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普通の冒険者、そして冒険の旅に出る

 雲一つない青空が広がる空の下、スモークウッドの町の入口で、緊張した面持ちで立つ二つの人影があった。


「ねえ、本当に雇うの?」


 一人は長い黒髪を後ろでひっつめた勝気そうな目をした女性、背中にはパンパンに膨れた荷物を背負っており、隣で小さく縮こまっている青年に話しかける。


「これまでの二人で別に問題なかったわけだし、わざわざ護衛なんて雇わなくてもいいんじゃない?」

「ダ、ダメだよ。ここから先は、これまでとは本当に違うんだって」


 もう一人は女性よりやや小さな背嚢(はいのう)を身に付けた眼鏡をかけた男性、小柄な体躯を震わせながら自分たちの置かれた状況について話す。


「この先のヴェイル山は、道中の険しさもさることながら凶暴な魔物や、山賊まで出るって話だよ。何の力もない僕等が見つかったら、それこそ一巻の終わりだよ」


 不安そうに自分が目指す先をみた青年は、背嚢とは別に腰にかけてある鞄に手を当てる。


「僕は、医者として困っている人を見捨てて死ぬわけにはいかないんだ。無事にあの山を越えられるなら、護衛の代金ぐらい安いものさ」


 そう言う青年の腰の鞄には、彼が医者であることを示す杖と蛇が描かれていた。


 青年は各地を放浪して患者を救う流しの医者で、同じく特定の商業ギルドに所属していない行商人の女性と世界各地を渡り歩いていた。


 これまで色々な場所を二人で、時には同じ方角に向かう人や商人たちに便乗するかたちで巡ってきたが、自分たちだけで護衛を雇うことはなかった。


 だが、今回向かうヴェイル山は魔物の出現率非常に高く、さらには山賊まで出ることもあるとのことで、向かうなら必ず護衛を雇えと酒場でも冒険者ギルドでも念押しされたのだった。


「というわけだから、もう少しで護衛の人が来るから、出発はもう少し待って」

「わかったわよ。まあお金は折半だったけどさ……護衛って冒険者なんでしょ?」


 背嚢を地面に下ろした女性は、町の方を見ながら少し表情を曇らせる。


「あの人たちって粗暴だし、あんまりいい噂聞かないんだけど本当に大丈夫なの? 今回結構な夜に額を払ったのに、いきなり後ろから刺されるなんて嫌だからね」

「それについては大丈夫だと思うよ」


 不安そうな女性を安心させるために、青年は微笑を浮かべて護衛の冒険者たちの情報を話す。


「今回、護衛についてくれる方は、普段から行商人や旅人の護衛をしている人たちみたいだよ。冒険者ギルドでもそうだけど、たまたま立ち寄った衣料品店の店主も絶賛してたよ」

