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普通の冒険者、商人からプレゼントをもらう

 ウィルたちが冒険者ギルドを後にすると、


「リーダー、メイプル、おめでとう」

「兄妹そろって昇級とは、実にめでたいな」

「わたくしたちと一緒にいるんですもの。当然ですわ」


 仲間たちが二人を出迎えるために待ってくれていた。


「皆、どうしてここに?」


 まだ寝ていると思い、仲間たちになにも告げずに出ていったウィルに、ロゼがここにいる理由を話す。


「簡単な話だよ。宿屋の主人に聞いたのさ」

「冒険者ギルドから呼び出されるなんていったら、悪いことをしていない限り昇級と相場が決まっておるからの」

「皆で二人を盛大に祝うために、こうして待っていたのですわ」


 既に一人前と認められる領域に達していて、状況から何が起こるのかを察した三人は、冒険者ギルドの入口で二人が出て来るのを待っていたというわけだ。


「それと、祝いに来てくれたのは、あたしたちだけじゃないんだぜ」

「……えっ?」


 他に誰が? とウィルが驚いていると、


「ウィルさん、メイプルさん、昇級おめでとうございます」

「ラ、ランドさん?」


 そこには黄色い花の刺繡が入った真っ赤なシュールコーを来たランドが、二人の子供たちと一緒にニコニコと立っていた。


「えっ、ええっ!?」


 ロゼたちはともかく、ここにランドと子供たちがいる理由がわからないウィルは、混乱する頭をどうにか働かせながら尋ねる。


「どうしてランドさんがここに? お店の方がいいんですか?」

「店は妻が見てくれていますから大丈夫ですよ。ここに来たのは、皆さんにプレゼントを渡したくて来ました」

「プレゼント……ですか?」


 全く想定していなかった言葉に目を白黒させるウィルに、ランドは大きな袋から暗いモスグリーン色の布を取り出す。


「旅の道中で着るためのマントです。皆さんの分も用意しましたので、ぜひ受け取ってください」

「えっ? で、でも、いいんですか?」


 一度ランドの店を訪れたウィルは、彼の店の商品の大まかな値段を知っている。


 どれもこれも決して安い値段でなかっただけに、このまま何も考えずに受け取ってもいいかどうかわからなかった。


「これはですね……私からの感謝の気持ちです」


 躊躇(ちゅうちょ)するウィルに、微笑を浮かべたランドがマントに込めた想いを話す。


「旅の何たるかも知らない私を、この町まで無事に連れて来てくれただけじゃなく、町を襲ったグリフォンまで退けてくれた。私にとってウィルさんは特別なヒーロー……勇者なんです」

「勇者……」

「はい、私の勇者です。そんなウィルさんを応援したいという気持ちを形にしたんです。どうです、私の気持ちを受け取ってもらえますか?」

「……そういうことでしたら」


 静かに頷いたウィルがマントを受け取ると、ランドの子供たちが仲間たちに次々と手渡していく。


「着てみても?」

「ええ、ぜひ着てみて感想を聞かせて下さい」

「はい、それでは失礼して……」


 ウィルは受け取ったマントを広げると、背中から回すようにして身に付ける。


「おおっ、軽い……それでいて、凄い丈夫そうですね」

「はい、これはスモークウッド周辺にしか生息しないカリミルヤギのうぶ毛から作ったマントです。軽いだけじゃなく、丈夫で保温性が高く、火にも強くて焚き火のすす程度では穴が開かないのが特徴です」

「おおっ、凄い。そんないいものを……」


 そこまで言ったところで、あることに気付いたウィルはランドにおそるおそる尋ねる。


「もしかしてこのマント、めちゃくちゃ高いんじゃ……」

「ハハハ、ちょっと妻に睨まれた程度ですから、お気になさらず」

「そ、そうですか……」


 その答えで、きっとかなり高いんだろうな、と思ったウィルは敢えて値段には言及せずにマントを見る。


 ランドがくれたマントは、シンプルなデザインながらも冒険者のことを考えてあるのか、軽いわりに変にヒラヒラとはせず、両手を動かしても邪魔になることもない。


 これなら藪の中を歩いても、木の枝に引っかけて破れる心配もなさそうだと思っていると、


「……あれ?」


 ウィルは自分の胸元に、小さな刺繍がしてあることに気付く。


「これは何だろう……皿の上に乗った……トリ?」

「どうでしょう。可愛いでしょう?」


 小首を傾げるウィルに、ランドが得意気に刺繡の説明をする。


「それはウィルさんたちがグリフォンを倒して、食べたことを表現してみました。他の商品には一切ない特別な品ですよ」

「グリフォン……なるほど」


 そう言われてみれば、デフォルメされた鳥の下半身は獣の足をしていた。


 同じようにマントを身に付けた仲間の胸にも同じ刺繡があり、昨日の今日でランドと彼の妻がこの仕事をしてくれたのかと思うと、ウィルの胸に込み上げてくるものがあった。


「ランドさん、ありがとうございます」


 ウィルは胸の皿の上に乗ったグリフォンの刺繍をそっと撫でると、ランドに向かって深々と頭を下げる。


「マント、大切に着させてもらいます」

「どうぞどうぞ、私としましても、服は着てもらうことが一番嬉しいですからね」


 ランドはニッコリと笑って頷くと、ウィルの耳元に顔を寄せて小さな声でささやく。


「携帯食料のこと、くれぐれもお願いしますね。後、ついでにマントについて聞かれたら、私の店の宣伝もお願いします」

「ハハハ、わかりました」


 何処までも商魂たくましいランドに、ウィルは苦笑を漏らしながらも、しっかりと頷いて見せた。

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