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普通の冒険者の優雅な朝食

 ――冒険者の朝は早い。


 特に旅を生業(なりわい)にしている冒険者の朝は、日の出と共に行動を開始するのが基本だ。


「んんっ、朝……か」


 空が白み始めたと同時に目を開けたウィルは、身を起こして大きく伸びをする。

 体をほぐすように軽く運動したウィルは、立ち上がって大分火が小さくなった焚き火の前へと向かう。


「ロウガさん、おはようございます」

「ああ、おはよう。流石はウィル、いつも時間通りじゃな」


 人よりも夜目が効き、気配察知能力の高さ活かして寝ずの番をしていたロウガは、やや疲れの見える顔に安堵の笑顔を浮かべる。


「やれやれ、それじゃあメシができるまで少し休ませてもらおうとするかの」

「はい、できましたら呼びますから、ゆっくり休んでください」

「そうさせてもらうよ」


 ロウガはゆっくりと手を上げると、ウィルに背中を向けて焚き火から少し離れた場所に横になる。


 ほどなくして気持ちよさそうな寝息が聞こえてきたのを確認して、ウィルは焚き火に薪を入れて火を大きくする。

 火が程よく大きくなったところで、水を入れた鍋でお湯を沸かしながらウィルは朝食作りを始める。


「さて……」


 木製のボールに入れた小麦粉に塩と水を入れて混ぜていく。

 混ぜ続けると粉っぽさがなくなるので、手でまとめて一つにしたところで濡らした布巾をかけて作業を一旦止める。


「とりあえず、昨日の肉を使っちゃうか」


 新鮮なうちに食材を使い切ろうと思ったウィルは、残っていたコッコトリスの肉を切って塩とスパイスをまぶす。

 下ごしらえを終える頃にはボールに入れた生地が柔らかくなっているので、人数分により分けて円形に薄く伸ばしてフライパンで焼いていく。


 無発酵の薄いパンを焼いた後、ウィルは続けてスパイスをまぶした肉を焼いていく。

 静かな朝の森に、ジュージューと肉が焼ける音と、食欲をそそる香ばしい匂いが立ちこみ始める。


 すると、


「ふあぁぁ……お肉の匂いにつられて目が覚めてしまいましたわ」

「ああ、リーリエさん。おはようございます」

「おはようウィル。いい朝ね」


 肉を焼く匂いにつられて起きてきたリーリエが、眠い目を擦りながらウィルの隣に腰を下ろす。


「さて、せっかく早く起きたのだから、気まぐれにお茶でも淹れようかしら」

「えっ、リーリエさんが!?」

「フフッ、こんなこと滅多にありませんのよ」


 思わず見惚れてしまうような優雅な笑みを浮かべたリーリエは、鼻歌を歌いながら茶葉の入った缶を取り出す。


「実はわたくし、料理は全くしませんがお茶だけは淹れられますの」

「そうなんですか?」

「森での食事は栄養を摂るもので、味を楽しむものではありませんでしたからね。せめてお茶ぐらいは楽しもうと、色々試行錯誤したのですわ」

「なるほど……」


 その言葉通り、リーリエは慣れた手つきでお茶を淹れていく。

 温めたポットに茶葉を入れ、沸騰したお湯を注いですぐに蓋をする。


「ここで慌てず、茶葉がしっかり開くまで待つのがコツですわ……合ってますよね?」

「ええ、合ってますよ」


 ウィルに太鼓判を押してもらったリーリエは、茶葉が入らないように気をつけながら二つのカップに均等にお茶を淹れる。


「さあ、できましたわ」


 香りを確認して満足そうに頷いたリーリエは、微笑を浮かべて待っているウィルにカップを差し出す。


「この紅茶は、果実のジャムと一緒に飲むと格別においしくなりますわ」

「わかりました。では、そうしましょうか」


 ウィルは勧められるままに、自作のジャムが入った瓶を取り出す。


「リコの実を煮詰めたジャムですけど、これで大丈夫ですか?」

「ウィルが作ったものなら間違いありませんわ」


 鮮やかな黄色のジャムを見たリーリエは、長い耳を嬉しそうにピコピコと動かしながら紅茶に黄金色に輝くジャムを入れる。


「う~ん、この甘酸っぱい香り……」


 リーリエは香りを十分に楽しんだ後、十分に冷ましてから紅茶を飲む。


「我ながら上出来。ほら、ウィルも早く飲んでみなさいな」

「はい、いただきます」


 期待に満ちた目で見つめて来るリーリエの視線から逃れるようにして、ウィルはジャムを入れた紅茶を口にする。


「うん、おいしい。リーリエさん、本当にお茶を淹れるのが……って、えっ?」

「ふもぉ……」


 ウィルがリーリエの方に顔を向けると、頬いっぱいに食べ物を詰めたエルフが「しまった」という顔をしていた。

 手には今しがたウィルが焼いていた肉を薄いパンで挟んだものが握られており、彼が紅茶を飲んでいる隙に、かすめ取ったことは明白だった。


「…………」

「…………」


 呆れたような目で見つめるウィルに、リーリエは口の中のものをしっかり咀嚼して飲み込むと、


「今日の朝食も最高においしいですわ。流石はウィルといったところですわ」

「はあ、どうも……」


 リーリエからの称賛の言葉に、ウィルは適当に相槌を打ちながらパンの枚数を数える。


「ひぃ、ふぅ……」


 残りがちゃんと人数分あるのを確認したウィルは、


「じゃあ、リーリエさんの朝食は、それで終わりということで」


 容赦なくそう言い捨てると、まだ食べたそうなエルフの手に届かないところにパンを置くと、残りの肉を焼いていった。



 朝食はコッコトリスの肉を焼いたものを薄いパンとピクルスで挟み、仕上げにもう一度焼き直すホットサンドだった。


 あそこからさらにもうひと手間加えるという事実を知ったリーリエは、おいしそうに料理を食べる仲間を見てショックを隠し切れない様子だったが、そこはエルフとしての矜持なのか、最後まで気丈に自分で淹れたお茶を振舞っていた。

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