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普通の冒険者、究極のシメの料理を作って食べる

「さて……」


 店主からあっさり厨房の使用許可をもらったウィルは、残り少ないグリフォンの境目の肉を前に腕を組む。


「シメの料理となると……やっぱりあれかな?」


 いいほど酒を飲んだ後の定番料理をいくつか考えたウィルは小さく頷くと、必要な材料をピックアップしていく。


「さて、それじゃあ、やっていきますか」


 エプロンを身に付け、料理人としての戦闘態勢に入ったウィルは鼻歌を歌いながら料理を作っていく。


 フライパンを火にかけ、温まってきたところで油を敷き、種を抜いた唐辛子を入れる。


 唐辛子の色が変わってきたところで薄くスライスしたニンニクを加え、カリカリになるまで炒めていく。


「やっぱ一日の最後は、コレが食べたいよな」


 そんなことをひとりごちながら、ウィルはたっぷりの炊いた米をフライパンの中に入れ、木べらを巧みに使いながら炒めていく。


 フライパンの中に入った食材を、空気と混ぜるように華麗に攪拌(かくはん)し米がパラパラになったところでグリフォンの境目の肉を入れる。


 塊の状態のグリフォンの肉を木べらで潰すと、中から大量の肉汁が溢れ出て来て、厨房中にグリフォンの肉の食欲をそそる匂いが立ち込める。


「うおおぉぉ、たまんねぇぇ!」

「め、めちゃくちゃ腹減って来た」

「グリフォンの境目の肉ってこんなにヤバかったのか」


 暴力的な肉の香りに、厨房で働く料理人たちの辛そうな声が上がる。


「これは……確かにヤバイな」


 フライパンを振るうウィルも、口内によだれが溢れて来るのを自覚しながら、最後に塩とコショウで味を調え、皿にこんもりと山盛りに盛り付ける。


「よし、完成だ」


 鼻腔をくすぐる肉の香りに腹の虫が盛大に鳴りだすのを耳にしながら、ウィルは完成した料理を食べてしまわないようにと、必死に自制しながら仲間たちのもとへと向かう。



 厨房で働く料理人からの突き刺すような視線を感じながら、ウィルは完成した料理を差し出す。


「お待たせ。グリフォン肉のガーリックライスだよ」

「おおっ!?」

「こ、これは……」


 出された料理を見て、仲間たちが食い入るように皿に目を向ける。


「に、兄さん、米が……お米が……」

「お米が光っていますわ」


 比喩でもなんでもなく、本当にキラキラと輝くガーリックライスを見て、リーリエが驚愕に目を見開く。


「この光は……肉汁が光っていますの?」

「ええ、驚きですよね。肉汁が油と混ざり合った瞬間からキラキラと光り出して、米を綺麗にコーティングしてくれたんです」

「で、では……この米は?」

「はい、グリフォンの境目の肉のうま味がたっぷり染み込んでいます。絶対にうまいですよ」


 そう言いながらウィルは、ガーリックライスをよそってリーリエへと差し出す。


「さあ、どうぞ。覚悟して食べて下さいね」

「……わ、わかりましたわ」


 既にグリフォンの境目の肉のおいしさを一度堪能しているリーリエは「ゴクリ」と喉を鳴らして皿を受け取る。


「これが……ガーリックライスですって?」


 普段食べているガーリックライスとの違いに戸惑いながら、リーリエは細かく刻まれた肉と米を一緒に匙で掬って頬張る。


「あぁ……」


 ガーリックライスを一口食べたリーリエは、頭部に打撃を受けたかのように仰け反り、深くため息を吐く。


「米が……お米が口の中で踊っていますわ」

「はぁ!? 何言ってんだよ」


 不可解な感想を口にするリーリエに、ロゼが呆れたように鼻で笑う。


「米が踊るって、そんな訳ないだろ」


 ウィルから皿を受け取ったロゼは、リーリエの証言を確かめるために大口を開けてガーリックライスを食べる。


「…………本当だ」


 ガーリックライスを一口食べたロゼは、愕然とした表情でウィルを見る。


「さっき食べた肉も信じられないくらいうまかったけど、こっちはただうまいだけじゃない……パラパラのライスが口の中で暴れるんだ」

「ふむ、なるほど。そういうことか」


 ロゼより先にガーリックライスを食べていたロウガが、リーリエたちの証言の秘密を話す。


「肉汁によってコーティングされた米、一粒一粒にしっかりと味が染み込んでいるが故に、咀嚼(そしゃく)する度に口の中で踊っているように感じるのじゃな」

「本当ですね。何処を食べてもしっかりとお肉の味がします。はぁ、幸せ……」

「なるほど……そんな秘密が」


 ガーリックライスを食べた仲間たちの称賛の声を聞きながら、ウィルは自分の分のガーリックライスをよそう。


「う~ん……もう、我慢の限界」


 作っている最中から食べるのを必死に我慢していたウィルは、ガーリックライスを勢いよく掻きこむ。


「なるほど、確かに踊るな」


 リーリエの的確な表現に感心しながら、ウィルはガーリックライスを食べていった。