「ふ~ん……でも、それって普段からダンジョンとか討伐クエストには参加してないってことでしょ?」


 冒険者の事情について多少の知識があるのか、女性は半信半疑といった様子で青年に尋ねる。


「それってつまり、(ブロンズ)ランクにも達していない半人前ってことじゃないの?」

「いやいや、それが違うみたいなんですよ」


 まるでその質問が来るのを待っていたかのように、青年が意気揚々と話す。


「そのパーティーのリーダーは銅ランクなのはもちろん、何と(シルバー)ランクの冒険者が二人もいる凄腕のパーティーらしいよ」

「はぁ!? それってマジなの?」

「うん、それだけじゃなく、旅の途中のご飯まで用意してくれるんだって。しかも、それが信じられないくらいうまいんだって。だから護衛の料金が少し高かったんだよ」

「な、何それ……意味わかんない」


 訳が分からないと頭を抱える女性に、男性も苦笑しながら大きく頷く。


「だよね。でも、道中であの携帯食料ばかりを食べなくて済むなら……しかも、おいしくて評判の料理が食べられるなら、多少割高でも納得できると思わない?」

「それは……そうかも」


 護衛のセールスポイントを聞いた女性は、表情を和らげて小さく頷く。

 それだけ普段から食べている携帯食料が栄養素はともかく、味の方に不満があるのであった。


「ど、どうしよう、私、食材とかなんも買ってないけど……」

「ああ……そういえば僕もです。今から何か買ってきた方がいいですかね?」


 ヴェイル山を越えるのにおよそ一週間、相手方が食事を用意してくれると言っても、流石に全行程分の材料を持っていけるはずがない。


 故に、自分たちでも何か用意した方がいいのかと相談していると、



「すみません、お待たせしました」

「「――っ!?」」


 背後から突然声がかけられ、二人はビクリと身を震わせて振り返る。


「あっ……」


 そこには、モスグリーンの揃いのマントを身に付けた五人の冒険者がいた。

 その中から背中に大盾を背負った青年が前に出て来て、二人に声をかける。


「はじめまして、俺は今回あなたたちを護衛させてもらうパーティーでリーダーを務めているウィルといいます。よろしければ、お二人の名前を教えてもらえますか?」

「あっ、はい……」

「私たちはですね……」


 ウィルの丁寧な対応に、二人も佇まいを正して自己紹介をしていく。



「あ、あの……」


 互いに自己紹介を終えた後、青年がおそるおそるウィルに尋ねる。


「すみません。その……僕たち、何も食材を用意してないんですけど」

「ああ、それなら大丈夫ですよ」


 恐縮する青年に、ウィルは笑顔で今後の予定を話す。


「お約束通り、食事はこちらで用意しますから安心してください。それに、食材は道中でも調達できますからね」

「道中で?」

「ええ、ヴェイル山には豊富な山菜が採れるみたいです。後は、食べられる魔物もそれなりにいますから」

「ま、魔物を食べるのですか?」

「はい、特にヴェイル山に数多く生息しているワイバーンの肉は、シチューにするととてもおいしいんです。ですので翼竜を見つけたら、積極的に狩っていこうと思います」

「それは構いませんけど……危険じゃないんですか?」

「大丈夫です。ウチには最強の狙撃手がいますから」


 ウィルは自信を持って頷くと、リーリエが前に出て来て自慢の弓を掲げる。


「安心なさい。わたくしの弓があれば、あなたたちに被害が出ることなど皆無ですわ」

「あ、あの……」


 さらにリーリエに続けと、残りのメンバーも前に出て来る。


「私も精一杯、魔法でお守りしますから。睡眠も安心していただけますよ」

「そうそう、なんせあたしたちは、ワイバーンを退けて喰らった経験もあるからな」

「そういうことじゃ、大船に乗ったつもりで任せていいぞ」

「は、はい、お願いします」


 冒険者たちの圧にタジタジになりながらも頷いた青年は、呆気にとられた様子の女性に話しかける。


「な、何だか賑やかな旅になりそうだね」

「そうね、少なくとも後ろから刺される心配はなさそうね」


 ウィルたちの賑やかな雰囲気を見て、二人は彼等が噂通りの頼りになる冒険者であると悟る。


「……うん、いい感じ」


 二人から緊張が取れ、場の雰囲気が和んだのを察したウィルは、小さく頷いて全員に話しかける。


「それじゃあ、そろそろ冒険の旅に出ましょうか?」


 その声に全員が思い思いの言葉で頷き、一行はスモークウッドの町を出発した。



 こうして新たな冒険の旅がはじまる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。柏木サトシです。


今作は、ごく普通の冒険者の旅の様子(食事シーン多め)をテーマに描いてみましたがいかがだったでしょうか?


料理が得意ということ以外は普通という設定でしたので、全体的に地味な展開が続いてしまいましたが、料理と食事シーンは頑張って書きましたので、そこの魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。


今作はここで完結となりますが、既に次回作の構想も固まりつつありますし、同時連載中のチートスキルの第二部のエンディングも引き続き投稿していきますので、よろしかったらそちらも覗いてみてください。


改めまして、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

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