎが聞こえて来る。


「ほら、わたくしの言った通りだったでしょ?」


 涼やかな音を耳にしたリーリエは、得意げに控えめな胸を張る。


「まだ先は長いですから水辺で休みましょう。特にあの馬、旅慣れていないようなので、小まめに休憩を取った方がいいですわ」

「なるほど……」


 ウィルがそっと後ろを振り返ると、馬車を引いている二頭の馬の息がやや荒くなっていることがわかる。

 まだ余裕はありそうだが、休める時に休むことも大事だろうとウィルは判断する。


「わかりました。ではその水辺で一休みしましょう」

「ええ、そうしましょう。そろそろお腹も空いてきましたし……」

「えっ?」

「な、なんでもありませんわ。オホホ……」


 リーリエは誤魔化すように高笑いをすると、水辺に向かって一人足早に向かっていった。



 藪を抜けると、そこは陽光が降り注ぐ小さな泉がある広場になっていた。


 コケが生い茂る地面の先にある泉は底が見えるほど透明度が高く、底からはコポコポと小さな気泡が湧き出ているのが見える。

 周囲の植生に大きな変化はないのだが、あらゆるものに明るい色のコケが生えているので、広場内は他と比べていささかおとなしい印象を抱く。


「へぇ、こいつは……」


 先行したリーリエに続いて広場へやって来たウィルは、周囲を確認してから後に続くランドたちを招き入れると、最後にゆったりとした足取りでやって来たロウガを手招きして呼ぶ。


「ロウガさん、泉の調査をお願いできますか?」

「任された」


 鷹揚に頷いたロウガは、岸辺でひざまずいて獣の鼻を近付けてにおいを嗅ぐ。


「……ふむ、毒はなさそうだ」


 続いて水を手ですくって口に含んだロウガは、ウィルに向かって親指を立てて見せる。


「ふむ、飲んでも問題ないだろう。ただ、念のために水に祝福もかけておこう」

「ありがとうございます」

「うむ、世界に揺蕩(たゆた)う水の精霊たちよ、ゆらゆらと舞い踊れ……」


 再び鷹揚に頷いたロウガは、池に向かって解毒の祈禱をかけていく。

 これは外で活動することが多いウィルたちならともかく、普段は町の中で安全に処理された水しか飲まないランド一家たち、特に子供がお腹を壊す可能性があるかもしれないという配慮だった。


 ロウガが泉に祈祷を終えるのを待って、ウィルはランド一家へと声をかける。


「ランドさん、ここで一休みします。水を浄化しましたので安心して飲んでください」

「わかりました。ありがとうございます」


 家族を馬車から降ろしたランドは、二頭の馬を連れて水を飲ませてやる。


「お疲れさん。ほら、たくさん飲んで休んでおくれ」


 ランドが優しく背中を撫でながら馬に話しかけると、二頭の馬は嬉しそうに身震いをしながら泉の水を飲んでいく。

 水をたらふく飲み、牧草を食べながらくつろいでいる馬たちを見て頷いたウィルは、思い思いに休んでいる仲間たちに話しかける。


「それじゃあ、俺たちもここで昼食にしようか?」

「ええ、そうしましょう!」


 ウィルの提案に、リーリエが間髪入れず手を上げる。


「こんなこともあろうかと、道中で食べられるキノコをいくつか採りましたの」

「あっ、あたしも採ったぜ。数は多い方がいいだろう」

「ワシは山菜じゃ。量は少ないが、彩り程度にはなるじゃろう」

「いいですね。それじゃあ、今日のお昼はそれを使いましょう」


 仲間たちから色とりどりのキノコや山菜を受け取ったウィルは、ロゼに火起こしをお願いして調理へと移る。

 もらった食材をひと口大のサイズに切っていき、後は荷物の中から種を取り出した鷹の爪とニンニクを刻んでいく。


「リーダー、火の準備できたぜ」

「ありがとう」


 あっという間に火を熾してくれたロゼに感謝しながら場所を変わったウィルは、暑くて深さのある鍋、スキレットを取り出してたっぷりのオリーブオイルを注ぎ、塩、細かく切った鷹の爪とニンニクをオリーブオイルで炒めていく。

 オリーブオイルにニンニク香りが付いたところでキノコ、山菜は小麦粉で薄く衣を付けてから入れて十分に加熱し、仕上げに少量の白ワインを入れる。


「はい、キノコと山菜のアヒージョの完成だ。これと今朝のパンと合わせて食べよう」


 そう言ってグツグツと煮える鍋を差し出すと、既に今朝の残りのパンを手にした仲間たちが、我先にと料理に手を伸ばす。


「はぁ……いい香り」


 他の仲間より量は同じでも満足感の低い朝食だったこともあり、真っ先に赤い笠をしたキノコを串に刺したリーリエが香りを堪能して一口で頬張る。


「はふっ……はふっ……うん、おいしい。ニンニクの香りと辛みが合わさって、キノコの旨味が何倍にも膨れ上がったようですわ」

「油を通して色んなキノコの香りが合わさってるから、どのキノコを食べても本当においしいです。ちょっとお行儀が悪いですけど、油をすくってパンと合わせてもおいしですよ」

「それだけじゃないぜ。こっちの山菜もめちゃくちゃうまいぜ」

「うむ、小麦粉でコーティングしたからか山菜がパリッ、とよく揚がっておる。味だけじゃなく、歯ごたえでも楽しめる一品じゃな」

「……俺の分も残しておいてくれよ」


 目を爛々と輝かせて次々とスキレットの中身を食べていく仲間たちに一言注意して、ウィルはもう一つのスキレットをランドたちへと差し出す。


「ランドさん、こちらは仕上げにワインを入れていませんので、お子様でも安心して食べられると思います」

「ああ、すみません。お昼ご飯まで……」


 恐縮しながらも、ランドはウキウキとした様子でスキレットを受け取り、家族たちと一緒にアヒージョを味わう。


「うめええぇ、キノコってこんなおいしいんだ」

「僕、これ好き!」

「あらあら、子供たちがこんなに喜ぶなんて……あら、本当においしい」

「はふはふ、これは確かに……ウィルさん、よければ後でレシピを教えてもらえますか?」

「ええ、勿論です」


 ランド一家の幸せそうな顔に返事しながら、ウィルもキノコと山菜を取ってパンに挟んで食べる。


「……うん、おいしい。もう少し辛みを足してもよかったかな」


 完成した料理の反省点を洗い出しながら、ウィルは賑やかな食事を存分に楽しんだ。

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