 用意したガーリックライスは五人分を優に超える量があったが、ウィルたちの胃袋に消えるのはあっという間だった。


「はぁ……うまかった」


 少し膨れた腹を摩りながら、ウィルは申し訳なさそうに顔を伏せる。


「夢中になって食べきっちゃったけど、こんなうまいものを、俺たちだけで独占しちゃって申し訳ないな」

「ハハハ、兄ちゃんは本当にいい奴だな」


 ウィルが申し訳なさそうに眦を下げると、店主が豪快に笑いながら現れる。


「何度も言うけど、あの肉は兄ちゃんたちへの感謝のしるしなんだよ。簡単に言えば、グリフォンへのラストヒットのご褒美だと思ってくれ」

「それは、わかっているんですけどね……」


 小さく頷くウィルであったが、その表情は優れない。


「ふむ……貴族に献上するものを、食べちまった罪悪感が忘れられないってとこか?」

「ハハハ、恥ずかしながら」


 思わず苦笑を漏らすウィルを見て、店主は小さく嘆息する。


「ちょっと待ってな」

「えっ?」

「今、いいもの持ってきてやるからよ」


 そう言って店主は店の外へと出ていったかと思うが、すぐに戻って来る。


 戻ってきた店主の手には、小さなカップが握られていた。


「ほらよ」

「あの……これは?」

「こいつは町の皆に配って回っている特製スープだ。こいつを飲めば、兄ちゃんの罪悪感が少し減ると思うぜ」

「えっ、それって……」

「御託はいいから飲んでみな」

「わ、わかりました」


 店主からカップを受け取ったウィルは、まだ湯気を立てているカップに「ふーっ」と息を吹きかけて冷ましてから口にする。


「――っ!?」


 スープを一口飲んだウィルは、驚きの表情で店主の顔を見る。


「こ、このスープってもしかして……」

「おう、気付いたか。流石だな」


 店主はニヤリと笑うと、スープの正体を話す。


「お察しの通り、このスープはグリフォンの境目の肉で作ったスープだ」

「えっ、どうして……」

「そりゃあ、あの肉が兄ちゃんたちに渡したので全部じゃないからだよ」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするウィルに、店主が種明かしをする。


 境目の肉は確かに希少部位ではあるのだが、グリフォンの体が大きいだけあって一頭につき数キロはとれる。

 ウィルたちに渡されたのはその中のごく一部で、残りは町全体で楽しめるように出汁を取ってスープにしたというわけだ。


「というわけだ。俺たちはとっくに共犯者ってわけだから、兄ちゃんは何も気にする必要はないってわけよ」

「なるほど……」


 全員が共犯者だから、気にする必要はない。


 別にウィルの気持ちを想定してスープを作ったわけではないだろうが、それでも店主の気遣いのお陰で、彼の気持ちは幾分か整理をつけることができた。


「確かに、気にしすぎもよくないですね」

「そうだぜ。小さいことばかり気にしてたら、俺みたいにハゲちまうぞ」

「それは……絶対に嫌ですね」

「おい! そこはハゲててもカッコいいとか言って、フォローしてくれてもいいんじゃないのか!?」


 店主がおどけたように大声を上げると、酒場内はどっ、と笑いに包まれる。


 周りの笑い声につられるように、ウィルも声を上げて笑う。

 よく見れば仲間たちも笑っているし、厨房で働いている人も笑っていた。


「……兄さん」


 すると、周囲を見ているウィルにメイプルがそっと囁いてくる。


「私、冒険者になって本当によかったと思います」

「うん、俺も同じことを思っていた」


 昨日までグリフォンの脅威に怯え、元気がなかったスモークウッドの町に賑やかさと笑顔が戻った。


 それを成したのが自分たちの行動の結果だという事実に、ウィルたち兄妹が嬉しく思わないはずがなかった。


「英雄譚みたいな大きなことは無理だけど、これからも目の前の人の笑顔を守るために、頑張れたらいいなって思うよ」

「はい、皆で頑張りましょう」



 今後の目標について兄妹で話し合っていると、


「おいおい、何二人でしんみりしてんだよ」


 ロゼが間に入って来て、二人の話題に乗って来る。


「確かに人助けも悪くないけど、もっと大切なことを忘れちゃいないよな?」

「それは……」

「もちろん、忘れてませんよ」


 ロゼの質問に、ウィルたちは頷き合って最も大事な目標を告げる。


「「世界中を旅して、おいしいものを食べる」」

「ただ食べるだけじゃなく、たくさん食べますのよ」

「ついでに、うまい酒もじゃな」


 捕捉するようにリーリエとロウガも続くと、ロゼが満足そうに頷く。


「最高だ。それじゃあ最高の仲間たちに乾杯だ」


 ロゼが掲げたジョッキに、仲間たちのジョッキが小気味のいい音を立てて次々とぶつかっていった。

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