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普通の冒険者、功績を認められて昇級する

 町を上げてのグリフォン討伐の盛大な宴が繰り広げられた翌日、ウィルとメイプルは早朝から宿屋に訪れたギルド職員に呼び出され、冒険者ギルドへとやって来ていた。


「ふあぁぁ……」

「ちょっと兄さん、ちゃんとして下さい」


 盛大にあくびをするウィルに、隣に座るメイプルが脇腹を肘で突いてたしなめる。


 場所はギルド長の執務室、ギルド職員にここで待つように言われているのだが、フカフカのソファーに腰を掛けた途端に襲い掛かって来た睡魔に、ウィルは早くも屈しそうになっていた。


「そんな情けない姿、ギルド長に見られたら笑われてしまいますよ」

「それはわかっているんだけど……今日は休みの予定だったからさ」


 冒険者は体が資本なので、大きなクエストを終えた後は体調が万全になるまで休むことになっており、特に今日は何もしない完全オフと仲間たちと話し合って決めていた。


 ウィルは特に激闘の疲れもあり、昼過ぎまで眠るつもりであったのだが、ギルド長に呼び出されては断るわけにもいかなかった。


「ギルド長が来たら起きるから、それまで寝ていていいかな?」

「いいわけないです! お願いですから、私を一人にしないで下さい」


 今にも眠りそうになっているウィルを、メイプルは涙目になって起こそうと必死に揺する。

 まだまだ新米のメイプルにとって、ギルド長という偉い人の部屋で一人きり同然になるのは心細くて仕方なかった。


「もう、兄さん。起きてください……あっ!」


 ウィルを揺すっている途中で、部屋の外からズカズカという足音が聞こえ、メイプルはいよいよ心配になって兄の頬を平手で思いきり叩く。


「あだっ!」

「ほら、ギルド長がお見えになりますから、ちゃんとして下さい」

「わ、わかったよ」


 痛む頬を摩りながらウィルが居住まいを正すと同時に、扉が開いて右目に大きな傷がある強面、スモークウッドのギルド長が現れる。



「おう、遅れて悪いな」


 反射的に立ち上がろうとするウィルたちを手で制しながら、ギルド長は自分の机に腰を掛ける。


「朝早くから急に呼び出して悪かったな」

「い、いえ……」

「別にかしこまらなくていいぞ。顔に眠たくて仕方ないって書いてあるからな」


 自分の頬を指差してニヤリと笑ったギルド長は、特に気分を害した様子もなくウィルたちを見る。


「ところでお前たち、朝食は食べたのか?」

「い、いえ……」

「まだ食べてないです」


 ギルド長の質問に、ウィルたちは揃って首を横に振る。


 ギルド職員が訪ねて来るまで兄妹揃ってぐっすり眠っていたので、どうにか身支度を整えはしたが、流石に朝食を食べるまでの時間は取れなかった。


「ですが大丈夫です。今はそれよりお話を……」

「いや、冒険者は体が資本だ。特に回復に努めている時にメシを抜くのは感心せんな」


 ギルド長は執務机の上にある小さなベルを取ると、軽く振って鳴らす。

 チリンチリンという音が執務室内に響くと、入り口の扉が開いて職員が現れる。


「実を言うと俺も昨日からの残務処理で朝飯をまだ食べていなくてな。せっかくだから二人も俺の朝食に付き合ってくれ」


 そう言って人懐っこい笑みを浮かべたギルド長は、入って来たギルド職員に三人分の朝食を頼んでいった。



 程なくして運ばれてきた朝食は、薄く焼いたパンにハムと黒色の熟したオリーブ、そしてほうれん草のソテーを挟んだかなり大きめなホットサンドと、濃い目のコーヒーという非常にシンプルなものだった。


「簡単なもので悪いが、遠慮せず食べてくれ」

「はい、いただきます」


 コーヒーにミルクをなみなみと注いでいるメイプルを尻目に、ウィルはまだ温かいホットサンドを手にして勢いよくかぶり付く。


 サクサクとこんがり焼かれたパンに、ハムとほうれん草の程よい塩気と熟したオリーブのコクと甘みが織り成す絶妙なハーモニーに、ウィルはコクコクと何度も頷く。


「……うん、とてもおいしいです」

「そうか、そんなにうまそうに食ってもらえて、俺も自分のことのように嬉しいよ」


 幸せそうなウィルを見てニッコリ笑ったギルド長は、自分もホットサンドに豪快にかぶり付き、コーヒーをゴクリと飲む。


「うん、いつも通りいい仕事だ。やっぱ朝はこれだわ」


 お気に入りのメニューなのか、ニコニコと笑顔を浮かべながらギルド長は朝食を食べていく。



「……ところで」


 ホットサンドを半分程食べたところで、ギルド長が話を切り出す。


「二人は今回、初めて大規模討伐クエストに参加したということで間違いないな?」

「はい」

「間違いないです」


 日頃の習慣で早食いが癖になっており、既に食べて終えているウィルたちが揃って頷く。


「そうか、それにしては実に堂々とした立ち回りだったと、皆褒めておったぞ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、ウィルの指揮はもちろん、メイプルのサポートや回復も、新米の(ウッド)ランクとは思えないほど的確だったと聞く。二人とも、本当によくやってくれた」

「ありがとうございます」

「お役に立ててよかったです」


 謙虚な兄妹の様子を見て満足そうに頷いたギルド長は、残りのホットサンドを一気に頬張り、コーヒーで流し込んでから机の中からあるものを取り出す。


「そこで今回、頑張った二人を、冒険者ギルドはそれぞれランクを上げることにした」

「えっ?」

「ほ、本当ですか!?」


 驚いた顔で見合わせる二人に、ギルド長は人差し指程の大きさの銅で作られたギルド証を手渡す。


「ウィルは(アイアン)ランクから(ブロンズ)ランクに、メイプルは木ランクから(ストーン)ランクに昇級だな」

「俺が……」

「初めての昇級……やった」


 ギルド証に刻まれた石ランクを表すマークを指でなぞって微笑むメイプルを見ながら、ウィルはギルド長に尋ねる。


「メイプルはともかく、本当に俺も一緒に昇級していいんですか?」


 冒険者ギルドで定められているランクは全部で六つあり、上から(ゴールド)(シルバー)(ブロンズ)(アイアン)(ストーン)(ウッド)に分かれている。


 このランクは主に上の三つ、下の三つで扱いが分かれており、下の三つを半人前、上の三つが一人前と認められる。


 今回、ウィルは境目の鉄ランクから、銅ランクに上がるということで、名実ともに一人前の冒険者と認められるというわけだ。


「俺、もう何年も鉄ランク止まりで……どうやっても一人前と認められることはないと思ってました」

「なるほど……な」


 ウィルの悩みを聞いたギルド長は、得心がいったように大きく頷く。


「昇級については色々と査定はあるが、一人前と認められる銅ランクに上がるためには、主に二つの能力が求められる」


 そう言ってギルド長は、指を立てながら鉄から銅ランクへ昇級する条件を話す。


「一つは大規模討伐クエストへの参加経験があること、これは冒険者ギルドが求める仕事に参加する意思があるかどうかの確認と、その人物の資質を見る側面がある」

「じゃあ、今回の昇級は俺が大規模討伐クエストに参加したから……」

「いや、それだけじゃねぇ。本当に大切なのはもう一つの理由だ」


 ギルド長は二つ目の指を立てて話を続ける。


「そしてもう一つは、冒険者に認められること。規定は特にないが、多くの冒険者に一人前と認められることが、一人前と認める条件というわけだ」

「それじゃあ……」

「そういうこった」


 ギルド長は大きく頷き、大規模討伐クエストに参加した冒険者たちからの報告で、ウィルが大いに認められていたことを告げる。


「だからウィルの昇級に文句を言うやつなんかいないから、安心して一人前になってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 ペコリと深々と頭を下げるウィルを見て、ギルド長は嬉しそうに双眸を細める。


「冒険者ってやつは、どうしてもダンジョンに潜る者や、討伐クエストを主とした者が昇級しやすいのだが……それも少し改める必要がありそうだ」


 等級が上がれば、より高いランクのクエストと報酬が得られるのだが、冒険者の多くはそれだけを目標に活動しており、今回のグリフォン騒動のような市井(しせい)の人々を守るために動く冒険者はマイノリティだったりする。


「どいつも生活や野望があるから強制はできないけどな。それでも、お前たちのように人々の笑顔のために働きたい、なんて嬉しいことを言ってくれる冒険者をもっと認めてやりたいと思うよ」

「ギルド長……」

「っと、少し湿っぽい話になっちまったな」


 この話はおしまいだと、ギルド長は手を打って表情を切り替えると、再び机の上のベルをチリンチリンと鳴らす。


「俺からの話は以上だ。それと、大規模討伐クエストの報酬も用意したからついでに持って行ってくれ」


 ベルの音と共に盆を持ったギルド職員が入って来て、ずしりと重い袋をウィルへと手渡す。


「こ、こんなに?」

「それだけグリフォンが人々にとって脅威だってことだ……念のために言っておくが、パーティー全員分の報酬だからな?」

「わかってますよ」


 流石にそれはないとウィルは苦笑しながら、メイプルを促して二人で佇まいを正す。


「ギルド長、俺たちの昇級を認めて下さり、本当にありがとうございます」

「ありがとうございます。私も早く一人前と認められるように、頑張ります」

「おう、二人とも期待しているぞ」


 ギルド長からの激励の言葉に、ウィルとメイプルは揃って頭を下げて執務室を後にした。

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